191.美容師~シザー7を師匠に見せる
「ソーヤ、そのシザーとやらを見せてくれるかい?」
そう、師匠にならいいか、と思って女郎蜘蛛との戦闘でキモとなった、シザー7のことも話したのだ。
どうせケネスさんやシドさん達にも見られてしまったことだし、そのうちマリーの耳にも入るかもしれない。
いつかはバレる可能性があるのであれば、せめて自分の口から伝えておいた方がいいかと思ってのことだ。
テクニカルスキルについては説明が難しかったので、細かくは話さなかった。
女郎蜘蛛の糸を何故かはわからないがシザーで切れたとだけ伝えた。
その際に緑色の光を発したと補足して。
ちなみにシザー7は父親の形見として受け継いだので、どこで手に入れたのか等の由来は不明とすることにした。
だって、髪の毛を切るための道具だとは言いずらかったので。
シザーケースからシザー7を抜いて、刃の方を持ち師匠に手渡した。
師匠はシザー7を受け取り、そのままじっと見つめていたが最終的には首を傾げて僕を見た。
「これはどうやって使うものなんだい?」
どうやら使い方がわからなかったようだ。
シザー7を返してもらい、親指と薬指を穴に通し、ゆっくりと開閉して見せる。
「ほぉ、ずいぶんと鋭い刃がついているんだねぇ。けれど、そんなに薄い刃で女郎蜘蛛の糸を切ったというのかい?」
「ええ、見た目よりも切れ味は鋭いんですよ。それに緑色の光がなんらかの効果を及ぼしていたと思うのですが」
「緑色の光ねぇ……ソーヤ、あんた今、それをできるかい?」
できるかい? と聞かれれば、それは僕にもわからない。
いつもあの光が発生するのは切羽詰まった状況というか、追い詰められた戦闘中でしかなかったから。
師匠に促されて右手からシザー7に魔力を流してみる。
けれど、どうやら光は発生しないようだ。
「カット」
小声で呟いてみるが、反応はなし。
「ダメみたいです」
「そうかい……さっきわたしも魔力を通してはみたんだけどね、弾かれたというかうまくいかなかったんだよ。だから個人認証のようなものでもあって、あんたならできるかと思ったんだけど……どうやら何かしらの発生条件でもあるのかねぇ」
個人認証か……テクニカルスキルについては、リリエンデール様はシザー7自体のスキルだと言っていたし、しかも僕が使用するからこそのものだとも言っていた。
だとすると個人認証のようなものは確かにあるのかもしれない。
他人に使わせたことはないけれど、たぶん僕だけが使える道具だということだ。
「まぁ、魔道具っていうのはそういうものも多いのは事実だよ。優れた魔道具は人を選ぶとも言うしね」
考え込んでいる僕に、師匠が付け加える。
「実際にこの目で見ないことには確証はないけれど、緑色の光を発したということは、風属性の摩道具と見て間違いないだろうね。
その刃に風属性を纏うことによって切れ味を増したと想像できる。だから女郎蜘蛛の糸に触れても粘着力に負けなかったんだろうね」
「ソーヤさんは水属性が得意だと聞いていましたが、属性の異なる風属性の魔道具を使用することもできるのですか?」
師匠の説明を聞いていたマリーが質問をすると、
「そうだねぇ、一般的な魔道具というかわかりやすく魔法剣のような武器で例えると、剣自体は魔力を通すことで属性を付与することが可能なだけであるから、使用する者の得意な属性が発生するのが当たり前になるので、わたしやソーヤなら間違いなく水の魔力を纏った剣になる。
ただ稀にだけど、予め武器自体に属性が付与されている物が過去の遺物として見つかることがある。もちろんその属性を得意とする者が使用することで威力を増すし、まったく才能のない者が使用すれば発動しないこともある。
そこから推測する限り、間違いなくこの魔道具は風属性が付与された魔道具なんだろうね。
それでソーヤには水属性だけでなく、風属性の才能もあるんだろう。
それはこれから調べてみればわかることなんだがねぇ」
師匠が属性を調べる時に使用した透明な水晶玉のようなものを取り出して渡してきた。
「ソーヤ、何も意識しないで魔力を込めてみな」
言われるままに魔力を込めると、水晶玉の中心部に青色の光が灯る。
「やっぱりソーヤは水属性が得意なのは間違いないね。
もしかしてわたしの見立てが間違っていたのかとも思ったけど、それはなさそうだ。なら、今度は風を意識して魔力を通してみるんだよ」
風、風か……風を意識しろと言われても、どうすればいいものか。
僕にとって馴染みの深い風といえば、髪の毛を揺らす風。
すなわち、髪の毛を乾かす為にドライヤーで風を送る時。
水晶珠玉握った指の親指と人差し指の先端を触れさせてできた円をドライヤーの吹き出し口に見立てて、スイッチオン。
体の中の魔力を噴き出させるような感じで……。
「ふむ、緑は緑だがちょっと変わった色になったねぇ。でも水程ではないが風の才能も確かにありそうだ」
師匠が手を出してきたので水晶玉を渡すと、水晶玉の中の光を覗き込み、首を傾げている。
「普通の緑色ではないのですか? 何か問題でも?」
マリーの問いかけに、
「いや、緑の光なのだから風を表しているのは間違いないんだが、わたしの見る限りでは少し色が薄いような気がするというか……微かに温かみを感じるというか」
ああ、それは僕のイメージが髪の毛を乾かす為の風だったからかもしれない。
温風を噴き出させる感じだったし。
師匠とマリーはああでもない、こうでもないと二人で話し込んでいたが、僕はドライヤーを説明する自信がなかったのでそのまま放置することにした。
結果、師匠から風属性の魔法も習うことになり、僕は水属性が得意な風属性も使える魔法使いになるようだ。
ますます使用する属性が師匠と被ることになり、なんだか嬉しそうな師匠。
僕としては、魔法で温風が出せるようになれば髪の毛を洗った後に髪の毛を乾かすことができるので地味に嬉しい、なんてちょっと違うことを考えて自然に笑顔が浮かんでしまう。
上手くすれば、水属性の魔法で髪の毛を洗い、風属性の魔法でブローができるようになりそうだ。
今度、リリエンデール様で練習させてもらおうかな。
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