122.美容師~近接戦闘をする
「わかりました。いきます!」
《観察》《集中》《脚力強化》《身軽》
一つずつスキルを重ねて発動し、カシムさんの右側に走り寄る。
この位置なら味方に当たることはないな。
急いで魔言を唱える。
『大気に宿るマナよ、我が呼び声に答え、礫となりて敵を撃て。アクアバレット』
生み出す礫は今の僕の限界である5つ。
顔辺りにと、狙いも疎らに解き放った。
左側の土蜘蛛に2発、右側には3発命中。
ただし目に直撃したわけではないので、ダメージはあまりなさそうだ。
「おお! ソーヤっち、中々やるっすね」
荒い息を整えながらも、笑顔でカシムさんが褒めてくれた。
「1匹もらいますよ。右側でいいですか?」
「悪いっすね。魔法職に無理させて」
「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」
「すぐに仕留めてそっちに行くから、ちょっとの間だけ頼むっすよ」
槍を両手で振り回し、カシムさんが力強く攻撃を繰り出す。
さて、こちらはどうしたものか。
僕の受け持つ土蜘蛛はアクアバレットを当てられたことで苛立っているのか、8つの真っ赤な目を輝かせてにじり寄ってきた。
とりあえず両手に短剣を持ち観察する。
正面で相対しているから糸は大丈夫。
口元……毒液を吐く様子はない。
だとすると、爪での攻撃をどうにかすれば。
長い足が伸びてきて、鋭い爪が振り下ろされた。
それを右手の短剣を回転させて外側に弾く。
よし、やっぱり《回転》は使える。
2度、3度と爪を短剣で弾いていると、
「待たせたっすね」
カシムさんの槍が横から土蜘蛛の腹を突き破った。
ドロドロと内蔵がこぼれ落ち、痙攣しているところにケネスさんの『フレイムバレット』が着弾。
親指を立てたケネスさんと視線があったので、こちらも親指を立ててかえした。
ランドールさんは土蜘蛛2匹の爪攻撃を避けることなく、「ガハハ!」と笑いながら逆に大剣で切り飛ばしている。
あの人は大丈夫そうだな。
「とりあえず、これで打ち止めだといいのですが」
ランドールさんの援護の為に、『フレイムバレット』を飛ばしながらケネスさんが近寄ってきて、
「お疲れ様。おかげで助かりましたよ」
肩を叩いて労ってくれた。
「かなり思いきって魔法を使ったようですが、魔力の残量はどうですか? 魔力回復薬がいるなら言ってくださいね」
「魔力の残量ですか? まだ大丈夫だと思いますが、そもそもそれってどうやって確認するものなのでしょうか?」
何度か聞かれていたが、今一わからなかったのだ。
師匠以外の魔法使いと長く接するのは初めてだし、この際聞いてみることにしよう。
「どうやってというか……そういえばソーヤ君は魔法使いに成り立てだったんですね。ソーヤ君の師匠からはその辺りを聞いていませんか?」
師匠から聞いたかって?
……聞いていないような気がする。
「聞いていないと思います。そもそもケネスさんの言う魔力って魔素のことですか? それともMPのことですか?」
「うーん、難しい質問ですね」
ランドールさんのことをちらりと見て戦闘が終了していることを確認し、まだ戦闘継続中のシドさんチームを見て大丈夫と判断したのか、ケネスさんが話し始めた。
「ソーヤ君の師匠がなんと説明したかはわかりませんが、そもそも魔素と魔力は同じと考えられています。
その二つの影響を受けて数値化されているのがMP、つまりマジックポイントですね。
魔法を使う時は体内の魔素と魔力によって魔法を発動します。そうすると使用する魔法に応じてMPが減ります。ここまではいいですか?」
「はい、大丈夫です」
「私達冒険者は冒険者カードを通して、自分のステータスを確認することができますよね?
その中には魔力の項目があり、この数値が大きい程魔法の威力が上がると考えられています。そしてMPの総量も多いと推測されています。
レベルが上がってステータスの魔力があがると、それに比例してMPの数値も増えます。よって魔力=MPという考え方をしています。
なのでこの回復薬のことを魔力回復薬と言ったり、MP回復薬と言います」
「どちらが正しいのしょうか?」
「うーん……どちらも正しいというのが答えでしょうか。正直、どちらでもいいと私は思っていますよ。呼び方が違うだけで効力が変わるわけではないですからね」
苦笑を浮かべ、紫色の液体の入った小瓶を開けて一息に飲み干した。
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