164.美容師~女神様に魔法を見せる
「リリエンデール様、《回転》スキルのことですよね? ユニークスキルの」
「ああ、そう。そうだったわね。それでどうなのかしら? 何か面白い変化はあったの?」
問いかけている癖に、まったく聞く素振りがないので腹が立つ。
「変化というかなんというか、面白いかどうかは別にして、僕にとっては使い勝手のいいスキルですよ」
「へー、例えば?」
「前回お話したように、魔物の攻撃を受け流すというか弾くことができますし、あとは今回の戦闘時に感じたのですが、魔法にも《回転》が効果を示したような気がします」
「魔法にも? ということは手で触れていないモノにも《回転》スキルが効果を及ぼしたということ?」
「いや、手で触れていないかどうかというと、判定はグレーになるような気がするというか――」
「なになに? 面白そうね。ソーヤ君、そこのところ詳しく!」
興味がなさそうだったリリエンデール様の目に、キラキラとした輝きが宿るのがわかった。
とりあえず、僕の目論見は成功したようだ。
「水属性の魔法に『アクアカッター』という魔法がありますよね?」
「ええ、あるわね」
「その魔法なんですが、僕には上手く発動できなくて、ちょっと人とは違う『アクアカッター』になっているんですけど」
「ふーん、どのように?」
「端的に言うと、真っ直ぐに飛ばずに、途中で軌道が曲がります」
「それはわざと曲げているの? 何か意味があるのかしら? 相手を惑わせる為とか?」
「いえ、僕の思い浮かべるイメージに問題があったらしく、勝手に曲がるんです。
曲がるだけではなくて、撃った本人に向かって戻ってくる状態で……おかげで一度死にかけました」
「それは……危ないなんてものではないわね。使わないで封印対象なんじゃないの? そんな魔法。
心配だわ、わたし。この際、間違って使えないように封印しときましょうか」
目を細めて指先を向けてくるので、慌てて両手を突き出しやめてもらう。
危なく僕のオリジナル魔法が封印されかねないところだった。
「で、ですね。改良を加えて編みだした魔法があるのですが、その魔法に《回転》を使うと威力が増しているような気がしていて」
「『アクアカッター』に《回転》を使うの? ドリル的な? うーん、上手く想像できないのだけれど……もう少しわかりやすく、詳しく説明してくれる?
いえ、いいわ。ここで見せてちょうだい。説明されるよりも見た方が早いわ、きっと」
さ、やってやって、と急かされたので、立ち上がり右に移動して離れつつ背中を向ける。
この場所なら、戻ってきてもリリエンデール様には当らないだろう。
軌道を確認し、魔言を唱えて魔法を発動させる。
『大気に宿るマナよ、我が呼び声に答え、刃となりて敵を撃て。アクアブーメラン』
生み出したくの字型の刃に持ち手部分を作り、右手で掴んで肩の上に持ち上げた。
ひんやりとした冷たい水の感触が心地いい。
調色は……今回はいいか。
「では、いきます!」
「いや、いやいやいやいや、ソーヤ君、どうして魔法を掴んでいるのかしら? それって本当に『アクアカッター』なのかし――」
後ろでリリエンデール様が何か言っているが、集中しているので今は無視させてもらって、振りかぶっていた右手を振り降ろした。
「って、投げたし!」
ガタンと背後で椅子の倒れる音がする。
そちらも気にはなるが、三日月型の魔法を目で追いかけなくてはいけないので目が離せない。
「ソーヤ君! ソーヤ君ってば! 聞いているの?」
「聞いていますよ! 聞いてはいますけど、ちょっと黙っていて下さい。集中が乱れると見失ってしまいそうで」
「見失う? いったい君は何をしているの? さっきの魔法はなんなの? 水属性の魔法で透明な何かを作っていたみたいだけど、それを投げたの?
ねぇ? 投げたならソレはどこに飛んで行ったの? 結局《回転》はどうしたの? ねぇ? ねぇねぇ? ねぇってば!」
あー、もうっ。
うるさいなぁ。
子供じゃないんだからちょっと黙っていてもらえないだろうか。
僕は今、それどころではないのだ。
右に左にと位置を移動しつつ、折り返してきた軌道を確認し、到着地点を見極める。
リリエンデール様が騒がしいので、水の刃を一瞬見失ってしまったじゃないか。
こんなことなら、やっぱり調色でわかりやすいように色を付けておくべきだった。
後悔するが今更遅い。
《観察》と《集中》を付けたして、《身軽》も安全の為に起動させる。
目を凝らしタイミングを計り、
「ここだっ!」
たったっと、2歩助走をつけて宙に飛び上がり、なんとか右手でキャッチ。
バシンッと手ごたえを感じて一安心だ。
失敗しなくてよかった。
捕まえた瞬間にいくらか水が飛び散ってしまったのか、一回り程刃が小さくなっていた。
「今のが通常時の『アクアブーメラン』です。では次に《回転》を使った《アクアブーメラン》を撃ちますね?」
「ソーヤ君……申し訳ないけれど、わたし、まったくついていけていないわ。
とりあえず見せてくれと頼んだのはわたしなのだけど、きちんと説明をしてから実技に移ってくれないかしら?」
見た方が早いって言うから見せたのに、やっぱり説明してくれときたか。
けど、《調色》で色を付けないと、見ていてもわかりづらいのは確かだ。
実際にやってみて自分でもそう思えた。
それに切り裂く対象を用意しないと、切れ味というか威力が変わったかどうかも判別しづらいか。
僕にも反省点は多かった。
きちんと説明してから実技に移ろう。
リリエンデール様に検証してくれるように頼んていでるのは僕の方だし。
お読みいただきありがとうございます。




