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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
185/321

185.美容師~マリーに助けられる


「ちょっと待ってください……何かおかしいです」


 思わず返事をしそうになったグラリスさんに待ったをかけたのは、僕にとっての守護者ともいうべき、やっぱりマリーであった。


「ケネスさん、さっき言いましたよね? 『私のお願いは女郎蜘蛛の鋏角1本に対してそれ以上の価値がありますか? ないですよね? 誰だって鋏角の方が価値があると思えるはずです』って。

 それならどうしてケネスさんはそんな価値のある鋏角をソーヤさんにあげてしまうのですか? おかしくないですか? 矛盾していますよね。

 それならケネスさん、あなたにとっては『ソーヤさんと2人きりで一日話すこと』が女郎蜘蛛の鋏角よりも価値があるということになります。

 いったいあなたはソーヤさんと何を話すつもりなんですか? いえ……違いますね。そこじゃない、どうしてソーヤさんと話す時間を『一日』という単位で決めるのですか?

 1時間でも2時間でもなく、一日。その一日ってどういう意味ですか? もしかして、一日監禁して逃げられなくするんですか? そこまでして何を話したい……いえ、これも違いますね……わかりました。

 あなたはソーヤさんから何を聞き出したいのですか? たぶんこれが正解ですね。違いますか?」


 ケネスさんの顔には先程までの笑顔はなかった。

 目を見開いて、マジマジとマリーのことを見つめている。

 きっとマリーのたどり着いた言葉通りが正解なのだろう。


 危なかった。

 例え監禁されないとしても、一日と期限を決めて話し合うのであれば、その内容が僕にとって話したくないことだったとしても、延々とそれについて問いかけられれば、いやケネスさんならもっと上手にそれをするのだろう。

 

 それを一日、文字通り24時間続けられたとしたら、僕は全ての秘密を話してしまっていたかもしれない。

 自分の生い立ちやこの世界に転移してきたこと、それに絶対に隠さなければいけない師匠のことさえも。

 

 これは気を引き締めなければいけない。

 もしマリーがこの場にいなかったとしたら……まんまと僕とグラリスさんはケネスさんの策に嵌められていただろう。

 

 本当に危なかった。

 危機一髪どころではない。

 崖っぷちに指先一本でぶら下がっていたくらいの状況だった。


「どうなんですか? 答えられませんか?」


 正解とも不正解とも言わないケネスさんに、逆に今度はマリーが答えを迫る番だった。

 苦り切った顔のケネスさんが口を開こうとしたが、その前に言葉を発した人物がいた。


「ケネスよぉ、またお前の悪い癖が出たんだな? 

 それにしても、策士、策に溺れるじゃねーがあまりいいやり方だったとは思わねーぞ。

 マリーが気づいたからよかったが、お前が本当にそんなやり方でソーヤから何かを聞き出すまで追い詰めていたとしたら……ニムルの街にはお前だけじゃなく、お前達『狼の遠吠え』の居場所はなかったと思えよ?

  そこら辺、ちゃんと考えていたのか? そこまで考えちゃいなかったんだろーが? この馬鹿が」


 グラリスさんに言われてケネスさんはますます落ち込むように項垂れてしまった。

 様子を見守っていたのだろうカシムさんがケネスさんに歩み寄り、軽くそのお尻に蹴りを入れる。


「また何か一人で企んでいるとは思っていたっすけど、今回はちょっとやりすぎだったみたいっすね。

 グラリスっちにソーヤっち、ケネスのかわりに俺っちから謝罪させてほしいっす。もちろん鋏角2本はソーヤっちの報酬として受け取ってくれてかまわないっす。

 それに足爪2本も受け取ってほしいっす。俺っちとランドールが貰うはずだった報酬っすから、遠慮なく貰ってほしいっす。ほんの詫びの気持ちっすから。

 こいつの問題はこいつだけじゃなく、俺っち達全員の問題っす。『狼の遠吠え』としてからの謝罪をどうか受け入れてほしいっす」


 深々と頭を下げるカシムさんの隣には当たり前のようにランドールさんがいて、大きな体を窮屈そうに折り畳み、黙ってその頭を下げていた。

 慌てたようにケネスさんも2人に習って頭を下げる。


「グラリスさんにソーヤ君、騙すような真似をして申し訳ありませんでした」


 3人はそのまま頭を下げ続けていた。

 グラリスさんが顎で僕に行動を促してきたので、マリーの背中から抜け出し3人に近寄る。


「頭を上げてください。僕は謝罪を受け入れます。グラリスさんはどうですか?」


「俺は気にしてない……といえば嘘になるが、ケネスの病気のことはよく知っている。

 それに実際の被害が俺にあったわけじゃねーし、ソーヤが許すと言ってんなら、俺からは何もいうことはねーよ。ただ貸し1にしとくからな。忘れんじゃねーぞ」


「2人とも、ありがとうっす。

 さて、こんな状況になったからには、ケネスのかわりに俺っちが仕切るしかないっすね。それに実際、俺っち達の報酬の分配はほとんど終わっているんすよ。残りはケネスが交渉の材料として使いたいっていうから好きにさせていただけなんすよね」


 そう言って苦笑し、皆の報酬の内訳を教えてくれた。





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