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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
144/321

144.美容師~トイトットさんと話し合う


 また何か嫌味でも言われるのかな。

 自然と体が身構えてしまう。

 それがわかったのか、トイトットさんがポツリと言葉を漏らした。


「そんなに気を張らないでほしい。別に悪意をぶつけに来たわけではない」


 ああ、そうなのか。

 なら何をしに来たのだろうか?


 その言葉の続きを待つのだが、トイトットさんはそれっきり何も話そうとはしなかったので、自然と2人してパチパチと燃えて宙を舞う火の粉を眺めることになった。


 いつのまにかランドールさんとカシムさん、ケネスさんは席を外していて、焚火の前には僕達2人だけになっていた。

 なんだか気まずい。


 自分を嫌っている相手だと認識してしまっているからこそ、こちらからは話しかけづらいというか、困ってしまう。

 本当は魔法職としては先輩なので、色々と助言と言うか聞きたいことだってたくさんあるのに。


 そうこう考えていると、トイトットさんが大きく息を吐き、ギリギリ僕に聴こえるくらいの小さな声で話し始める。


「ソーヤ……いやソーヤ・オリガミ殿。すみませんでした」


 えっ?

 何が?


「今までの行動と言動を謝罪したい。受け入れてもらえるだろうか?」


 そこでやっとトイトットさんが僕に目を向ける。

 だけどこの時の僕の表情はポカンとしていると思う。

 だって急に横に座られて、急に謝られて、何が何やらさっぱりなのだから。


「そんな顔をしないでくれないか」


 唇を尖らせて不満顔のトイトットさんは、バツが悪そうに言葉を重ねる。


「わたしだって自分が悪いと思えば素直に謝ることくらいはできる。

 わたしのあなたに対する態度は悪かった。だから謝罪をした。受け入れてもらえるかどうかの返答を聞きたい」


 2人の間に数秒の沈黙が流れる。

 何か答えなければいけないようなので、


「えっと……僕は気にしてませんよ?」


 ただ、この答えではダメだったようだ。


「気にしてないだと!? 俺があんなにも怒鳴り散らし挑発していたのに、全然気にしていなかったと言うのか?」


 体ごと横に向き直り、両手で掴みかかってくる。


「それとも何か? 俺のことなんて取るに足らない存在だとでも思っていたのか? 

 自分は魔法も使えて前衛で剣士のようにも振舞えるのだから、俺のことを見下し、馬鹿にしていたのか? 負け犬の遠吠えだとでも思っていたのか?

 やはり所詮は貴族だということか。だから貴族は嫌なんだ。いつも偉そうにわたし達を見下して」


 えー、なんか急に怒り出したし。

 目が血走っていて怖いし。

 僕は貴族じゃないし。


 ケネスさん、誰か、助けて下さい。

 視線だけを動かして救済を求めるが、近くには誰もいないようだ。

 仕方ない。

 自分でなんとかするしかないのか。


「トイトットさん、落ちついて。どーどー」


「『どーどー』などと。俺は馬や家畜などではない!」


「うんうん、家畜などではないよね。きちんとした理性ある人間だよね。だから僕の話も聞けるよね?」


 子供に話して諭すように、優しく言い聞かせてみる。


「当たり前だ! なら話せ。聞いてやる」


 やっと手を放して落ちついてくれたようだ。

 あとはどうやって話すべきか、言葉を選ばなければ。


「えーとですねぇ、僕が気にしていないと言ったのは、本当に気にしていないんですよ。

 確かにトイトットさんが言うとおりに、僕はつい最近まで剣士というか剣を持って戦っていたし、魔法使いには成りたてだったし、魔法職としてはトイトットさんの方が先輩ではあるし……とにかく僕はあなたを馬鹿にしてなんていないし、見下したりもしていません。

 あなたが僕に対して悪かったと謝罪をしてくれるのであれば、当然僕はそれを受け入れますし、できれば仲良くしたい。魔法職の先輩として色々教えてほしいと思っています。

 なので魔法職を馬鹿にしてなんかもいません。僕の尊敬する師匠は立派な魔導師ですし、ケネスさんやトイトットさんの魔法も凄く立派だと思います。

 あと、ちなみに僕は貴族ではありません。一般庶民の、ただの冒険者です」


「でも名前の他に家名があるじゃないか! 今更隠す必要はない。あなたは貴族なんだろう?」


「だから貴族ではないですって。僕の住んでいた所では皆が名前と家族名を持っているのが普通でした。

 もし僕が貴族なら、隠さずに貴族だって言いますよ。逆に貴族を隠すことでメリットってあるんですか? ないですよね?」


「確かにメリットなんてないな。

 そうか……ならわたしの早とちりだったということか。改めて謝罪したい。申し訳なかった」


 そう言って、深々と頭を下げてきた。

 言葉遣いも落ちついてきたし、僕の言葉は彼に届いたようだ。

 これでひと段落と思いたい。


「はっきり言わせてもらうが、わたしは貴族が嫌いだ」


「理由を聞いても?」


「聞いてくれるか? 楽しい話ではないが……」


 トイトットさんが過去を思い出すように、目を細めて視線を遠くに彷徨わせた。



お読みいただきありがとうございます


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