177.閑話 ケネス~ギルマスに相談される
その後、早く部位の分配をしようとうるさいシドやランカさんを宥めすかし、カシムとランドールの言葉は黙殺し、タイムさんにはひたすら謝り、トイトット君には火属性の魔法を教えてあげるからと誘惑し、翌日まで引き延ばすことにした。
ソーヤ君がいないところで勝手に分配してしまうのには気がひけた。
皆もその気持ちがわかるからこそ、渋々とだがわりと簡単に説得されてくれたのだと思う。
普通なら無理だ。
この場にいない奴が悪い、で終わり。
余ったものをギルドに預けて、平等に分配したとギルド職員に証言してもらうのが一般的。
ただ、今回だけは駄目だ。
私はソーヤ君に貸しを作りたいのだから。
私のお願いを断られない為にも、外堀も内堀も埋めまくりたい。
ソーヤ君はあの受付嬢に弱いみたいなので、できれば彼女の協力を仰ぎたいというズルい企みもあったのだが、今の私にはそんな気持ちは微塵もない。
彼女は敵に回してはいけない。
無理に利用してもいけない。
この町で冒険者を続けていきたいなら決してだ。
翌日、冒険者ギルドでソーヤ君が来るのを朝早くから待っていた。
ギルマスに聞いたところ、普段ならすでに来ている時間になっても現れない。
ということは今日は用事があって、別の場所に出かけているのだろうか?
こんなことなら、女郎蜘蛛の部位を報酬として分配することをきちんと伝えておくべきだった。
自分の迂闊さを責めてはみるが、受付嬢に連れていかれたソーヤ君は見つからなかったし、帰り道は質問内容の厳選で頭の中がいっぱいになりそれどころではなかった。
仕方がない。
彼が行きそうな場所を探すとしよう。
かといって、彼の交友関係等はほとんど知らない。
数日間の会話の内容は戦闘スタイルや魔法に関することばかりだった。
ことごとく失敗だらけだったと反省する。
落ち込んでいると、2階から降りてきたギルマスが手招きしているのに気がついた。
呼ばれて階段を上がり、ギルマスの部屋に通される。
相談があると言われたが、それはやはりソーヤ君のことだった。
どこまで聞いている? と問われたので、レベルのことですか? と答えたら、それに関して困っているとため息交じりに呟かれた。
ソーヤ君の冒険者ランクはEランクだ。
まだ冒険者になりたてにもかかわらず、こなしている依頼は討伐系が多く、マッドウルフ2匹をソロで倒した経歴があるらしい。
私が目をつけるだけのことはある。
やはり将来有望な冒険者だ。
自分のことのように嬉しくなってしまう。
そして同時に、ギルマスが何に困っているのか理解できた。
今回の討伐依頼の最中でも、Eランクの魔物の土蜘蛛相手にソロで十分戦えていた。
Dランクのシドやランカさんとハスラさん、Cランクのカシムやランドールと比べてしまえば幾分見劣りはするが、シドに関してはすでにCランクに片足を突っ込んでいると言ってもいいレベルだ。
トイトット君達も十分すぎる程頑張ってはいたが、ソーヤ君と比べてしまうとまだまだ個人の技量が足りない。
ということは、だ。
ソーヤ君は十分Dランク相当の実力があると言える。
しかも、Bランクの魔物である女郎蜘蛛と1対1の状況でも対応しきれてしまった。
もちろん倒し切るほどの決定力はないが、あの状況では時間を稼ぐだけでも十分だ。
それに他の誰もが対応しきれなかった女郎蜘蛛の糸を捌ききったのは、まぎれもなく彼だ。
彼が糸を無力化してくれたからこそ、ランドールとシドが自由に動けた。
実際ランドールは、彼がいなければ死んでいただろう。
私はそれを目の前で見ている。
誰よりも理解している。
戦闘タイプの前衛職としてはDランクには足りない。
では後衛職として見ればどうだ?
わたしとソーヤ君……自慢ではないが負けるつもりはない。
魔法だけに関してはだ。
ならば前衛後衛関係なく、1対1でソーヤ君と戦うことになったら……?
あのスピードで攪乱され、あの独創的な魔法を使い攻撃をされたら?
何よりあの魔道具……果たし私は勝てるのだろうか?
100%勝てると断言するだけの自信がない。
私には彼について知らないことが多すぎる。
ただ唯一彼よりも明らかに勝っているもの、それは冒険者としてのレベルだ。
彼のレベルは2、対して私のレベルは22。
今回の依頼でいくつかは上がっているだろうが、二桁に届くかどうかといったところだろう。
それだとしても倍以上だ。
そのステータス差だけはどうしても縮まらない。
ならば余裕で勝てるのではないか?
そう聞かれて頷けるはずなのに、何故か私は首を縦に振ることを躊躇してしまう。
わからないのだ。
彼が関係すると全てがわからない。
きっと彼には秘密がある。
それも私が知らない秘密だらけだ。
知りたい。
知りたい。
知りたい!
気になる。
気になるんだ!
私が知らないことを知りたいんだ。
そうすれば、きっと私は今よりも強くなる。
もっと高みに昇れるはずだ。
知ることは力だ。
知識は窮地を必ず救ってくれる。
私はこれまでそうして生きてきた。
そうして生き延びてきた。
そうとなれば、こんなところにいる場合ではない。
ぐずぐずしていられない。
早く行かなければ―――――
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