123.美容師~魔力とMPについて説明を受ける
「では魔力の残量ということですが、MPの残量ということですよね?」
「そうです」
「それはどうやって確認すればいいのでしょうか?
ステータスカードを見れるのはギルドで更新した時だけですよね? ケネスさんはどうやって確認を?」
「そうですね。体感的なものがひとつ。あとは自分のMPの数値を覚えておいて、魔法で使用した数値をそこから引く事で大体の残量がわかります。
一般的にはそれを繰り返していき、同時に感覚で覚えるというのが理想ですね。
MPをギリギリまで消費すると頭痛がしたりふらついたりと体に異常が出始めますが、そういった経験はありますか?」
「はい、魔法の練習中に体調が悪くなったら魔法の使い過ぎは控えるように師匠から言われていました。特に目眩が出た時は横になって安静にして休憩を取るようにと」
「そうですね、MPを限界まで使いきってその状態で魔法を使おうとすると、足りないMPをHPから補充しようとするので、最初は目眩、次に頭痛、吐き気と徐々に体調が悪くなると言われています。
いわゆる危険信号というやつですね。今ではそれが解明されているので皆気を付けていますが、昔はそれを知らずに死んでしまった人もいたそうですよ」
一度、限界までMPを使いきったらどうなるか試してみたくてやっていたら、師匠からかなり怒られた覚えがある。
『死にたいのか!?』と。
もっさんお薦めのライトノベルで読んだ『MPを使いきることでMPの容量が増える仕組み』はこの世界にはないみたい。
それどころか自殺の一種のようだ。
同じことを師匠も説明してくれていたのだろうが、その時は頭痛が酷くて記憶が曖昧だった。
ケネスさんに聞いておいてよかった。
「というわけで、魔力というかMP残量でもいいけど管理は最重要課題です。
できれば現時点での自分の最大MPと使用する魔法ごとの消費量、時間経過で回復する数値はなるべく早く覚えておいたほうがいいですよ。この緊急依頼が終わったら調べてみるといい」
「はい、大変勉強になりました。ありがとうございます」
「授業料は一回の食事代でいいですよ。楽しみにしてますから」
「ケネスさんの分だけでよければ」
なんて会話のやり取りをしていると、シドさん達も土蜘蛛を倒し終えたようだ。
「ふぃー、疲れたー」
ランカが槍を引きずりながら歩いてきた。
「ソーヤー、水ちょーだい」
「いいですよ、水袋を出して下さい」
「あー、違う違う。飲む分はもう飲んだから、ここに出して、ここに」
そう言って、自分の頭上を指出した。
意味がわからず首を傾げていると、
「おっ、贅沢だな。俺もついでに頼むわ」
シドさんがランカの隣に並んで立つ。
「俺っちもいいっすか?」
カシムさんまで寄ってきて、俺も俺もと、一塊の集団ができた。
ケネスさんとトイトットさん、クミンさん以外は全員がウキウキしながら何かを待っている。
困った僕がケネスさんに助けを求めると、それより早くランカが待ちきれないように、
「早く! 水、プリーズ!」
と叫んだ。
「水を浴びたいってことですよ。あそこらへん一帯に水を出してあげて下さい」
苦笑交じりにケネスさんが教えてくれた。
なんだ、水浴びがしたいのか。
それならば飲み水を出す『クリエイトウォーター』ではなく、こっちかな。
『大気に宿るマナよ、我が呼び声に答え、壁となりて立ち塞がれ。アクアウォール』
ランカ達の頭上に大きな水の塊が出現し、滝のように下に向かって流れ落ちた。
「あばばばば」
一人だけ上を向いたまま大きな口を開けていたランカが大量の水を飲んで溺れ、水が収まったとたんに、涙と鼻水まみれで掴みかかってきた。
「ソーヤ! あんたあたしを殺す気なの?」
「いや、ランカが水を浴びたいっていうから水を出しただけなんだけど」
「それにしたって限度ってものがあるでしょうが! 危うく溺れかけたじゃないの!」
胸倉を両手で掴んでグラグラされすぎて、気持ちが悪くなりそうだ。
「まぁまぁ、ランカっち。おかげで綺麗になったじゃないっすか」
カシムさんが止めてくれたので吐かずにすんだが、まだ頭がゆらゆら揺れているような錯覚だ。
ランドールさんとシドさんは、
「気持ちよかったな! また後でお願いしよう!」
なんて笑いあっているので、馬鹿みたいに口を開けて上を向いていたランカが悪いと思う。
そう思うことにしよう。
呆れたような目で見てくるケネスさんとトイトットさんの視線は無視の方向で。
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