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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
147/321

147.美容師~言い訳を考える


 完全に陽が昇り、朝食を取りニムルの街への移動を開始した。

 やっぱり魔物との遭遇はなし。

 安全な旅で快適だ。


 そのかわりというか、初めての友人がめんどくさい。

 何かと僕にまとわりついてくる。


 本人は内緒話のつもりか耳元に顔を寄せて質問をしてくきたり、魔法使いの先輩として助言をくれようとしているようなのだが、僕としてはできれば座ってゆっくりと聞きたい。

 ここではなく街に戻ってからにしてほしい。


 何故かそれを見て、ケネスさんがうずうずとしているのだが……逃げたい。

 一人で走って街まで帰りたい。


 それができないので、ランカのそばに移動した。

 トイトットはランカのことが苦手みたいで、あまり近くに寄ってこない。


 脳筋は苦手な分野なのかもしれない。

 理性の魔法職としては納得できる。

 なのでランカのそばに退避させてもらうことに。


「お、ソーヤ。どうした? 暇なら模擬戦でもするか?」


 うーん、こっちはこっちで扱いづらい。

 でも素直に真っ直ぐな分、誘導しやすいと思うし。


「模擬戦はしないよ、ランカ。移動中に模擬戦なんかしていたら、皆に置いてかれちゃうし」


「それもそうだな。ならあとで休憩中に模擬戦するか?」


 どうあっても模擬戦はしたいらしい。

 休憩は休憩する為の時間で、模擬戦をする為の時間ではない。

 あとでこっそりシドさんにちくって、いざという時は止めてもらおう。


 そんなに戦うのが好きなら、ランドールさんとやればいいのに。

 彼ならきっと二つ返事で剣を構えてくれるだろう。


 うん、そうしよう。

 ランドールさんになすりつけてしまえばいい。

 もしくは大事そうに抱えている水瓶について聞いてみるのもいいかもしれない。



 そんなこんなでアンガス峠の入口に到着。

 ここからは馬車での移動になるので、体力のないギルド職員とケネスさん、トイトットあたりは荷台に乗りこんでいく。


 その最中、どさくさに紛れてランカとカシムさんが、こっそりと2人して荷台の隅に水瓶を隠しているのを発見。

 気になります。


 なのでケネスさんにこっそりと耳打ち。

 悪気はない。

 気がついたので、討伐隊のリーダーに報告しただけだ。



 トイトットと離れられたので、模擬戦をしようと煩いランカからは距離を取りカシムさんの横に並んで歩く。

 シドさんは馬車の先頭、ランドールさんは馬車の後方。


 よって自然とカシムさんは中間辺り。

 ここなら聴こえないだろうと、ずっと我慢していたことを聞いてみる。


「カシムさん、質問いいですか?」


「ん? いいっすよ。俺っちで答えられることならなんでもこいっす」


「ランドールさんの奥義のことなんですが、あれって結構有名な流派の必殺技みたいなものなんですか?」


「ソーヤっち、そこに触れてはいけないっす」


 にこにこしていたカシムさんの顔が突然曇った。


「ということはやっぱり……」


「ソーヤっちの想像通りというか……別に個人で奥義を作るのはおかしなことではないんっすよ? 

 BランクやAランクで活躍していて我流で剣や槍をメイン武器にしている冒険者はたくさんいるし、それぞれ自己流の奥義を持っているのは珍しくないっす。ただ――」


「ただ?」


「名前がっすねー」


「ああ、やっぱり名前ですよねー」


「なんというか普通と言うか残念というか」


「縦断切りに大切断ですもんねー」


「もうちょっとシドっちみたいにカッコイイ名前を付けてほしかったっす。

 ケネスと俺っちは、この会話のやり取りをするのはソーヤっちで何人目になるのか」


 項垂れるカシムさんが不憫になり、この会話はこれで切り上げようと思った。

 僕の感性は間違っていなかった。

 そう自信が持てたので。



 ニムルの街の門では、ギルド職員とケネスさんが代表して話を付けてくれた。

 このまま冒険者ギルドまで馬車で進み、報告と部材の買い取りをしてもらい、報酬の分配が終われば依頼終了となる。


 宿に帰って体を休める者、酒場に行って祝杯をあげる者、皆がそれぞれ好きな場所に散っていくだけだ。

 本来は僕もその仲間に入れるはずなんだけど……どうやらそうはいかないようだ。


 ギルド職員とケネスさんの報告を聞いていたギルマスとキンバリーさんの背後には、恐れていた彼女の姿がある。

 それも話が進むごとに、少しずつ目がつりあがっていくマリーの姿が。


 こっそり逃げようとはしたんだけど、途中でマリーに微笑みかけられてから僕の足は動かなくなってしまった。

 

 石化等はしていない。

 何度か確かめてみたが、僕の足は柔らかなままだ。

 きっと逃げたらもっと酷いことになる。


 僕の理性がそれを先読みして、動こうとする体の意思を抑え込んでいるのだと思う。

 よって僕はここで立ちつくすしかない。


 せめてこの時間を使って、マリーの納得するような言い訳を考えよう。

 俯いて床の染みを数えている無駄な時間はないのだ。




お読みいただきありがとうございます。


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