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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
179/321

179.閑話 ケネス~交渉を纏める

明けましておめでとうございます。


今年も宜しくお願い致します。



 ギルマスがテーブルを何度も叩き、懇願するような猫なで声を出す。


「おい、頼むからよぉ、俺の相談にのってくれよ。Dランクに上げるだけでも片づけなきゃならん問題があるんだぞ。 

 Eランクまでなら俺の権限だけでもなんとかできたがDランク以上ではそうもいかん。

 あいつのレベルは今回の討伐依頼でいくらか上がっただろうが、たぶんまだ一桁だぞ? Dランク以上になる為のレベルの壁はどうする? 特例にするにしてもあまりにも無理がある。

 無理に押し通して万が一馬鹿貴族共が聞きつけて騒ぎ始めたらどうする? 実力の伴わないDランクが一気に増えることになるぞ! 

 そんなことになったらギルド本部から吊し上げを食らうことになるし、俺一人の手には負えなくなるんだぞ。おい、聞いていんのか?」


 外野から余計な言葉が割り込んでくる。

 うるさいですね。

 ここでは考えが纏まりそうにない。


 私は椅子から立ち上がると扉を開けて部屋の外に出る。

 背後から怒鳴り声が聞こえてくるが、もはや私の耳には雑音以外には聞こえない。


 無視だ無視。

 階段を下りて静かに集中できる所に行こう。


 とりあえず一旦宿に戻るのもいいかもしれない。

 一人で部屋にこもって落ち着き、冷たい果実水でも飲み一度頭をすっきりさせよう。


「おいケネス。用事はもうすんだっすか? そろそろ女郎蜘蛛の部位の分配をしようってランカっち達がうるさいからシドと話をつけてほしいっす。

 『炎の杯』達は騒がずに大人しく待っているっすけど、あまり待たせるのもかわいそうっすし。そういえばソーヤっちはどこにいるか知っているっすか?」


 ギルドの一階で待っていたのか、階段を下りるなりカシムが話しかけてくる。

 部位の報酬か……そうだった、すっかり忘れていたが女郎蜘蛛の部位を皆で分けなくては。


 どこまで考えていたのだっけ……魔核結晶が1個、鋏角が2本に眼球が8個、足爪が8本か。

 あとは筋繊維と剥ぎ取った外皮も多少はあるし、誰も噛まれなかったので確認できなかったが毒も取れたし、破壊された腹部から糸をいくらか持ち帰っていたはずだ。


 やはり私個人としては魔核結晶か眼球が欲しいな。

 カシムには鋏角か足爪でランドールには……魔核結晶か足爪だろうな。


 今回はうちと『千の槍』+タイムさんに『炎の杯』とソーヤ君で分けることになるからその取り分の折衝が必要か。

 滅多に手に入らない女郎蜘蛛の部位だけに、取り分けも面倒なことになりそうだ。


 それを仕切るのは、やはり私の役目になるだろう。

 まったく悩み事が尽きない。

 今の私はそれどころではないというのに。


 待てよ……女郎蜘蛛の部位報酬か。

 ソーヤ君はどの部位を欲しがるのだろうか?


 もし彼の欲しがる部位を優先的に渡すことができたら……間違いなく私の評価は上がるはずだ。

 例の件の交渉にも使えるかもしれない。


 そうとなれば根回しが必要になるな。

 身内の2人とあまり活躍しなかった『炎の杯』はいいとして、シド達『千の槍』とタイムさんの説得は欠かせない。


 ソーヤ君に会うまでになんとかしなくては。

 やるべきことが決まり、私の脳はいつもの調子を取り戻す。


 テーブルについているシドに駆け寄り交渉を持ち掛けた。

 昨日と同じく鋏角と魔核結晶が欲しいとランカさんが横から文句を言ってくるが、あくまでソーヤ君に先に選ばせるだけだと回りくどく説得する。


 足爪8本に眼球8個、これだけで人数分はいきわたるし、他にもまだまだあるのだ。

 別に報酬の部位を渡さないとは言っていないし、難しい言葉をたくさん使われて面倒になってきたのだろう。

 

 最終的には貰えるものが貰えればなんでもいい、任せる、と言わせることができた。

 これだから脳筋相手は楽だ。

 こちらはランドールで慣れている。


 それにもしかしたら、最初から特に欲しいものもないのかもしれないな。

 ランカさんがあげた2つの部位は中でも高額で取引される部位だ。

 最初からお金に換えるのが目的とみた。


 何を貰っても有効活用できずに、結局は売り払ったお金で高い酒でも買って浴びるように飲みつくす姿が目に浮かぶ。

 一応シドには見張っておくように助言しておこう。


 タイムさんはあまり活躍していないので自分は足爪1本でいいと言ってくれたし、トイトット君は昨日の約束で納得してくれている。

 他のメンバーは余ったものでいいとのこと。

 

 確かにどの部位を貰っても売ればかなりの金額になるので、その売却したお金で欲しいものを買えばいいのだ。

 ある程度の物は買えるだろう。


 あとはシドか。

 さっきから無言を貫き、うんともすんとも言わない。


 彼はランドールやランカさんと同じ脳筋の部類に入るのだが、彼らとは少し違ってたまに独自の発想をしてくるので予想しづらい。

 さて、どう上手く誘導していくかと頭を悩ませているとシドがポツリと一言。


「ランドールを蹴った時に履いていたブーツをダメにした。代わりのブーツを用意してくれるのなら、報酬の分配に文句はない。お前に任せる」


 ……悩む必要はなかったようだ。

 私は2つ返事で引き受けて全ての交渉を終わらせた。

 

 これで準備万端。

 あとはソーヤ君の居場所を探すだけ、といったところで手がかりが向こうからやってきた。

 なんという好都合。


 わたしは受付嬢を捕まえてソーヤ君の居場所を聞き出すと、皆に分担して部位を持ってくるように声をかけてギルドを飛び出した。

 

 待っていてくださいね、ソーヤ君。

 今、私が行きますよ。





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