105.美容師~オリジナル魔法を獲得する
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「ソーヤ、これから見せる魔法が、答えだということでいいのだね? つまり、改良はすんでいると?」
「はい、たぶん大丈夫だと思います。ただ実際に試したわけではないので、それをこれから行いたいと思います。
どうか師匠、危ないと思っても手は出さないで下さい。それで怪我をしたとしても、自分の責任ですので」
「わかったよ、勝手におし。ただ、命の危険があると判断したらまた魔法を使うかもしれないよ」
「それはお任せします。ただ、できればそのギリギリまでは好きにやらせて下さい」
師匠は顔をしかめて考え込んでいたが、最後には頷いてくれた。
きっと自分の魔法が間に合うギリギリまではやらせてくれるつもりなのだろう。
その見極めに対しては僕がどう対応するかを想像していたのかもしれない。
なるべく焦った姿等は見せないようにしよう。
でないと、途中で無理やりにでも止められかねない。
それをできるだけの実力差が僕と師匠にはあるのだから。
的にする為のスライムを作成し、配置完了。
「行きます」
一言呟いて魔法を行使する。
『大気に宿るマナよ、我が呼び声に答え、刃となりて敵を撃て。アクアカッター』
《魔力制御》と《集中》を使い、くの字型の刃を形成。
ここまではさっきと同じだ。
ここからは練習の成果を生かす時。
スキル《調色》を発動!
下部先端の刃を消し、紫色に調色してわかりやすく持ち手部分を作る。
ここを掴み、振りかぶって投げた。
水の刃は勢いよく弧を描いて飛び、スライムを撃破。
問題はここからだ。
行きと同じように弧を描き、刃が僕めがけて戻ってくる。
ここで《観察》と《集中》発動!
回転する刃の紫部分を探す。
よく見ろ!
焦るな。
師匠が止めようか迷っているのが空気を通して伝わってくるので、動揺を悟られればすぐさま師匠に止められる。
あくまでも予定通り進んでいるかのように振舞うんだ。
水の刃はすでに1メートル前方。
両目を細めて、その一点に集中する。
ここだっ!!
右手を差し出した。
ポーン、
【スキル 観察のレベルが上がりました】
同時にパシンと手の平に衝撃が走り、勢いを殺しきれずにほんの少し体が浮いたが、なんとか無事に受け止められたようだ。
右手にはくの字型の水の刃が握られている。
ぶっつけ本番だったけど成功したことで、安堵のあまり体から力が抜けた。
一歩間違えば、腕か指の何本か失っていたかもしれない。
「ソーヤ……説明を」
「ああ、すみません。ちょっと集中しすぎて気が抜けたと言うか」
言い訳しつつも、車椅子に乗った師匠の元に歩み寄る。
「そもそもソーヤ、あんたの魔法は成功したのかい? それとも失敗したのかい? わたしにはそれすらわからないんだけどね」
眉間にしわを寄せて、師匠がため息をついた。
視線の先は僕の右手。
つまり右手に握られた水の刃だ。
「僕の中では成功ですよ。想像していた通り完璧に成功です」
「そうかい、ならさっさと説明しておくれ。わたしには何が成功なんだかさっぱりだよ」
疲れたような苦笑に急かされて、僕は今の魔法の解説をする。
つまり、こうしたわけだ。
ブーメランをイメージして撃った僕のアクアカッターは目標を撃破し、弧を描いて自分の元に戻ってくる魔法だ。
それを変えられないのであれば、避ける、もしくは掴めばいい。
そしてまた投げれば魔力を温存しつつ、再度攻撃できるという2倍お得な魔法。
問題は、持ち手部分ではなく刃の部分を掴んでしまえば、自らが怪我をするということ。
無色透明の持ち手では、どこを掴めばいいのかわからない。
なのでここでスキル《調色》が登場。
師匠が寝ているうちに練習し、持ち手部分に色を付けることに成功。
あとは、持ち手部分に付けた色を頼りに掴み取ればいいと考えた。
結論、なんとかイメージ通りに上手くいって、僕は御満悦というわけ。
全てを聞いた師匠はジト目で一言。
「ソーヤ……それは投擲武器があればいいだけで、魔法である必要はあるのかい?」
とりあえず僕は、全力で師匠から顔を背けるのでありました。
投擲武器を持ち運ぶ必要がないこと。
魔力さえあれば何度も作り出せること。
敵に囲まれた時に、背後から魔法で攻撃できること。
等々、思いつく限りに利点を説明し、なんとか師匠からは及第点をもらうことができた。
つまり、中級魔法を使う許可を貰えたということだ。
ただし、師匠からは『アクアカッターではないので別の魔法名をつけろ』と言われてしまい、『アクアブーメラン』と名付けた。
そのままだ。
最後に、師匠からこの魔法を使う際に有効な別の方法を教えてもらえた。
撃った魔法が自分に戻ってくるのなら、戻ってくる前に消してしまえばいい。
魔力制御がきちんとできれば、自分の撃った魔法は好きなタイミングで消せるらしいのだ。
その消し方を僕が知らなかったというか、意識していなかったのでできなかっただけのようだ。
こんな簡単な解決方法があったなんて。
落ち込む僕に、師匠は言った。
「初めから答えを聞いてしまうと、そこで終わってしまうだろ。今回はソーヤが必死に考えたことで新しい魔法もできたことだし、よかったじゃないか。勉強にもなったし、得をしたね」
なんとも師匠らしい言葉だ。
弟子としては甘んじて受けるしかない。
どっと疲れを感じはしたが。
というわけで、僕の魔法『アクアブーメラン』は戻ってきた刃を掴み再利用することも可。
途中の好きなタイミングで消し去ることも可、という使い勝手の良いオリジナル魔法に進化した。
ただし、師匠からはくどいくらいに『アクアカッター』と呼ぶことは許されなかったが。
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