125.美容師~挟み撃ちをされる
ケネスさんの指示で2組にわかれて土蜘蛛の出てきた洞穴の奥2つを探索することになり、先程戦闘を行った際の組みでそれぞれ進むことに。
その根拠は大量の魔物との戦闘でも安定して戦えていたし、せっかく経験した連携を崩すのはもったいないと判断されたせいだ。
これには僕も同意できる。
シドさん達とは一旦お別れとなり、カシムさんを先頭に僕達は進む。
『トーチ』に照らされる洞穴はだんだんと奥に行くに従ってその幅を狭くし、途中で右に曲がっていた。
ということは……前から来る気配に警戒するが仄かな灯りを見つけてやっぱりと思った。
トイトットさんの『トーチ』だ。
「結局は繋がっていたっすね」
「だとするとさっきの土蜘蛛は、どちらもこの奥から来たということか」
シドさん達と合流した僕らの前には、奥に伸びる洞穴がある。
大量の土蜘蛛がまだこの先にいるのかどうか。
それは進んでみなければわからない。
僕達の組が先頭に立ち、移動を開始する。
道幅は広くなり、人間4人が並んで歩ける程度。
土蜘蛛なら1匹半分くらいか。
カシムさんは慎重に足を進め、たまに立ち止って辺りを見回したり、目を閉じて耳を澄ませてみたりするのでその速度は遅い。
けれどランドールさんでもそれに対しては文句を言うことはない。
その行動を信頼しているのだろう。
道は真っ直ぐに続いているので、帰り道に迷う心配だけはなさそうだ。
念の為ギルド職員が羊皮紙にマッピングしてくれているが、今のところ使用する事態にはならないだろう。
どこまで真っ直ぐに進むのか、この先はどうなっているのか。
誰もがそれを気にしているのだろうが……、
「止まるっす」
小さく、カシムさんが呟いた。
「どうしました?」
ケネスさんが話しかけるが、返事はない。
カシムさんは前方を見詰めたまま、何かを気にしているようだ。
「ケネス、灯りをもっと前に飛ばして欲しいっす」
「わかりました」
カシムさんの5メートル程前で浮いていた『トーチ』がするすると前方に移動していき、30メートル程進んで止まった。
行き止まりではなく、ケネスさんが魔法を飛ばせる限界距離のようだ。
「ここまでです。あとは私自身が進まないと」
「妙っすね」
カシムさんにとっては『トーチ』の移動距離は十分だったようで気にした様子はないが、首を傾げていた。
「どうかしたんですか?」
「ソーヤっち。確か察知系のスキル、持ってますよね? 何か感じないっすか?」
察知系のスキル?
《気配察知》のことか?
意識はしていないが発動はしていると思う。
ただ、特に何も感じない。
「僕には気になるようなことはありませんが」
「そうっすか。気のせいっすかね……進むっす」
カシムさんが再び歩き始めた。
でもその歩みは先程よりも遅い。
どうも左右の壁を気にしているようだ。
手で触れることはないが睨むように見つめることが多い。
壁の奥に何かあるのだろうか?
僕の《気配察知》は何も知らせてはこないのだが。
試しに、《集中》でブーストをかけてみるか。
すると、
【気になります!】
右の壁に何かがあるようだ。
「カシムさん、右の壁!」
僕が叫ぶと同時にカシムさんも叫んだ。
「ランドール! 右の壁を叩き割るっす!」
「おう!」
ランドールさんが思い切り大剣を壁に叩きつけた。
思いのほかもろかったのか、それとも壁の厚みが薄かったのか、ボロボロと壁が崩れ落ち、その向こうで赤い目が光った。
「土蜘蛛!」
「シドとランドールは前に! トイトット君、私達はこちらに!」
ケネスさんがすばやく動き、僕も警戒しながら付いていく。
壁の残骸を乗り越えて土蜘蛛が1匹出てきたが、ランドールさんとシドさんがそれぞれ攻撃して倒していた。
けれど、その後ろからもまだ赤い目が覗いている。
「ケネス、どうする? ここで向かい討つか?」
「ここは狭くて戦いづらいので、あの広い場所まで来た道を戻りたいところですが……どうやらそうはいかないみたいですね」
シドさんの問いかけに対して、ケネスさんが苦々しく答えた。
通り過ぎてきた道の壁が崩れて、そこから続々と土蜘蛛があらわれてきた。
「どうやら逃げ道を塞がれたようですね」
「前に進むしかなさそうっす」
前方の壁からも土蜘蛛が出ては来るが、後方よりも数が少ない。
ランドールさんとシドさんは壊した壁の向こうから出てくる土蜘蛛を食い止め、自ら壁を壊して出てきた土蜘蛛とはランカとタイムさんが戦闘を開始している。
「ランドール! シド! 移動します!
土蜘蛛を食い止めつつ遅れないように付いてきて下さい。ランカさんとタイムさんは隙を見てこちらに! ランドール達と合流してください」
「あいよっ!」
「わかった」
ランカが槍で土蜘蛛の足を捌きながら軽快に返事をし、タイムさんは斧で土蜘蛛の足を叩き潰して、ランカに先に行けと手で合図をする。
カシムさんを先頭に足早に移動していると、後ろからランカが駆け抜けていき、その横に並ぶ。




