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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
162/321

162.美容師~経験値を諦める


「お話合いはできたのでしょうか?」


「話し合い!? できるわけないじゃない、だってそのコの態度を見ればソーヤ君にだってわかるでしょ? 完全にわたしのことを無視しているのだもの!」


 見ればわかると言われても、僕にはよくわからないのですが。


「そうなのですか? 具体的に言うと、何がどうしてこんな状態に?」


「ああ、そう。ソーヤ君にはわからないのね。いいわ、わたしが説明してあげるわよ。よく聞いてよね。

 そのコってばわたしと会話ができるように力を渡したら、その力だけ受け取って、わたしの話は聞かずに無視し続けているのよ! 何度呼び掛けても無視されているわたしの気持ちがわかるかしら?」


「それは…本当にアンジェリーナがそんなことを?」


「あら……ソーヤ君はわたしの言うことを疑っているのかしら? 

 もしかして、このわたしの言葉よりも、その人形のこと信じるとでも? 

 あら、そう。落ちぶれたものね。いくら序列七位にまで位が下がったとはいえ、まぎれもなく女神のこのわたしがね……人形ごときに負けるとは」


 手の平をおでこにあて、遠い目で虚空を見つめる。

 たそがれているリリエンデール様はさておき、アンジェリーナを実物の大きさに戻して目線の高さまで持ち上げる。


 リリエンデール様の言葉を疑うわけではないが、まさかうちのアンジェリーナが本当にそんな悪いことをしたのだろうか?

 簡単には信じがたい、という気持ちがあるから困ってしまう。


 かといってリリエンデール様の言葉を嘘だと決めつけるようなことを言えば、完全にへそを曲げてしまうのはわかりきっているし。

 

 アンジェリーナに小声で話しかけてみるが返事はないし、動きもしない

 まいったな、ここはとりあえずでも、リリエンデール様の味方をしておくべきか。

 

 いや、アンジェリーナの言い分を聞かないままでそれを決めつける行為は、今まで培ってきた僕とアンジェリーナの関係にヒビを入れることになりかねないのではないか。


 だとすれば、このままどちらの味方もせずにこの場を納めるしか僕に残された道はない。

 そう決心し、言葉の通じるリリエンデール様に話しかける。


「リリエンデール様、アンジェリーナには後日僕からきちんと言い聞かせておきますので、今回は僕の顔に免じて許して頂けないでしょうか?」


「ソーヤ君の顔に免じて?」


「はい、なんとかお願いします。お優しい女神リリエンデール様」


「そうね……ソーヤ君がそこまで言うのなら仕方ないわね。今回限りよ?」


「ありがとうございます」


 なんて会話をしつつ、アンジェリーナを小さくしてシザーケースにしまおうとしたが、何も問題が解決していないことに気がついた。 


「ところでリリエンデール様? 結局、僕の経験値はどうなるのでしょうか?」


「どうなるも何も、そのコが強奪し続けるんじゃないの? 今まで通り変わらないわね」


「それは困るので、何かいい方法はないものでしょうか?」


「とは言ってもね……無理やりに奪うことならできるわよ? けど、文字通り力ずくだからそのコが木っ端微塵に砕け散ってもわたしは関知しないけど、それでもいいのなら」


「それはそれで困りますので、別の方法でお願いします」


「ならないわね。わたしには無理よ、悪いけど」


 無残にもきっぱりと断られてしまった。

 仕方がないので今回は諦めるとしよう。


 片方が対話を望んだとしても、もう片方がそれに応じないのならどうすることもできない。

 

 毎日寝る前にでも、個人的にアンジェリーナに呼び掛けてみるとしよう。

 僕の気持が伝わる日が来るはずだ。

 いつかきっと。



「さて、というわけでこの先も当分ソーヤ君のレベルは2のままということね。

 かわりにスキルの方はどうなのかしら? あれから何か変化はあったりした?」


「スキルですか……そういえば、僕の職業が魔法使いになりました。どうやら水属性の魔法が得意みたいです。

 あとは、ああ、そう、魔法の師匠ができました。今はその人に師事して魔法の勉強をしています」


「魔法か……まぁ、元の世界に魔法がないからといって魔法の才能がないとは限らないわね。

 水属性魔法の才能があるというのは、小さな頃から水に触れる生活を長く続けていたというところかしら? どう? あってる?」


 悪戯っぽく問いかけてくる内容は、師匠の言葉とほぼ同じだ。

 やはり美容室で生まれ育った経験が、この世界での水属性魔法に結びついているのは間違いないのかもしれない。


「ええ、そんなところです。子供の頃から、割と水には触れていましたから。

 美容師という仕事に就いてからなんて、一時期は毎日100人くらいシャンプーしていましたからね。

 指や手の平は乾いているより濡れている時間の方が長かったかもしれません」


「ふーん、そんな生活をしていたの。なら水属性に傾いても不思議ではないわね。他に扱える属性はなかったの?」


「他の属性ですか? 

 ああ、少しだけど火属性が反応していたと師匠が言っていたような……ただそのあとに水属性が大きく反応したので、僕は水属性の魔法使いだろう、って師匠が」


「そう。ソーヤ君の師匠が言うならそうなのね。

 とりあえず、水属性の魔法使いさん、おめでとう。これからも精進して頑張ってね。きっと美容室を開いた時にも、その経験は生かせるはずだわ」


「はい、そうですね。シャワーなしでもシャンプーの泡を流せるようになりそうです。ただ、まだ温水を出すことは難しいので、夏の暑い日限定になりそうですが」


 そういえば、冷たい水で洗うシャンプーなんてのが一部で流行っていた。

 個人的にはあれはどうかと思っていたのだが、こちらの世界ではうけるかもしれないと、頭の片隅に置いておく。




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