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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
140/321

140.美容師~奥義を目にする

 

 糸でグルグル状態から脱出したランドールさんと中級回復薬で傷を癒したシドさん2人が揃ったことで、先程よりかは安定して女郎蜘蛛の攻撃を捌くことができている。


 ランカとカシムさんは土蜘蛛が残り少なくなってきたので土蜘蛛の殲滅を切り上げて、2人のサポートに回るみたい。

 

 ただ無暗に突っ込んでいってもシドさんやランドールに庇われて余計な手間を増やすだけなのはわかっているのか、距離を取り槍の長さを利用して牽制役を努めるようだ。


 攻撃力としてはやはりランドールさんの大剣が一番有力なので、シドさんも意識してサポート側に回っている。

 では僕は何をするべきか?


 ケネスさんの全力の魔法でも大したダメージは与えられなかったので、僕の魔法でも無理だろう。

 

 かといって短剣で攻撃したって全身に纏う硬い毛に弾かれるだけだし、シザー7での『カット』ならば通りそうな気がするが、それにはほぼ0距離まで近づかなければいけない。

 

 レベルも低く紙同然の防具しか装備していない僕があの攻撃を喰らえば……やめよう、今すぐ回れ右をして逃げ出してしまいたくなる。


 シドさん達3人の協力を得て出来た隙をついて、ランドールさんが大剣を打ち込んでいるが致命傷には程遠いようだ。


 足の関節等を狙えばいいのだろうが、大振りな分狙いが甘く、装甲のような体毛に阻まれて中までダメージが通っていない。


 だいぶ休んで復活したのか、トイトットさんが『フレイムバレット』を女郎蜘蛛の顔めがけて飛ばしたが、まったく効いていないのか嫌そうな素振りすらしない。

 飛んできた石ころが当ったくらいの感覚なのだろう。


 ケネスさんがそれを見て、魔法を使わせるのをやめさせていた。

 残り少ないMPを今は温存ということなのだろう。


 こちらも攻めあぐねているが向こうも決定打に欠けているのがわかっているのか、イライラしているように思える。

 

 4人のチームワークは完璧で、こちらが受ける傷も少ない。

 お互いに重症となるダメージを与えられていないのだ。

 そして女郎蜘蛛の兵隊である土蜘蛛は、1匹ずつだが確実に仕留められている。


 状況だけ見れば、どんどん女郎蜘蛛側が不利になっていくのだが、こうなると……きた!

 女郎蜘蛛が反転してお尻を向けたので、すかさず僕は走り出す。


 シドさんとランドールさんの前に立ち、足を肩幅に開いてスキル発動。

 《観察》《身軽》《集中》ついでに《回転》と重ねがけしていく。

 待ちかねた僕の出番というわけだ。


 飛び出してきた糸の束を左手の短剣を回転させることで巻きとりつつ、シザー7に意識を向ける。


『チョップカット』


 呟くと緑色の光が刃先に移動したので、すばやく開閉。

 短剣に巻き付いた糸、こちらに向かって飛んでくる糸を、手首の角度を変えることで上下左右、斜めからも切り刻んでいく。


「おお」


「すごいな」


 背後から2人にお褒めの言葉をいただくが、それに答える余裕はない。

 結構いっぱいいっぱいだったりする。

 少しでも手元が狂って切り損なえば、今度は僕が糸に絡め取られて身動きできなくなるのだから。


 女郎蜘蛛は8個あるうちのいくつかの目でこちらを見たが、獲物が糸に囚われていないことに気づくと、ただ真っ直ぐ飛ばすだけではなく、角度を変えたり散発的に飛ばしたりと変化をつけてきた。


 額から流れる汗を拭うこともできないまま、立ち位置を変えながら飛んでくる糸を切りまくる。

 右手が届かない所は左手の短剣で絡め取り、引き寄せシザーで処理する。


『チョップカット』と開閉ごとに口に出すことはないが、効力は持続して発動してくれているようだ。

 自分の唇がだんだん尖ってくるのがわかる。

 カットに集中していると唇が尖ってくるのは昔からの自分の癖だ。


 無言でただひたすらにシザーを動かす……いいじゃないか、久しぶりに美容師として仕事をしているような感覚を得る。

 楽しさすら湧きあがってくるから不思議だ。

 一歩間違えば、命を危険にさらすようなこの状況なのに。


 このまま糸で僕を狙っても無駄なことを理解したのか、女郎蜘蛛のお尻から出てくる糸が止まった。

 こちらに向き直ろうと、大きな体を反転させる。


「「今だ!」」


 ランドールさんとシドさんが同時に叫び、僕の左右を風のように駆け抜けていった。

 そして、それぞれが最大の攻撃を放った。

 まずはシドさん。


「奥義――疾風五連突(しっぷうごれんづ)き!」


 女郎蜘蛛の横腹に、シドさんが高速で槍を突いた。

 五連突きというからには5回攻撃したのだろう。

 でも僕には最初の2回と最後の1回、合計3回分の攻撃しかわからなかった。


 《観察》と《集中》を使っている僕にも判別できないくらいの高速の突き。

 それも態勢を変えようとして無防備に見せている横腹に喰らったのだから、これには女郎蜘蛛も堪らなかったのだろう。


「ギィィィィー!」


 とこれまでで最大の鳴き声をあげて、ガクンと体を傾けた。

 女郎蜘蛛の腹には深い刺し傷が5つ、そこからドロドロの青い液が流れ出している。


 シドさんはその場を譲るように飛び退き、代わりにランドールさんが走り込む。

 ランドールさんは両手で持った大剣を下段に構え、先端で地面を擦りながら走り、


「奥義――縦断切(じゅうだんぎ)り!」


 膝を曲げ、体を捻りながら天に向かって切り上げる。


「からのー、奥義――大切断(だいせつだん)!」


 下から切り裂いた女郎蜘蛛の腹を、今度は上から切り下ろした。


「ギギィィィィー!」


 パックリと裂けた女郎蜘蛛の腹から、ボトボトと内臓のようなものが大量の青い血液とともに零れ出してくる。


「トイトット君、今です。全力で行きますよ! 私に合わせて下さい」



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