121.美容師~魔法で戦闘に参加する
「こっちも来たっすよ!」
先走らないように押さえていたランドールさんから手を放し、地面に突き刺していた槍を引き抜くと同時にカシムさんがバックステップで穴から距離を取る。
「どうやら仕留めきれなかったようですね。もしくはこちらの想定よりも数が多いのか……」
呟いているケネスさんの腕を引いて、僕もカシムさんが下がった分後ろに移動する。
ランドールさんだけはその場を動かず、土蜘蛛が足の爪で攻撃してくる度に大剣で切り飛ばしている。
その隙に横からカシムさんが目を狙って攻撃を加える。
二人の連携は安定しているように見えた。
穴の幅が狭く土蜘蛛1匹しか出てこられないのであれば、このまま見守るだけでよかったのかもしれない。
だが、戦闘中の土蜘蛛を押しのけるように横から新たな1匹が出てきたので、そいつを止める為にカシムさんが連携から離れた。
2人共、1対1の状況だ。
「ソーヤ君、援護できる魔法があればお願いします」
ケネスさんが腰のポーチから小瓶を取り出して、紫色の液体を口に含む。
使いすぎたMPを回復するのだろう。
その間、僕が働かなくては。
「わかりました」
二人に当てないように、それだけは厳守と頭の中で念じ、魔言を唱えた。
『大気に宿るマナよ、我が呼び声に答え、礫となりて敵を撃て。アクアバレット』
生み出して飛ばす礫は1つにした。
誰かが戦っている中に魔法を飛ばすのは慣れていないし、むやみに数を増やさないほうが狙いやすい。
僕が狙うのは、ランドールさんが相手をしている土蜘蛛の目だ。
8つもあるので1つ潰したくらいではダメージは少ないが、牽制くらいにはなるだろう。
上部に6つ並んでいる内の左から2番目に命中し、急所に近いのか攻撃を与えられた一瞬、怯んで動きを止めた。
「でかした、ソーヤ!」
大剣を上段に振りかぶっていたランドールさんが、叫びながら豪快に振り下ろした。
土蜘蛛は体を真っ二つにされ、絶命したようだ。
「ソーヤっち、こっちにも頼むっす!」
カシムさんは器用に土蜘蛛の攻撃を避けながら、8つの目を一つずつ潰していたようで残りは2つ。
なので今度も残りの目を狙い、アクアバレットを発動し命中。
「これで最後っす!」
カシムさんが最後の1つを傷つけ、引き戻した槍を今度は柔らかそうな腹部へ突き入れると、土蜘蛛は静かに地面に沈んでいった。
これで終わりかと思いきや、そんな安易なはずはなく、またもや2匹の土蜘蛛が押し合うようにしながら穴から登場。
ランドールさんとカシムさんが1匹ずつ攻撃を与えていく。
「ソーヤ君、変わりますよ。初級の物ですが、少しでも魔力を回復させてください」
ケネスさんから小瓶を受け取り一口飲んだ。
ミントを噛んだようなスッキリした味がする。
そういえば、シドさん達の方は大丈夫だろうか?
横目で伺うと、向こうもこちらと同じような状況だがこちらよりもきつそうだ。
目に見える土蜘蛛は3匹もいる。
2匹の土蜘蛛をシドさんとランカさんが受け持ち、残り1匹をハスラさんとタイムさんで協力して相手している。
トイトットさんは時折炎の礫を飛ばし、クミンさんは引っ切りなしに弓矢を放ち続けていた。
シンダルさんは何をしているかというと、鉄の盾を構えて二人の前に立ち、油断していると飛んで来る毒液を器用に盾で防いでいた。
そのせいで、盾はどす黒く紫色に染まりつつある。
「ソーヤっち! 避けるっす!」
カシムさんに注意されて視線を戻すと、毒液がすぐ目の前に。
慌ててケネスさんのローブを掴み、転がるように引きずり倒した。
「よそ見していると危ないっすよ! こっちに集中するっす!」
「すみません」
いつのまにか、こちらの土蜘蛛も3匹に増えていた。
カシムさんが2匹を同時に相手しているので、余裕がなさそうだ。
ランドールさんのそばには3匹の死骸。
カシムさんのそばには2匹の死骸。
戦闘継続中が3匹。
穴の奥にはまだ後続が待っているのを《気配察知》が教えてくれた。
どうやらかなりきつい戦いになりそうだ。
「シド! 一人こっちに貰えませんか? カシムがちょっときついです」
ケネスさんが交渉を持ちかけるが、
「無理だ! 今でもギリギリだし、こっちが補充を欲しいくらいだぞ!」
シドさんが声を張り上げて却下されてしまった。
二匹を相手しているカシムさんは致命傷こそ避けてはいるが、細かな切り傷が増えてきていた。
このままだとマズイな。
「ケネスさん、僕も前に出ます。許可を!」
「……仕方ありませんね。でも無理は絶対にしないでくださいよ。倒そうとしなくてもいいですから、とりあえずカシムの所の1匹をひきつけてあげてください」
「わかりました。行きます!」
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