137.美容師~2つ目のテクニカルスキルを得る
――その瞬間、腰の辺りから青い光が走った。
リィィィン、と頭の中で音がする。
そして声が。
【???よりシザー7への足りない経験値の譲渡を開始……80……90……95……100%――女神リリエンデールの加護により、シザー7の覚醒を開始します……】
右手のシザー7が纏っていた緑色の光が刃先に向かって移動していく。
なんだ?
何が起こっている?
その間も手を休めることはしない。
シザーで糸を切り続けるが、動刃と静刃の動きが重たくなってきた。
特に根元付近の切れ味が悪い。
光が刃先に集まっているせいか?
リィィィィン、と音がする。
【女神リリエンデールの加護により、シザー7の経験値取得を確認……レベルが上がり、テクニカルスキル《チョップカット》を取得しました】
チョップカット!!
そうか、何も根元で切る必要はない。
一度で大量の糸を切ることにこだわり過ぎていた。
だから動きが遅いんだ。
すばやく、こまかく切ればいい。
その為には……、
シザーの刃先端には緑色の光が集まり、僕の考えが正しいのを示すかのように光り輝いている。
チョップカット。
それはシザーの刃先を使って、すばやくこまかく髪の毛を切る技術。
何千、何万と繰り返し、僕の体にはしみついている技術。
目を閉じていたって、僕の指はそれを覚えている。
切る対象が髪の毛から糸に変わっただけのことだ。
『チョップカット!』
呟くと、刃先の光が輝きを強める。
手首を返してシザーを固定し、小鳥が啄ばむように開閉を行う。
チョンチョンチョン、刃先3センチ程を利用して糸を切っていく。
それと同時に、緑色の光が糸に侵食し、切断した糸付近の粘着を無くしているようだ。
体の位置を動かし、頭から足先まで糸を切り終えた。
その間、わずか30秒。
ランドールさんにゆっくりと転がってもらい、その回転に合わせてシザーを入れていく。
そして……2分ほどかけて全ての糸を切り終えた。
起き上がったランドールさんは体を解すように腕を回し、腰を捻り、
「助かった!」
手の平で僕の背中を思い切り叩いて、走り去って行った。
ちょうどシドさんがランカを庇うように槍を構えて女郎蜘蛛の足爪を受けようとしていた場所に飛び込み、振りかぶっていた大剣を下から掬い上げるように叩きつけて弾く。
「シド、待たせたな! 俺様、復活だ!」
ガハハと笑うランドールさんの背中に、シドさんが前蹴りを入れた。
わかるよ、シドさん。
なんかイライラしたんだよね。
ランドールさんは蹴られたこと等少しも気にすることなく、シドさんの前に立ち、女郎蜘蛛の足を迎え撃っていく。
その隙に、シドさんが中級回復薬を飲んで傷だらけの体を癒した。
女郎蜘蛛の正面にはランドールさんとシドさん、ランカは左側、ハスラさんは右側から牽制する役目。
カシムさんとタイムさんは『炎の杯』達を守りつつ、指示を出して残った土蜘蛛達を狩り尽くそうと奮戦している。
残りは10匹といったところか。
これで場は整った。
あとは女郎蜘蛛を倒せば終わりだ。
土蜘蛛の援護がない女郎蜘蛛は、単体でBランクにまで落ちる。
Aランクの時よりかはまだ希望が出てきた。
ケネスさんを見ると、
「もうひと頑張りですね」
腰のポーチからMP回復薬を取り出し、一瞬嫌そうに見つめたが、ため息交じりに飲み干した。
「最後の一本です。ソーヤ君、飲んで下さい」
渡されたMP回復薬を飲む前に、ノートでステータスを確認。
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名前 ソーヤ・オリガミ
種族 人間 男
年齢 26歳
職業:魔法使い
レベル:2
HP:30/30
MP:6/30
筋力:18
体力:18
魔力:20
器用:36
俊敏:20
テクニカルスキル:シザー7 3000/???
《Lv1》カット
《Lv2》チョップカット
ユニークスキル:言語翻訳《/》、回転《Lv5》、観察《Lv5》、好奇心耐性《Lv1》、調色《Lv3》
スキル:採取《Lv4》、恐怖耐性《Lv2》、身軽《Lv2》、剣術《Lv3》、聴覚拡張《Lv4》、気配察知《Lv3》、投擲《Lv3》、集中《Lv5》、忍び足《LV3》、脚力強化《Lv3》、心肺強化《Lv2》、精神耐性《Lv1》、調合《Lv1》、《魔力操作Lv2》、《水属性魔法Lv3》
称号:女神リリエンデールの加護
装備:カットソー、ジーンズ、シザーケース、腕時計、短剣、革の防具一式、黒曜の籠手
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あの頭の中に聴こえた声を聞く限り、シザー7のレベルが上がったみたいだ。
経験値? が3000に増えて、レベル2の項目に『チョップカット』が追加されている。
それにしてもテクニカルスキルってなんだろう。
普通のスキルとは違うのだろうけど。
日本語に無理やり直すと、『技術的な技術?』
技能?
テクニカルは『専門的な』って意味もあったと思うから、
『専門的な技術』ってとこかな?
まぁ、謎だ。
リリエンデール様に聞いてもわからなかったし、この先まだ増えるのだろうか。
うわっ、MPが残り6しかない。
テクニカルスキルもMPを使用するのだろうか。
あの緑色の光は魔法によるものなのかもしれない。
いただきます、と断りを入れ、MP回復薬を飲んだ。
MPは30まで全回復。
あれ、固定で20回復しゃなかったっけ?
そういえばさっき飲んだ時も20以上回復したような……まぁ、誤差のようなものか。
さて、ケネスさんの言うとおり、もうひと頑張りするとしよう。
右手にはシザー7、左手には短剣。
シザー7を覆う緑色の光は、刃先から刃全体へと均等に移動していた。
大きく刃を開き、ゆっくと閉じた。
シャキンッ、澄んだ音が聞こえる。
好きなだけ糸を飛ばしてくればいい。
全て僕が切ってあげよう。
では、お仕事開始といきますか。
お読みいただきありがとうございます。




