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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
197/321

197.美容師~マリーに助けを求める

 

 僕が次に頼る人物、それはこの人しかいない。

 つい最近、僕の守護天使に昇格した冒険者ギルドの受付嬢こと、マリーだ。

 

 マリーがいないとしても、キンバリーさんかギルマスはいるかもしれないし、ギルドにたむろしている冒険者が助言をくれるかもしれない。


 知識のない僕よりかは、その内の誰だって頼りになるのではないか。

 そんな希望を抱き、冒険者ギルドに到着。

 建物に飛び込むなり、


「マリー!! マリーはいる!?」


 中を確認するよりも先に口が勝手に言葉を発していた。


「はい!? わたしはここにいます!」


 その声は僕の目指した受付カウンターではなく、斜め左方向から返ってきた。

 ちょうど2階から降りてきたようで、階段の前に立ち、書類を胸の前で握りしめている。


「マリー! お願い! 助けて!!」


「えっ? なんですか? どうしたって言うんですか?」


 必死の形相で駆け寄る僕に、ちょっと引き気味ではあるが理由を聞きだそうとするマリー。

 けれど僕にそんな余裕があるはずもなく、腕の中に抱えたものを指し出し、


「助けて! 早く! お願い!」


 その3つの単語だけを繰り返す。

 

 いきなり助けてと言われ、黒い物体を差し出されたマリーは、さすが冒険者ギルドの受付嬢だと言えるのかもしれない。

 取り乱す僕と目の前の黒い物体を交互に見て、ひとつ深呼吸をし、


「わかりました。ソーヤさん、わたしがなんとかしますから。助けますから。ソーヤさんのお願いなら断るはずがありません。だからまずは落ち着いてください。

 それで、何をしてほしいのか言ってください。わたしは何をすればいいのですか?」


 豹の子供を支える僕の両手にそっと手を当てて、まっすぐに僕の目を見て冷静に聞いてくる。

 そうしてくれたお陰で、僕は少しだけ理性を取り戻すことができた。


「まずは深呼吸をしてください。焦っている時は深呼吸ですよ、ソーヤさん」


 にっこりと微笑んで自分の胸に手の平を当て、マリーがお手本を示すかのようにスーハーと深く呼吸をする。

 それにシンクロさせるように僕も何度か繰り返し、5回繰り返したところで、


「もう大丈夫。ありがとう、マリー」


「いえいえ、どういたしまして。それで? どうしたんですか、そんなに焦って。ソーヤさんらしくないですよ?」


 僕らしくない?

 僕って焦って取り乱すイメージとかないのだろうか?

 そんなことを考えられるくらいには余裕がでてきたみたい。


 周りを見回してみると、誰もが僕に注目している。

 無理もないだろう。

 いきなりギルドに駆け込んでき受付嬢の名前を呼び、「助けて!」と繰り返し叫んでいたのだから。


 そんな僕の戸惑いに気がついたのか、マリーが周りにむけて、


「大丈夫ですから。皆さん、わたし達のことはどうか気になさらず」


 笑顔でそう言い、これ以上こちらに注目するなと言外に忠告する。

 それを1番に感じ取ったのはシェミファさんで、受付嬢仲間とアイコンタクトをとり、冒険者達の意識を自分達に向けようと率先して話しかけてくれている。


「さ、これで大丈夫ですよ。それで何があったんですか? ここで話しますか? それとも2階のギルマスの部屋に移動しますか? 今なら誰も使っていませんから、そうしましょうか」


 僕の返事を待つことなくマリーに背中を押されて階段をあがり、ギルマスの部屋に連れていかれた。 



 ギルマスの部屋に通されると、椅子に座る間も惜しく口早に説明をする。

 

 ニムルの森のそばでこの黒い塊のようなものを拾ったこと。

 どうやら生き物のようだけど、腕の中で今にも死にそうであること。

 自分ではどうすればいいのかわからなく、マリーを頼ってここまで来たこと。


 マリーは僕の短い要点だけの説明を聞くと、恐々と黒い塊に手を伸ばした。


「触れても危険はないですよね?」


「大丈夫だと思う。少なくても、僕はなんともないし」


 黒い生物は身を守る様に丸まっているので、長い毛で顔を隠してしまっているので、片手で抱き直して、マリーによく見えるように毛をどかした。


「この子、魔物じゃないよね? なんだかわかる?」


「……わたしも見たことがないです。目は赤くないんですよね?」


「うん、赤くはなかった。確か紫色だったと思う」


「そうですか。それにしても、だいぶ衰弱していますね。この子の親は近くにいなかったんですか?」


「いたよ。いたはいたんだけど……」


 不思議そうに尋ねてくるマリーに、僕は言葉を濁してしまう。


「いたんだけど、どうしたんですか? もしかしてこの子を残して死んでいたとか?」


「……」


「……そうですか。わたしでは病気かどうかはわかりませんが、まずは何か与えてあげないと。

 待っていてください。今、近くのお店でミルクを貰ってきますから」


 小走りで部屋を出ていくマリーを見送り、腕の中の生き物を撫でる。

 この子は親に捨てられていた。

 そう言おうとしたんだけど、その言葉は口の中で転がるだけで外には出てこなかった。


 この子の小ささで、まして人間である僕の言葉を理解できるはずはないのだけど、それでもこの子のいる所では口にしたくはなかったんだ。

 

 聞かせたくはなかった。

 例え、それが真実だったとしても。





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