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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
183/321

183.美容師~変態に狙われる?


「お願い、ですか?」


「ええ、お願いです。

 ああ、そんなに身構える必要はありませんよ。安心してください。ほんの些細なことですから」


 そう言いながら、笑顔でこちらに歩み寄ってくる。

 ただ、僕としてはその言葉を丸ごと受け入れることはできなそうだ。


 だって、目が、あの目が誰かを彷彿とさせる。

 まるで|碧≪みどり≫色の髪の毛を持つあの女性のように見えてしまい……。


「その、ケネスよぉ。お前は自分のお願いを聞いてもらう為に、女郎蜘蛛の部位をソーヤに選ばせようとしたってことか?

 それがたまたまお前達『狼の遠吠え』の欲しがるものだったから、何も言わずにソーヤに与えようとしたってことなのか?」


「ええ、まぁそんな感じです。

 ちなみにここまで話してしまったので付け加えますが、ソーヤ君が何を選んでもいいように根回しはしてありましたけどね。

 ソーヤ君がグラリスさんと一緒にいる時点であなたが代役に名乗りをあげることは予想していましたし、それなら選ぶものもなんとなく想像がつきますから、何を欲しがるかを考えるのはそんなに難しくはなかったです」


 どうやら僕達はケネスさんの手のひらの上で、思うように転がされていたようだ。

 まさに冷静沈着で、策士といえる存在。


 そのケネスさんがそこまでして望む僕へのお願いとは何か?

 それが気にかかるのだが。


「話はわかった。それで? ケネス、てめーのソーヤへのお願いってのはなんなんだ?

 それを叶えられるかどうかが、この交渉の肝ってことなんだろ?」


「順番は逆になってしまいましたが、こうなったら仕方ないですね。それにソーヤ君の代役はグラリスさんでしたし、このままグラリスさんと交渉させてもらうのもいいかもしれませんね」


「そうは言うがよ……実際にお前のお願いとやらを可能かどうか判断するのはソーヤだぞ? 俺が判断するわけにはいかねーだろ。

 それにお前の願いをソーヤが叶えるのが前提で分配を進めていたんだとしたら、今までの分配は一度ゼロにしてからやり直すべきなんじゃねーか? その、フェアじゃねーだろ? お互いに」


 難色を示すグラリスさんにしばしケネスさんが考え込むように沈黙し、


「別に私はお願いを断られたとしても、部位自体は渡すつもりだったんですがね。ただ単に、今回はソーヤ君からの好印象を得られるだけでも十分でしたので」


「どうせそれをたてにして断り切れない状況を作るつもりだったんだろうが……食えねぇ男だよ、ほんとにお前は」


 グラリスさんが呆れたように細めた目でケネスさんを睨む。


 きっとその片棒を担がされかねなかった状況が目に浮かぶのかもしれない。

 彼ら2人の付き合いは長いようだし、今までもこのようなことがあったのかも。


「かないませんね、グラリスさんには。

 では、せっかく用意した場も壊れてしまったようですし、改めて分配のし直しとすることにしましょうか。

 それについてグラリスさん、あなたに1つお願いがあります。いえ、そんなに難しいことではありません。

 私のお願いが私からソーヤ君に渡す女郎蜘蛛の部位に値するかどうかの判断をグラリスさんにお任せしたいのです。

 きっとソーヤ君は目の前に並ぶ部位の価値を正しく感じられないでしょうし、私以外の第三者が判断してくれるのが一番良いかと」


「ああ、そうだな。それなら俺もアドバイザーとして参加してやる」


「では、改めて始めましょうか。

 とりあえず鋏角1本は初めからソーヤ君に選ぶ権利があったということで、私のお願いを聞く聞かないは別にして確定としましょう」


「一番の功労者であるソーヤが最初に報酬を選ぶ権利があるということだな? ああ、それなら納得がいく。それでいい。ソーヤもそれでいいよな?」


 グラリスさんに同意を求められたので、とりあえず頷いておく。

 ここまでは僕にとって不利なことは何もない。


「では次ですね。確か鋏角をもう1本欲しいのですよね?

 本来であればうちのランドールが手を上げさせてもらうところですが、その権利はすでに私が買い取っていますのでかわりに私が手を上げます。さて、どうしますか? 諦めますか? それとも交渉といきましょうか?」


「回りくどいことをいちいちうるせーな。さっさとお前のお願いとやらを言えよ! こっちはそれを聞いてから決めることにする」


「そうですか? では今度はこちらが遠慮なく。私からソーヤ君にお願いしたいことは、『ソーヤ君の一日分の時間をいただきたい』これですね」


 いつのまにか、ケネスさんの話す相手がグラリスさんから僕にかわっていた。

 2つの瞳が真っ直ぐに注がれているのに気がつき、無意識のうちに体がマリーの背中に隠れるように移動していた。


 盾のように扱われているマリーはといえば、僕の前に両足を広げて立ち、両腕を大きく真横に広げピンと伸ばしている。

 まるで子供を背後に庇う母親のようだ。


 しかも僕にはマリーの背中しか見ることができないが、何やらドス黒いモヤモヤとしたものがその肩口から噴き出しているような……たぶん気のせい、いや目の錯覚なのだろう。

 

 気にしてはいけない、きっと。


「……変態には指一本ソーヤさんを触れさせません」




お読みいただきありがとうございます。


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