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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
184/321

184.美容師~決断を迫られる


「……変態には指一本ソーヤさんを触れさせません」


 小さな声だが、はっきりとそのマリーの声が皆に聞こえたのだと思う。

 何人かは噴き出すように忍び笑い、他の何人かは困惑が混ざったような視線をケネスさんに送っていた。


「待って! 待ってください! だからさっきから言っているじゃないですか。私は男色家ではありません。きちんと女性が好きな健全な男です。

 だからマリーさん、そんな目で私を見るのはやめて下さい……その、お願いですからやめてくれませんか」


 最後の方は微かに声が震えていたような気がする。

 いったいマリーはどんな目でケネスさんを見ているのだろうか?


 回り込んで確認したいような気持ちはあるが、きっとやめたほうがいいのだろう。

 僕の中の何かが絶対にするな! と叫んでいるような気がする。


 ポーン、


【スキル 危険察知を獲得しました】


 また新しいスキルを覚えてしまった。

 どうやら僕の中の訴えは正しかったようだ。

 このまま後ろで震えていることにしよう。



「それでよー、ケネス。お前が男色家かじゃねーとしたら、ソーヤの一日分の時間は何に使うつもりなんだ? 

 こちらがそれを受けるかどうかはそれ次第だと思うんだが」


 あまりにケネスさんがかわいそうに思えたのだろうか、見かねたようにグラリスさんが助け舟を出す。


「ええ、私の言い方が悪かったようですね。『ソーヤ君の一日分の時間が欲しい』と言ったのは、『私の話し相手としてその時間をいただきたい』という意味です」


「つまりあれか? お前と腰を落ち着けて、一日ソーヤは話をするだけでいいのか?」


「その通りです。それだけで鋏角が手に入るんですよ? どうです? とても簡単なお願いだとは思いませんか?」


 やり手の営業マンのように無害そうな笑顔を浮かべて問いかけてくるが、僕には何か落とし穴があるような気がする。


 だってただ単に話をするだけであれば、僕に対して「話をしましょう」と言うだけでいいのではないだろうか?

 依頼の最中だって色々な話をしてきたわけだし、僕だってケネスさんと話をすることは嫌ではない。


 なので話しかけてくれれば話はする。

 むしろこっちとしても、Cランク魔法使いの先輩として話を聞きたいという願望すらある。


 なのでどこか腑に落ちないのだ。

 さっき獲得したばかりの≪危険察知≫が微妙に仕事をしているような気さえする。


 だから僕はグラリスさんに目配せをした。

 その提案を容易に受けるわけにはいかないと伝えるつもりで。


「どうかしたのですか? 私としては破格の条件のつもりなんですが。もしかして何か気に入りませんか? 

 まさか私と2人きりで話をするのは嫌だとでも? もしそうだとしたら、私としても落ち込まざる負えないのですが……」


 そんな風に問われてしまえば、僕はこう返すしかない。


「そんなわけないじゃないですか。ケネスさんとおしゃべりをするのは僕にとって楽しい時間ですよ。ただちょっと気になるというか」


「ふむ、何が気になるのでしょうか? 私からのお願いは『ソーヤ君が私と2人きりで一日話をしてほしい』ただこれだけですよ? どこか変ですか?」


 変ですか? と問われると、どこも変ではないような気がする。


 ただ何かが気にかかる。

 その何かがわからないから困っているのだが。


「さて、どうしますか? 2本目の鋏角をソーヤ君が手に入れるには私のお願いを叶えてもらう必要があります。

 グラリスさん、私のお願いは女郎蜘蛛の鋏角1本に対してそれ以上の価値がありますか? ないですよね? 誰だって鋏角の方が価値があると思えるはずです。ということは私のお願いを叶えてもらうのと交換条件として鋏角を得るということでいいでしょうか? 

 どうなんですか? もしかしてこんな簡単なお願いを蹴って、この先手に入るかどうかわからない女郎蜘蛛の鋏角をみすみす捨てるというのですか? 

 まさか、この部位の価値を知っているグラリスさんならそんな馬鹿な選択はしませんよね?」


 戸惑う僕達に、ケネスさんが畳み込むように答えを迫ってくる。


 グラリスさんが僕の意志を確かめようとこちらに顔を向けるが、はっきりと拒絶をしない僕の態度が悪いのか、グラリスさんが意を決したように口を開こうとした。


 ダメだ、何故だかわからないがダメな気がする。

 それもビンビンする。


 一見すれば人好きのするケネスさんの笑顔の下には、僕にとっての危険が隠されているような気がするんだ。


 何よりあの目が、見覚えのあるあの目がそれを如実に語っている。


 誰か、誰か僕にとっての正しい答えを与えてくれる存在はいないものだろうか。

 心の中で助けを求めていると、


「ちょっと待ってください……何かおかしいです」


 思わず返事をしそうになったグラリスさんに待ったをかけたのは、僕にとっての守護者ともいうべき、やっぱりマリーであった。




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