151.美容師~女神様の髪の毛を結う
PV40万、ユニーク5万を越えていました。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
感想にもリクエストがあったので、やっと女神様の髪の毛を結えて一安心です。
「リリエンデール様、そもそもどうして髪の毛を結うことを考えたのですか?
主神様に褒められたいからですよね? 可愛いと、綺麗だと感じてほしいからですよね?
序列一位様に会うのは確かに大事なことです。僕の為に急いでくれているのもわかります。
ただ、その想いは嬉しいのですが、一番大事な想いは蔑ろにしてほしくありません。
僕は美容師です。目の前の人の髪の毛を操り整え、喜んでもらいたいのです。
素敵な髪型にするのが仕事でもあり僕の誇りです。そんな僕の誇りを奪わないで下さい。
序列一位様との話し合いの場を設けることも大事ですが、まずは主神様の為に素敵な髪型を結いましょう」
僕の言葉を黙って聞いていたリリエンデール様が大きく一度頷いた。
そして優しく微笑んでみせてから姿見に向き直る。
「そうね。そこまで言うのならソーヤ君にお任せするわ。素敵な髪型にして頂戴。
序列一位は会合が終わった後に捕まえることにするから時間は気にしなくていいわ。あのお方をお待たせしてもいい。
そのかわりに、わたしのリクエストは、あのお方が思わず見惚れてしまうような髪型よ。
時間に遅れたとしても、そんな些細なことを帳消しにしてしまうような仕上がりを期待するわ」
鏡を通して見返してくるリリエンデール様の目は、子供のようにキラキラと輝いていた。
こうなれば僕も存分に腕を振るわせて貰おう。
さて、どんな髪型にするべきか。
ここまで期待させておいて、簡単に結うだけというのも拍子抜けさせる。
序列一位様との話し合いも控えていることだし、気分が高揚するような髪型がいいな。
相手を威圧するような、その場合の空気を有利に変えることができるような攻撃的な髪型……コーンロウにでもするか。
紙芯に巻き付いているセット用のゴムを5センチ位の長さに切り、両端を結んでワゴンの上に置いていく。
これで準備は完了。
シザーケースからテールコーム(片側が櫛歯、もう片側がしっぽのような棒状の櫛)を抜き取り、櫛歯でフロントの毛を後ろに向けて梳かしつけていきオールバック状態に。
リリエンデール様は、『時間は気にしなくてもいい』と言ってはくれたが、主神様をあまりお待たせするのはマズイだろう。
出来る限りスピードを意識して施術を始めよう。
フロントの髪の毛を3センチ程の間隔になるように櫛歯でトップに向けて2回スライスして分け取り、毛束を指先で掴む。
そして素早く頭皮に添うようにして三つ編みにしていく技法だ。
普通の三つ編みとは違い、1回目は普通に編み、2回目からは編み込みの進行方向にある髪の毛を少量ずつ掬い、従来の毛束に混ぜて編んでいく。
暇な時にはアンジェリーナでよくやっているので、割と得意な編み込みだったりする。
頭の丸みを意識しながら姿勢や立ち位置を変え、襟足まで編み込んでいったら、あとは普通に三つ編みをしてゴムで留める。
右に移動してフロントから2本目を編み、3本目4本目と横に進み、揉み上げ位置の髪の毛を終えたら中央に戻り今度は左へ。
リリエンデール様は仕上がりを楽しむ為にか、途中で目を閉じて鼻歌を歌っていた。
そのBGMを意識の片隅で聴きつつも、集中して指先を動かしていく。
最後の1本を編み終え、襟足から垂れた三つ編みを1本に編み込んで毛先をゴムで留めて終了。
額から流れ落ちる汗を手の甲で拭い、
「出来ましたよ」
と声をかけた。
ゆっくりと瞼を開いたリリエンデール様はぼーっとしたような表情で鏡の中を眺め、「ほぅ」と小さく声を漏らした。
恐る恐る手を自分の頭に持っていき、編み込んだ髪の毛に触ろうとしてビクッと動きを止め視線を向けてきた。
「触っても大丈夫ですよ。でもあまり乱暴にはしないでくださいね」
「わかったわ」
真顔で返事をしたリリエンデール様が、壊れ物に触れるかのように指先でそっと編み目を撫でた。
その結果を姿見に映して大丈夫だと確信したのか、両手で髪の毛全体に触れていく。
「凄いわね。触っても崩れないし結構硬いわ。
それにしても、ソーヤ君は本当に器用なのね。太さも形も皆揃っているし、編み目の模様がとっても綺麗だわ」
「満足いただけたのなら幸いです」
「当たり前よ。大満足だわ!
顔もシュッとして見えるし、かっこいいわね。ソーヤ君もそう思わない?」
椅子から立ち上がり、鏡に映る角度を変えては感想を求めてくる。
「はい、とても素敵ですよ。物語に出てくる戦女神のようです」
「戦女神か……そうね。この髪型はなんだか気持が引き締まるわ。いい髪型をありがとう。
では行ってくるわね! 戻ってくる時間がわからないから一旦下に戻すわよ。帰ってきたらまた連絡するから」
「はい、お待ちしています。主神様の感想を是非聞かせて下さいね。
あと、序列一位様の件、改めて宜しくお願いします」
「わかったわ。任せておいて」
パチリとウィンク付きで笑顔を浮かべるリリエンデール様。
いつもの柔らかな雰囲気とは違い、凛としていて綺麗だ。
何より背中で揺れる網目模様の1本の毛束に目を奪われた。
碧色の髪の毛が絡まり合っていて、複雑な立体感を生み出しているし、ゴムで留められていない先端の毛先はストレートのままなので、ふわりとそこだけ手触りがよさそうで……最後にもう一度触らせてもらおうかな。
作業中は集中しすぎて手触りを楽しむ暇もなかったし。
「あのリリエンデール様、最後に少し手直しを――」
「では行ってくるわね! クルクル――」
ああ……僕の言葉は指先を向けて回すリリエンデール様には届かなかったようだ。
名残惜しいが今回は諦めることにしよう。
次回に期待だ。




