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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
168/321

168.美容師~プレゼントをもらう

 

「ソーヤ君……何をしているのかしら? あの……よくわからないけれど、恥ずかしいのだけど」


 瞳を潤ませて見上げてくるリリエンデール様に対して、急に自分のしている行為に気が付き、恥ずかしさのあまりに後ろに飛び退った。


 意識してスキルを使ってはいないが、たぶんこの世界に来てからの最速の動きだったと思う。

 無意識に頭を撫でいてたのか。

 

 いつのまに近づいたのだろうか?

 それすらもわからないし、覚えていない。

 数歩分の距離を、僕は瞬間移動でもしたのだろうか?


「いや、あの、なんというか……すみません。不敬でしたよね」


 しどろもどろに謝る僕に対して、リリエンデール様はぽーっとしたように顔を赤くして、


「ええと、うん、あの、その……うん、ちょっとびっくりしただけ、大丈夫よ。不敬だなんて思ってないわ。うん、大丈夫大丈夫」


 ぱたぱたと手を振って、大丈夫を繰り返す。

 手の平には爪が刺さった跡があり、血が滲んで赤くなっていた。

 それを見つめる僕に気がついて、ささっと背中に両手を隠すリリエンデール様。


 そんなリリエンデール様を見ていたら、体の内側を温かなモノが駆け巡り、外へ外へと向けて満たされていくような感じがしてきた。


 あの淀んだ黒く痛みを発するナニカは、いつのまにか押し流されて消え去っていた。


 僕は……彼女を疑わなくてもいいんだ。

 この女神様は、僕の信頼を受け止めてくれる存在なんだ。


 それがわかると、自然に笑顔が浮かんでいた。

 鏡を見なくてもわかる。


 だって、目の前にいる女神様の顔がそれを証明してくれている。

 太陽の光を受けて満開に開く花のように、僕を見て素敵な笑顔を浮かべてくれているのだから。


「さて、ずいぶんと長く引きとめてしまったわね。いくら向こうでの時間がここよりも大分遅いとはいえ、そろそろ夜が明ける頃だわ。下の世界に帰すわね。

 何か、言い忘れていることはないかしら? 何か頼みたいことでもいいのよ? 今回はずいぶんとソーヤ君に嫌な思いをさせたと思うし」


 申し訳なさそうに目を伏せて、指先を顔の横に垂れ下がる緑色の髪の毛に巻きつける。


「特にないですね。僕も恥ずかしい所をお見せしましたし、今回の件はお互い様ということにしませんか?」


「お互い様か……うん、それでいいわね。なら喧嘩両成敗ということにしましょう!」


 自信満々に言いきるのだが、僕達は喧嘩をしたわけではないし、どちらも成敗されていないので、間違った使い方だと思うのだが、満足そうにしているリリエンデール様を見ていると、そんな些細なことなどいいかと思えてしまう。


「では、また何かあれば呼んで下さい。僕からは呼べないので、その時を楽しみにお待ちしています」


 軽く頭を下げて別れの言葉を告げる。

 すると、


「あっ、そうね。ソーヤ君からもわたしに連絡を取れるようにすれば便利よね。それに……」


 頬に手を当てて宙を睨み、何かを悩み始めた。

 僕からも連絡を取れる手段があるのか?


 もしあるならば、かなり便利になるのは間違いない。

 一方的に呼び出されるのを待つだけよりかは、気持ち的にも余裕ができるし。


「うん、そうね。決めたわ。今回のお詫びの意味も込めてソーヤ君には特別待遇をしてあげましょう!

 それに、そうだわ。上手くいけばレベルが上がらないせいのステータスの低さもカバーできるかもしれないし」


 両手をパンっと打ち鳴らし、「よしっ」と小さくガッツポーズして気合いを入れている。

 

 なんだなんだ?

 いったい何を決めたというんだ?

 何が始まるのだろうか?


 ちょっとだけ怖さがあるのは、相手がリリエンデール様だからなのだろうか。

 戸惑っている僕を招き寄せ、リリエンデール様は右手の指先に巻きつけていた髪の毛の中から、「えいっ」と可愛らしい掛け声と共に1本引き抜いた。


「ソーヤ君、右腕を前に出して」


「えっと、こうですか?」


「ん、そのままじっとしていてね」


 抜いた髪の毛を僕の右手首辺りにくるくると巻きつけ、


「これでよしっと」


 呟いて、いつものように指先を向け、クルクルクルクルー。

 すると、ふぁーーーーーと巻き付いていた髪の毛が緑色の光を放ち、手首に吸い込まれるように消えて見えなくなった。


「はい、おしまい。これでいいわ。わたしからのプレゼントよ。大事にしてね」


 ポンポンと光の収まった辺りを叩かれるが、何が何やらさっぱりだ。

 辛うじて理解できるのは、僕がリリエンデール様から何かしらのプレゼントを貰ったということだけ。


「あの、ありがとうございます?」


 とりあえずお礼を言わなければと考えてしまうのは、僕が根っからの小心者だからなのだろうか?

 それとも自らを清く正しい者だからと言ってしまってもいいものか。


「いいのよ、いいの。

 よくよく考えてみれば、ソーヤ君が髪の毛を可愛く結ってくれたおかげであのお方から貰えた寵愛だしね、少しだけどソーヤ君にもお裾わけということで。

 まぁ、気にしないでね。わたしからのほんの気持ちだから」


 お裾わけ?

 ほんの気持ち?


 目に見えないし理解できていないから、どの程度の気持ちなのかが気になる。

 いや、気にしてはいけない。

 ヤツがやってきてしまう。


 そうだ、説明を。

 当事者に説明をしてもらおう。

 ということで、プレゼントの内容を教えてもらうことに。




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