186.美容師~ケネスから2個目のお願いごとを聞かされる
パーティーごとの選んだ報酬は以下の通りだ。
『狼の遠吠え』
ケネスさん(魔核結晶1個、鋏角1本)
ランドールさん(足爪1本、眼球1個)
カシムさん(足爪1本、眼球1個)
『千の槍』
シドさん(足爪1本、眼球1個)
ランカ(足爪1本、眼球1個)
ハスラさん(足爪1本、眼球1個)
タイムさん(足爪1本、眼球1個)
『炎の杯』
トイトット(眼球2個)
シンダルさん(足爪1個)
クミンさん(毒液、糸)
保留分(鋏角1本、足爪1本、筋繊維、外皮)
本当に僕以外はすでに分配を終えていて、僕の本来の取り分としては保留分から鋏角1本が与えられる予定だったとか。
もしくは他のものが良ければ保留分から選ぶことができたらしい。
というよりも、ケネスさんのパーティーが持っている物を合わせれば全ての物から選ぶことが可能だったのだ。
ケネスさんはその仕組みを利用して、僕との交渉材料にするつもりだったらしい。
「さっきグラリスっちも言っていたっすけど、基本的に複数パーティー合同で依頼を受けた際に獲得した報酬は平等分配が基本っす。とはいっても活躍した功績や個人のランク等も大きく関係してくるっす。
今回のメンバーでは俺っち達『狼の遠吠え』がCランクで『千の槍』とタイムっちがDランク、『炎の杯』とソーヤっちはEランクっすからどうしても報酬の分配は俺っち達『狼の遠吠え』や『千の槍』が優先されるっす。
ソーヤっちやトイトットっち達からしてみればズルいと思われるかもしれないっすけど、冒険者ギルドとしてもこの仕組みは認めているし、実際に俺っち達はそれだけの活躍はしたとそこは主張させてもらうっす」
カシムさんは自分達に有利な分配だったと言いはしたが、僕はもちろんトイトット達もそれをズルいとは思わない。
平等という言葉は良い言葉だとは思うが、実力主義の冒険者においてはそれだけではダメな気がするし、当たり前な仕組みだと思う。
「ただっすね、ソーヤっちだけが今回例外となるっす。
ケネスがソーヤっちに好きなものを選ばせる為だって言うっすから、俺っちも口出しせずにいたっすけど……ケネスのコレは本当に一種の病気のようなものなんすよ。悪気がなかったとは言わないっすけど、運が悪かったと諦めてほしいっす」
カシムさんが改めて頭を下げてきたので、本当にもう気にしていないと再度告げる。
「それでっすね、ソーヤっちの取り分としては鋏角1本ということにして、ケネスから鋏角1本で計2本、俺っちとランドールから足爪を1本ずつで計2本。これで分配は終了でOKっすか?
残りの部位の足爪1本と筋繊維に外皮、この3つに関しては欲しい奴がいればこの場で交渉を始めたいと思うっす。誰か異論はあるっすか?」
カシムさんが話を纏めるように皆を見回すと、誰もが問題ないというように「ああ」とか「はい」とか返事をした。
というわけでまた交渉の時間になる……はずだったのだが。
「ちょっと待ってください! 私のもう1つのお願いを聞いてもらうだけくらいは許してもらえませんか?」
ランドールさんに肩を抱かれて黙り込んでいたケネスさんが再び動き出す。
「ケネスよぉ、今日の所はおとなしくしておいた方がいいんじゃねーか? ソーヤだって許してくれたわけだし、これ以上何かをするってんならさすがに俺だってお前のことを庇いきれるかどうか――」
「別に私のことを庇ってもらう必要はありません。
確かにソーヤ君のことを騙そうとしていたことは謝ります。というか、別に騙すつもりなんてなかったんですよ。
ただ私は知りたかっただけなんです。彼の、ソーヤ君の強さの秘密が知りたくて……」
「だからってよぉ、無理やり聞き出すのはルール違反だろ? 冒険者としても、それ以前に人としてもだ」
諭すように話すグラリスさんに、
「確かにそうですね。それに関しては私が間違っていました。素直に認めて謝罪します。
ただ、ただですね! 私にもう一度だけチャンスを貰うことはできないでしょうか!?
今度は本当に企みも何もありません。私の得た報酬である女郎蜘蛛の魔核結晶の半分を渡すことを条件にして交渉させてもらえませんか?」
ランドールさんの腕を振り切り、こちらに縋りつくように必死に食い下がるケネスさんの悲痛な表情を見ていると、無下にダメだとは言いづらい。
きっとグラリスさんもそうなのだろう。
苦虫を噛み潰すような顔で頭をガリガリと掻きながらも、
「なら、言うだけ言ってみろ。もし変な要求だったらすかさず俺が却下するからな」
ため息まじりに発言の許可を与えていた。
「グラリスさん、ありがとうございます。ソーヤ君もありがとう」
嬉しそうにお礼を言われてしまうが、僕はまだそのお願いとやらを聞いてはいなし、叶えるとも言っていない。
聞く前から断りづらい状況に追い込むのはやめてほしい。
ただ僕の前には鉄壁のディフェンスを誇るマリーがいるので、変に流されてお願いを叶える約束をしてしまう前に止めてくれるだろう。
さすがに周りの皆もケネスさんのお願い興味があるようで、全ての目はケネスさんと僕を交互に行ったり来たりしていた。
そんなケネスさんのお願いがなんだったかというと、内容を聞いた僕は聊か拍子抜けをしてしまう。
「ソーヤ君と模擬戦がしたいんです!」
だって、まさかこんな簡単なお願いの為に女郎蜘蛛の魔核結晶の半分を差し出すというのだから。




