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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
112/321

112.美容師~冒険者に絡まれる

 

 陽が昇ると同時に目が覚めたが、他の人達はまだ寝ているようだ。

 焚火に木を足して、朝食用に簡単なスープを作る。

 

 乾燥肉と萎びた野菜を千切って鍋に入れ、塩を少々。

 材料も少ないが調味料はもっと少ない。


 塩と香辛料が何種類かあるくらい。

 なんとも作りがいがない。


 完成間近にトイトットさんが起きだして、無言でこちらを見ているのに気が付いた。


「おはようございます。美味しいか保証はできませんが、よければスープを召し上がりませんか?」


 笑顔で声をかけてみたが、返事がない。

 聴こえていないのかな? 


 彼はじっと僕を見ている。

 なら、無視されているのか?


 どうして?

 嫌われるようなことを、僕が何かしたのか?


 昨夜はそんなに悪い印象じゃなかったけれど、僕が寝た後に何かあったのか?

 思い悩んでいると、トイトットさんがぼそっと呟いた。


「お前は剣士なのか? それとも魔法使いなのか? どっちなんだ?」


「僕ですか? そうですね……つい最近までは剣士だったのかな? 今は……魔法使い?」


 自分でも判断が困る。

 戦闘スタイルとしては、魔法を使いながら短剣2本で戦うのだけど、今のところ魔法は離れたところからの奇襲用と牽制用として使う感じだろうか。

 

 主軸はやはり使いなれた剣の方が割合としては高いし。


「剣は置かないのか? 杖を持つには邪魔だろう」


「杖ですか……僕は持ってないので剣が邪魔にはなりませんね」


 そう言われてみれば、ケネスさんもトイトットさんも木の杖を持ってるな。

 師匠からは杖を買うようにとは言われていないけれど、僕も購入するべきなのだろうか。


「杖も持たずに魔法使いを名乗るのか? それとも魔法使いを馬鹿にしているのか?」


 だんだんとトイトットさんの口調が激しくなってきた。

 何をそんなにイライラしているのか僕にはサッパリなのだけど、声のボリュームも増してきたので周りで寝ていた人達も起きだし、何事かと視線で問いかけてくる。


「俺はお前のことを認めないからな! 遊び半分で魔法に手を出すと怪我ではすまないぞ!」


「トイトット! 何を絡んでいるんだ! やめないか!!」


 駆け寄ってきたシンダルさんとクミンさんが、トイトットさんの両腕をそれぞれ抱きかかえるように掴み、引きずっていく。


「ソーヤさん、すまない。気を悪くしないでくれ」


 クミンさんが申し訳なさそうに謝ってきたので、苦笑いで返しておいた。

 だって、何が何やらさっぱりなのだから。


 連行されながらも、トイトットさんは何やら叫んでいたが、意識的に《聴覚拡張》をオフにしておいたので僕の耳には届かない。

 

 そのうち、シンダルさんに頭を殴られて静かになり、馬車の中に追いやられていった。


「ソーヤ君、災難だったね」


 ケネスさんが横からポンと肩を叩いてきたので、


「なんだったんでしょう? 昨夜、僕が寝た後に何かありました?」


 唯一の情報提供者に問いかけてみる。


「うーん、何かあったというか……私の説明の仕方が悪かったのかもしれませんね」


「説明の仕方?」


「ええ、彼にソーヤ君のことを聞かれたので差し障りのない話をしたつもりだったんですが……どうも彼はそれを曲解して捉えてしまったようで」


「具体的にどんな話をしたんですか?」


「そのですね、彼としてみたら『狼の遠吠え』は3人パーティーだと思っていたら4人いるじゃないですか。で、彼は誰なんだ? という質問があり、臨時参加の冒険者ですよと」


 うん、確かに間違っていない。


「それでソーヤ君の職業を聞かれたので、『魔法使いのようですよ』と答えたら、『剣士か盗賊ではないのですか?』と聞かれたのですが……『本人は魔法使いと言っていました』と答えたら急に不機嫌になってしまって」


「どうして僕が魔法使いだと、彼が不機嫌になるのでしょうか?」


 いまいちそこがよく分からない。


「なんでしょうかね、若い魔法使いには時々いるのですが、自分の職業を特別視していることがあるんですよ。良い言い方をすれば『誇りを持っている』ということなんですが」


「自分の職業に誇りを持つのはいいことだと思いますけど?」


 僕だって美容師という職業に誇りを持っている。

 今はそれを名乗ることはできないとしても。


「どうも彼は、ソーヤ君が剣士の職業なのに遊びでというか興味本位だけで魔法に手を出したと勘違いしてしまったようで」


「どうしてそんな風に?」


「いや……ついですね、ソーヤ君の冒険者ランクとレベルを口にしてしまいまして……別に悪気があったわけではないんですよ?」


「……どうして僕の冒険者ランクとレベルを勝手に他人に教えたりするんですか?」


 個人情報流出はやめてほしい。

 僕のレベルが2なのは、できれば誰にも知られたくないものなのに。


 裏切られたような気がしてケネスさんを睨むと、


「申し訳ない!」


 勢いよく頭を下げられた。

 長い赤茶の髪が、真っ直ぐに空気を切り裂いて移動する。


「私達と一緒に行動しているソーヤ君の実力を知りたいと彼に煩く言われてね。

 私達の『パーティーにいない盗賊職ならともかく、剣士や魔法使いなら一緒に組む意味がない、足手まといだ!』とか言われて、つい私も頭にきたというか……

 『ソーヤ君はあなたと同じEランク冒険者ですよ! ソーヤ君が私達に相応しくないと言うのなら、今私と会話をしているあなたも相応しくないということですね!』

 なんてつい口にしてしまって。あとは同じEランクならレベルはどっちが上なんだという話の流れに……」


「そういうことでしたか」


 ケネスさんはどうやら僕の為に怒ってくれたようだ。

 例えそれで僕の情報を渡してしまったとしても、さっきまでのような悪い気はしない。


「話の経過はどうあれ、勝手に君の情報を話してしまい、申し訳なかった。この通り謝罪させて貰う」


 再び、ケネスさんが頭を下げた。


「わかりました。謝罪を受け入れます。3人とも頭を上げて下さい」


 僕としては、こう言うしかない。

 ケネスさんの背後にはカシムさんとランドールさんがいて、同じように2人が頭をさげているのだ。


 パーティーの一人の責任はみんなの責任ということなのか。

 いつもはいい加減そうなランドールさんでさえ、真面目な表情をしている。


「ただ、今後はあまり周囲には言わないで下さいね。ちょっと訳ありなもんで」


「ああ、この胸に刻んでおくよ。2人も一緒に謝罪してくれてありがとう。悪かったね」


 前半は僕に、後半は仲間の2人に向けての言葉だ。

 カシムさんは無言で頷き、ランドールさんは何故か僕の肩を一発叩いてきた。


 痛いんだけど……もしかしてお礼のつもりなのか?

 彼のことだけは何を考えているのかよくわからない。




お読みいただきありがとうございます。


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