13話.美容師~初仕事をこなしスキルを獲得する
守衛の詰め所を通りすぎ、門をくぐって町の外に出た。
薬草が生えている場所は、門を出て右に行くと森があると教えてもらったので、しばらく歩くと木々が密集している場所に。
森の入口についたようだ。
この森はニムルの森。
さっきまでいたニムルの街の側にあるからニムルの森と呼ばれている。
安易なネーミングだけど、そんなものだろう。
木漏れ日の中に足を踏み入れ、朝顔の葉に似た薬草を探す。
なかなか見つからないので、スコップ片手にどんどん奥へ進んだ。
あまり奥に行きすぎると、帰り道がわからなくなるかもしれない。
適当な所で左に進路を変更し、森の入口から離れすぎないようにした。
注意深く地面を探しながら歩くと、やっと薬草らしきものを見つけられたので、根本にスコップを差し入れ土ごと掘り起こす。
根についた余分な土を振り落とし、葉の形と表面を観察する。
よく似ている毒草は、葉の表面がギザギザになっていると言われたので、指で触って確かめた。
うん、大丈夫みたいだな。
布袋の口を開いて、わずかに土の残った薬草をしまった。
依頼内容はこの薬草を5本だから、あと4本を探さないと。
3時間かけて残りの4本も採取した。
毒草も見つけたので、薬草と並べて観察し、その違いをノートに記載しておいた。
重なり合う木々の隙間から差し込む日の光が、わずかに弱まってきていた。
そろそろ日が暮れるのだろうか。
腕時計のデジタル表示は、この世界に来たときから止まっているので時間がわからない。
依頼分も採取し終わったし、街に戻ることにしよう。
森の入口まで戻る途中で、木の根本にキノコが3本生えているのに気がついた。
大きな赤い傘のキノコで、受付嬢が見せてくれた図鑑にのっていたものによく似ている。
確か何かの薬の材料に使用され、買い取り価格が高いと言っていたような……。
スコップで採取し、土を落としていると、頭の中で、「ポーン」と音が鳴り、遅れて、
【スキル採取を獲得しました】
声が聞こえた。
誰の声だ?
今のは……スキルを覚えたのか……?
ギルドカードを取り出し、スキルの項目に採取の文字を探した。
==
名前 ソーヤ・オリガミ
種族 人間 男
年齢 26歳
職業:
レベル:1
==
けれど、採取の文字がない。
というか、スキルと称号……ステータスすらない。
あるのはレベルまでで、その下は消えてしまっていた。
なんだこれ?
不良品だったのかな……。
腑に落ちないままキノコをしまい、街に帰るのだった。
街の門に立つ守衛にギルドカードを見せると、すんなりと中に入れた。
「お疲れ様です」
声をかけると、
「ああ、お前もな。ありがとう」
笑顔で挨拶をされた。
首狩り族と恐れられた僕はもういないのだ!
気分よく冒険者ギルドに向かい、先程の受付嬢に取り出した薬草を渡した。
彼女は慣れたように葉の形と状態等を確かめ、
「はい、大丈夫です。依頼完了となります」
と言った。
「他には何か見つけたものはありますか?」
「そういえばキノコを見つけました。これは買い取り対象のものですか?」
「拝見しますね……これはノインですね。薬の材料になる中々手に入らない貴重なキノコです。3つもあるんですか? すごいですね、いい金額になりますよ!」
自分のことのように喜んでくれた。
「ありがとう。ちょっと、質問してもいいかな?」
「はい、どうぞ」
「採取をしていたら、【スキル採取を獲得しました】って、頭の中で声が聴こえたんだけど……」
「声……ですか? 頭の中で? 誰か近くにいた人が叫んでいたとか?」
「……いや……そうかもしれない。少し眠かったから、ぼんやりして寝ぼけていたのかも」
もしかして、普通の人は頭の中に声は聴こえないのかもしれない。
誤魔化しておこう。
「あと、ギルドカードのステータスとかが消えてしまって……」
「ああ、そのことでしたら依頼完了の手続きと一緒に説明しますね。カードを下さい」
ジーンズのポケットからカードを出して渡すと、登録の時の箱にセットして操作した。
「はい、これでオッケーです。あれっ……ソーヤ様、採取のスキルが付いてますよ!
やりましたね! 今はまだレベルが1ですが、レベルが上がると価値のある物を採取しやすくなったりしますから、頑張ってレベルを上げましょう!」
カードを渡してくれたので、見てみた。
==
名前 ソーヤ・オリガミ
種族 人間 男
年齢 26歳
職業:
レベル:1
HP:20/20
MP:20/20
筋力:16
体力:16
魔力:16
器用:32
俊敏:18
スキル:採取《Lv1》
称号:
==
「スキルがある……」
「はい! 一度の採取依頼でスキルを覚えるなんてすごいですね! 昔から、採取をよくしていたのですか?」
「いや……あまり思い当たる節はないかなぁ」
「そうですか? 気がつかない内に経験が溜まってっていたのかもしれませんね。とにかく、おめでとうございます!」
彼女があまりにも嬉しそうにしてくれるので、僕まで嬉しい気持ちになってきた。
「うん、ありがとう。あなたのおかげです」
「いえ、私は何も……ソーヤ様が頑張って薬草を採取したからです。では、報酬のお支払いと買い取りをしますね」
薬草とキノコをカウンターの後ろにしまい、トレーの上にお金を並べてくれた。
「採取依頼の達成で100リム、ノインが一つ300リムなので……合計で1000リムになります。ご確認ください」
銀色の硬貨が9枚と銅貨が10枚だ。
ということは……銀貨1枚が100リムで、銅貨1枚が10リムかな?
「細かいお金も必要かと思って……銅貨も銀貨に変えたほうがいいですか?」
彼女は本当に気が利く。
受付嬢の鏡といってもいいだろう。
「いや、助かります。ありがとう」
恥ずかしそうに彼女が前髪を手で触ると、一瞬青い目が片方あらわれた。
前髪、もっと短く切ればいいのに……切れるものなら僕の手で切ってあげたいけれど。
せっかく仲良くなれたのに嫌われるのは嫌なので、欲求を固く封印する。
「では、これで」
「はい、これからも頑張ってくださいね」
一言かわして外に出た。
確か宿屋は一泊80リムだったから、約9日分を稼いだことになる。
昼ご飯代もあるから、実際はもっと少ないか。
それに今日はたまたまノインというキノコを見つけたからよかったが、薬草だけだと100リムで1日の宿泊と昼代で消えるだろう。
明日からはもっと稼げる依頼を受けるか、または受付嬢の言う通り、薬草を探しつつ採取のレベルを上げて、買い取りが高い物を狙うか……。
とりあえず、明日のことは明日になったら決めよう。
今日は疲れたし、宿に行って休むことにした。
期待しないで待っていると言った宿屋の女将は、本当にまったく期待していなかったようだ。
3日分の宿代を纏めて支払う僕に驚いていたし……。




