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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
138/321

138.閑話 ケネス~ソーヤの魔法に興味を持つ


 土蜘蛛の群れに囲まれて、ついには女郎蜘蛛まで現れてしまった。

 状況的に追い込まれてつい弱気な発言をしてしまったが、ランドールとシドのカラ元気に助けられた。


 いつもは思慮深さの足りなさに頭が痛くなる2人だが、こんな時はその楽観さに救われる。

 おかげで他のメンバーに伝わってしまった絶望的な雰囲気もなりも潜め、なんとか立ち向かおうと言う気概も見えた。


 私達冒険者には、いつも危険が付きまとう。

 自分達より高ランクの魔物と戦闘をする覚悟は常に持たなければいけない。


 それだからこそ、心のどこかでは例えこの場で命を散らすことになっても仕方ないと思えてしまう。

 ただその中で、ソーヤ君のことだけが後悔させられた。


 冒険者ギルドで討伐に赴く事を止められていたのに、私達で守るから安心してほしいと簡単な気持ちで請負(うけおい)、こんな危険な目に合わせてしまったことにだ。


 幸いソーヤ君は落ちついているように見える。

 洞窟に入ってからも土蜘蛛討伐に対して無理な行動を取ることなく、一方的に絡んできたトイトット君にも大人な対応をしていた。


 剣士から魔法使いに転職し、貴重な水属性魔法を操る彼を、こんなところで殺させるわけにはいかない。

 グラリスや冒険者ギルドの受付嬢、2人から詳しい話を聞いたわけではないが、過去に大事な人を無くしていたはずだ。


 同じ想いをさせるのは忍びない。

 私の、いや私達の命をかけてでも無事に帰してあげたいものだ。


 できれば『炎の杯』達も一緒に逃がしてあげたい。

 まだ若い彼らを守るのは、先輩冒険者としての義務だと思う。


『狼の遠吠え』の名にかけて、恥ずかしくない最後を迎えたい。

 もちろん、誰一人かけることなくこの場を無事に切り抜けられることが最善だ。

 その為には、今は出来る限りのことをしよう。


 カシム達に連れられて土蜘蛛と戦闘を行っていたソーヤ君が何やら魔法を使うようだ。

 アクアショットで牽制をしてくれるだけでも、カシム達は助かると思う。


 あれ……何やら右に移動し始めた。

 正面からではなく、斜めから狙うのか?

 確かに死角から魔法を打ち込めば避けられにくとは思うが……??


 空中で何かを掴んでいるのか?

 右手を持ち上げて、背後で握りしめている。


 かと思ったら投げた!?

 えっ、投げた??


 投擲武器かと思ったが、私には何も見えない。

 あっ!?


 右側の土蜘蛛の群れが何故か切り裂かれている?

 何かに跳ね飛ばされているのか?


 いったい何が起きているんだ?

 何かしらの魔法なのか?


 思い浮かぶのは水属性の中級魔法である『アクアカッター』だ。

 だけどあの魔法は自分から真っ直ぐ相手に向けて打ち出す魔法だ。


『ウィンドカッター』と同じく無色透明なので、目に見えないのはわかる。

 けれど、ソーヤ君の正面の土蜘蛛ではなく群れの端から横に縦断するように攻撃が加えられている。


 あの方向には誰もいない。

 攻撃が来るはずのない場所から何故?


 疑問を浮かべていると、ソーヤ君が突然走り出した。

 こちらに向かって猛スピードで駆けてくる。


 彼の視線は何を追っているのだろう?

 左側の群れでも土蜘蛛が弾き飛ばされている。


 知りたい!

 聞きたい!

 その衝動が私の口を勝手に動かす。


「あの、ソーヤ君、今の魔法は?」


 ソーヤ君が私の目の前に飛び込んでくるなり何かを掴み取った。

 その衝撃は結構なもののようで、一瞬体ごと引っ張られたのか体全体を使って吸収したようだ。


 なんだ?

 彼は何をしている?


 何をしたんだ?

 魔言を紡いでいるようだったから、やはり何かしらの魔法を使ったのだろう。


 不可視の魔法か?

 彼は水属性だから、透明な水であればそれも頷ける。


 気になる。

 気になり過ぎて、今すぐ問い詰めて説明を求めたい。


 こんな時だけど、私の中の悪い癖がうずうずとしてくる。

 まごついているうちに、ソーヤ君が魔言を紡ぐ。


 一般的な水を生み出す魔法だ。

 私にもわかる。


 続けて水を操る魔法。

 水は宙で踊るように形を変え、やっと私に謎の輪郭を教えてくれた。


 ソーヤ君は握りしめた右手の中を見つめている。

 指の隙間から紫色の何かが覗いた。


 けれど、あっ、と思った時にはまた何も見えなくなった。

 いや、目を凝らすとわかった。


 三日月型がぼんやりと見えた。

 と思ったら、またすぐに見えなくなった。


 謎過ぎる。

 希少だとは聞いていたが、水属性魔法はここまで奥が深いのか。

 考え込んでいると、


「ケネスさん、紫色が近づいてきたら避けて下さいね」


 言うが早いか、ソーヤ君が駆け出していく。


 紫色?

 一瞬ソーヤ君の手の中に見えた紫色のことか?


「あ、あのソーヤ君。その魔法? のことなんだけど――」


 追いかける私の声は彼に置き去りにされてしまった。

 仕方なく彼の動きを目で追っていると、先程と同じような現象が起きた。

 今度は左側の群れが誰もいない空間から攻撃を受けている。


 ここまでくれば想像がつく。

 彼は水属性魔法で作成した武器を投げている。


 その武器は何故か正面ではなく、死角に回り込み次々と攻撃を加えある程度自動で戻ってくるのだ。

 その為に、彼はそれを受け取りに走っている。


 撃って終わりではなく再利用する魔法。

 なんて画期的なんだ。

 こんな魔法、見たことも聞いたこともない。


 水属性魔法固有のものなのか?

 それとも彼の師事した人のオリジナル魔法なのか?


 知りたい、知りたい、知りたい。

 ダメだ、今はそれどころではない。

 私は私にできることをしなくては。


 自らの欲求を押しとどめ、私は回りに指示を出して攻撃を開始する。

 ただ、どうしても視界の隅に彼を追いかけてしまうのは許して欲しい。

 どうしようもない私の性分なのだから。




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