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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
149/321

149.美容師~女神様にお願いされる


 ギルマスの部屋に入るなり、アンジェリーナの鼻を押して通話をオンに。


「もしもし、ソーヤです」


「今いいかしら? ずいぶんと時間がかかったけど、もしかして取り込み中だった?」


「取り込み中というか、ある意味助かったのは事実なので問題はありません。一時的にはかもしれませんが」


「そう? よくわからないけど、ソーヤ君の助けになったならよかったわ。それで、呼んでもいいのかしら?」


「はい、一人になれる部屋に移動したので、いつでも大丈夫です」


「なら呼ぶわよ」



 目眩、暗転……いつもの森の中だ。

 目の前にはリリエンデール様がいて、にこにこと優しげな頬笑みを浮かべている。


「今日はちゃんと服を着ているのね。安心だわ」


「呼びますよ、と言われて服を着ていなかったら、僕はただの変態じゃないですか」


「それもそうね」


 なんて軽口を叩きあいながら、テーブルに招かれて椅子に座る。

 

 こうしてリリエンデール様に会うのも、ずいぶんと久しぶりな気がするが、僕がそれだけ濃い時間を過ごしていただけで、実際には1月も経っていない。

 

 そういえば、序列一位様の所に襲撃をかけに行ったと思うのだが……。 


「紅茶でいいかしら?」


 言いながらも、僕の返事を聞くことなく指をクルクル回すと、テーブルの上に2組のティーカップがあらわれる。

 カップの中には紅い液体が8割、ほんのりと湯気を立ち昇らせている。


「遠慮しないで、どうぞ。

 疲れているみたいだから、レモンの果汁と砂糖入りで甘くしておいたわ。ソーヤ君の元いた世界では、レモンティーというのよね?」


 促されて一口飲むと、久しぶりの懐かしい味がした。

 甘みと酸味、微かな渋みが心地いい。


 2人してしばらく無言で紅茶を楽しみ、カチャンとティーカップを置く音がしたので、居住まいを正して正面に座るリリエンデール様に目を向けた。


「さて、ソーヤ君。今日ここに呼んだのはお願いがあるからなのだけど」


「お願いですか? 例の件に何か進展があったからではなくて?」


「例の件ね。申し訳ないけれど進展はないわ」


「でも、序列一位様の所へ訪ねて行っていたんですよね?」


「行っていたわよ。

 訪ねてというか、出てくるまで門の前で待っていたのだけど、待っていても出てこないから何度か忍び込んだんだの。

 でも結界に阻まれて、屋敷の中には入り込めなかったわ。何故か屋敷に入ると、門の前に戻されてしまうのよね。不思議だわ」


 うふふ、と笑いながらリリエンデール様が小首を傾げた。

 他の女神様の屋敷に忍び込むとか……そんなことをして大丈夫なのか?


「結界というと屋敷を取り囲む、透明で見えない壁があるとか? でも屋敷には入れたんですよね?」


「それがよくわからないのよね。

 門を開けてもらえないから、屋敷を取り囲む塀をよじ登って敷地内には入れたのだけど、屋敷の中に入ろうとすると門の前にいるのよね」


「屋敷には玄関から入ったのですか?」


「いいえ、窓からよ?」


「玄関から入らなかった理由は?」


「だって鍵がかかっていて開かなかったんですもの」


 無駄にアクティブ過ぎるんですけど。

 もしかして、結界なんかじゃなくて、泥棒と間違われて門まで魔法で強制転移させられたとか?


  窓から侵入するお客さんなんていないわけだし、転移ってファンタジーの世界ならありがちなんじゃなかったけ?

 たしか、もっさんがそんなようなことを言っていたような。


 リリエンデール様は数日粘った結果、まったく相手にされずに帰ってきたということか。


 これを言うべきか言わないべきか。

 悩むところではあるが……。


「それでね、仕方なく帰ってきたわけなんだけど」


「お疲れ様でした」


「うん、お疲れ様なんだけど、そうではなくてね。今日ソーヤ君にお願いしたいのは、わたしの髪の毛を結ってほしいのよ」


「リリエンデール様の髪の毛を結うのですか? 最初に会った時のように?」


「そう、最初に会った時みたいに」


「それは……僕にとっては願ってもないことですが。

 髪の毛に触れさせて頂けるのは、僕にとっても嬉しいですし。でも、どうして急に?」


「急ではないのよ。ほら、覚えてる? 

 そもそも、どうしてわたしがソーヤ君を呼んだのか」


 どうして僕を呼んだのか?

 あっ、そうか。

 ということは、


「主神様に会うのですか?」


「正解よ。だからお願い、わたしの髪の毛を素敵に結ってくれないかしら?」


 両手を顔の前で合わせて、可愛くお願いされてしまった。


 こんな綺麗な女性、というか女神様の髪の毛を結わせてもらえるなんて、美容師冥利に尽きる。

 そうなれば、僕だって張りきるというものだ。


「わかりました。全身全霊をかけて、リリエンデール様の髪の毛を素敵に結わせて頂きます」


「よろしく頼むわね。

 そうと決まれば、あまり時間がないの。ついさっき思い出して、急いで帰ってきたばかりなのよ。申し訳ないけど、ぱぱぱっとお願いできるかしら。

 皆を待たせるのはかまわないけれど、あのお方をお待たせしてしまうのは嫌なのよ」


「わかりました。すぐに始めましょう。僕のワゴンを出してもらってもいいですか? 

 それでこの間のように、椅子と姿見を出してもらえれば……あれ?」


 いそいそと準備をしていたが、不意に何かが僕の中で引っかかった。




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