113.美容師~勘違いされて嫌われる
改めて謝罪をしにきたシンダルさんから追加で貰った情報で、トイトットさんが僕のことを「お遊びの魔法使い」だと思いこんでしまった原因が判明した。
レベルが低いのに冒険者のランクが高い人とは、高レベルの冒険者に寄生してというか、かわりに魔物を倒してもらい、その素材を冒険者ギルドに持ち込むことで冒険者ランクだけを上げて威張っている人と思われるらしい。
貴族の息子等によくいるらしくて、自分で魔物を倒しているわけではないので、Eランクなのにレベル1というおかしな現象になるのだが、ランクだけは高いので自分より下のランクの冒険者を見下し馬鹿にするのだ。
ただこの手の悪さもDランクより上にいくには、マリーが言っていた適性レベルというのが大きく関係してくるし、冒険者ギルドによる試験も行われるので、できてもEランクまでということらしい。
一時期、僕のレベルが上がらないのも同じようなズルをしているのではないかと冒険者ギルド内で問題視されたみたいだが、マリーとキンバリーさんがそんなことはありえないと庇ってくれたので調査をかけられることはなかったし、面と向かって疑われることもなかった。
大きな街や貴族の息子達には『名前だけのEランク冒険者』が結構な数でいるらしく、トイトットさんもそんなタチの悪い輩に馬鹿にされた苦い過去があるようで、僕のことを目の敵にしてしまったとか。
自分が憧れていた『狼の遠吠え』にそんな僕がいるのだから、余計に腹が立ったとか。
魔法使いの恥さらしだ、とか。
馬車の中で騒いでいるみたいなのだが、今は必死にクミンさんが宥めているらしい。
正直、とんだ言いがかりなのだけど、僕のレベルが低い本当の原因を話す事はできないので、クミンさんに頑張ってもらうしかない。
頑張れ、クミンさん。
心の中でエールを送ろう。
「もう少しで峠の入口っすよ。ほら、見えてきた。あれがアンガスの峠っす」
カシムさんが指さす先には、切り立った崖に挟まれた一本の道があった。
ここからわかる高さはそれほどでもなく、高層マンション30階程度といったところ。
ただその横幅が広く見渡す限り壁の様に続いていて、山と呼ぶには緑は一切なく赤茶色の土と岩で形成された塊と言うべきか……とにかくこの先に進むにはこの道を通るしかなさそうだ。
道幅は馬車が3台並んで走れる程度の広さで、地面は舗装なんてされていないので一日の進む距離が稼げなそうだ。
馬車は木製の車輪でやはりゴム等の緩衝材が使われていないせいで、物は試しと一度はケネスさんと変わってもらったが、乗り心地が悪くすぐに降りることになったので速度が遅いのはそれも要因かもしれない。
「さ、進むっすよ。斥候からの話だと、魔物の出現場所はここからそんなに離れていないっすからね。馬車はここに置いていくみたいだし、ランドールが先頭、次がソーヤっちとケネス、最後尾が俺っちで」
カシムさんの指示にケネスさんが頷き、隊列を組んでアンガスの峠道に足を踏み入れた。
今回の討伐組みの中で一番ランクが高い『狼の遠吠え』である僕達は、斥候役のギルド職員から先頭に立つことを頼まれ、ついでにというかその職員の護衛もお願いされてしまった。
ただ護衛とはいっても、職員自身まったく戦えないわけではない。
魔物に囲まれた際には近くに居させてほしいというレベルの話しなので、ケネスさんは快く了承していた。
その際に報酬の追加を条件として約束させるあたりは、さすが長い間冒険者をやっているだけのことはあるなと感心させられる。
5つのパーティーが1列になって道を進む。
僕達の後ろにはEランク『炎の杯』、次にDランク、Eランク、Dランクと、EランクパーティーをDランクパーティーで挟むように隊列を組んだ。
何かあった時にフォローできるように、このような形になっているのだ。
問題の土蜘蛛が出入りしている洞窟は、ここから1日程度の場所にあるらしいのだが、到着は夜になりそうなので、手前でもう1泊して翌日の朝から洞窟に乗り込む予定となっている。
ただ魔物の襲撃の可能性もあるし、ならべくなら夕方には着きたいということで、普段より速足での強行軍だ。
道なき道と言うほどでもないが、まったく舗装されていないむき出しの土と岩でできた道なので、登りは結構キツイものがある。
ランドールさんとカシムさんはレベルの高さもあってかひょいひょいと身軽に進んでいくが、生粋の魔法職のケネスさんは戦士系の職業よりも体力的に劣るのか、杖をついていて表情にこそ出していないがこのスピードは内心辛そうだ。
その後ろに続くトイトットさんは、時折シンダルさんに手を引かれていたりするし、僕と目が合う度に睨みつけてくるものだから、余計に体力を消費しているような気がする。
この中で飛びきりレベルの低い僕はというと、スキルの《脚力強化》と《身軽》のおけげでなんとかついていくことができている。
それが余計にトイトットさんをいら立たせているみたいなのだが、僕にはどうすることもできない。
スキルを使わずに僕もへばって見せればいいのかもしれないが、全体から見るとそれは無駄にしか思えない。
今回の依頼ではケネスさんの護衛という扱いでもあるし、いつでも十分な力で動けるコンディションを保つ必要があるのだ。
1時間ごとに短い休憩を挟み、遭遇する魔物はFランクの小物なので、ランドールさんとカシムさん2人だけでさっさと倒してしまうし、僕らは何もやることはない。
ただひたすら歩くだけだ。
ケネスさんは戦闘時だけは杖を片手にいつでも魔法で援護ができるように構えるが、戦闘が終わると魔核と討伐部位等だけ剥ぎ取り指示を出し、少しでも消費した体力を回復させるように目を閉じて息を整えることに集中している。
この辺りは慣れたものなのだろう。
短時間の休憩でも、再び歩き出す時には足取りがしっかりしているので何か秘訣があるのかもしれない。
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