103.美容師~魔法を改良してみよう
カリムさんには気をつけろと言われていたにもかかわらず、師匠をずぶ濡れにしてしまったので正直頼みづらかったのだが、運よくリンダさんが帰ってきていた。
メェちゃんにこっそりリンダさんを呼んでもらい、師匠の着替えを頼んだ。
どうして部屋の中でここまで濡れたのか聞かれたが、修行の一環だと説明して追及を免れた。
僕の分の着替えは、店の売り物を拝借することに。
メェちゃんが甲斐甲斐しく着替えを手伝ってくれたので、荒んだ気持ちも少しだけ和む。
「さて、ソーヤ。先程の魔法の問題点を話し合うとしようか」
ソファーに腰を落ち着けた師匠が、目を細めて探るように言った。
「まず、どうしてあんたの撃った魔法が自らに戻ってきたのかだけど、自分で説明できるかい?
こればっかりは、魔法を放ったソーヤにしかわからないから、どんなに頭を悩ませてでも解説してくれないと困るよ。それができないなら、わたしはあんたに魔法を使用する許可ができなくなる」
魔法が自らに戻ってきた理由か……それは間違いなく、僕のイメージに問題があったからだろう。
「たぶん、僕のイメージしたものに問題があったと考えます」
「わたしもそう思うよ。ソーヤ、あんたいったい何をイメージして魔法を撃ったんだい?」
師匠も何かには感づいていたようだ。
それを正直に話すかどうかで、僕のことを見極めようとしているのかもしれない。
ただでさえ、僕が何かを隠していることに気づいているので、今回の魔法の失敗もそれに関係があると思っているのかも。
なので、今回の件に関しては、それを包み隠さず師匠に話すことにした。
「師匠、ブーメランというものを御存じですか?」
「ブーメラン? 聞いたことないね。それは何に使うものなんだい? 武器かい?」
武器と言うか……確かに昔の人達は狩猟に用いていたようだけど、僕の認識だと玩具の部類に入る。
「武器でもあり、子供が遊ぶ玩具でもありますね」
「子供が玩具として武器を扱うのかい?」
師匠の眉間にしわが寄った。
小さな子供が剣や槍を手にしているのを想像したのだろう。
これは僕の説明の仕方が悪かった。
「僕の住んでいた場所では、遥か昔に狩猟の為の道具、つまり武器として開発されたようです。
ただ、今では安全な形状で怪我をしないように改良されて、子供が遊ぶ為の玩具として流通していました。なので殺傷能力などはありません」
追加して出した情報で、師匠の表情が緩む。
「ふむ、つまりソーヤはその玩具を元にして、先程の魔法を放ったということだね? それでそのブーメランとやらはいったいどんなものなんだい?」
「ブーメランというのはですね、木でできていてくの字型というか、三日月のような形をしています。
遊び方は片側の端を持って投げて遊ぶのですが、投げた物が弧を描いて自分の所に戻ってくるのが特徴です」
「それをイメージしたから、魔法も自らの所へ戻ってきたのだね」
「だと思います。飛ばすことだけを考えてイメージしていたので、自分では撃った魔法が戻ってくるとは思いもよりませんでしたが」
まさか自分の撃った魔法で死ぬ所だったなんて、それこそ想像もしていなかったし。
「だとすると、戻ってこないようにイメージはできるのかい?」
戻ってこないようにか……ブーメランは投げれば戻ってくるのが普通なんだけどな。
戻ってこなければ、それはもはやブーメランとは呼べないし。
困った。
「それができないなら、さっきの魔法は使用禁止だよ。危なくってとても使えないね」
「そうですね……何か改良点を考えてみます」
「そうしておくれ。わからないことがあれば相談にはのるから遠慮なく声をかけな」
師匠はそう言ったきり、目を閉じてソファーにもたれ込んだ。
しばらくすると小さな寝息が聞こえる。
久しぶりに魔法を使って疲れたのだろうか。
もしくは僕が驚かせて余計に疲れさせたのかもしれない。
師匠に無理をさせたのなら、弟子として申し訳ない。
なんとかこの魔法の改良点を見つけなければ。
師匠が起きるまでに考えてみよう。
僕の撃ったアクアカッター……的にしたスライムには見事命中したし、スピードもそれなりに出ていたし、直線で飛ばずこともできるし、横から弧を描くように射線を取ることもできるので自分は真っ直ぐに突っ込めるし、実戦でも使い勝手はいいと思う。
ただ、戻ってきてしまうのがマズイのだ。
ならば戻ってこないようにイメージできればいいだけなのだが……戻ってこないブーメラン。
なまじ失敗作としか思えないので、うまくイメージができないのだ。
自分一人が戦かっていて周りが敵だらけならば、放った後のブーメランがどこに飛ぼうがかまいはしない。
敵に当れば儲けもの程度でいいだろう。
でも師匠の言うように、僕の他にも仲間がいたら……敵とは別に僕の魔法まで警戒してもらわなくてはいけなくなる。
命をかけた戦場で余計な神経を使わせるなんて、迷惑この上ない。
どうしたものか。
これでもかと頭を悩ませるが、どうにも打開策が浮かばない。
だって投げたブーメランは戻ってくるべきなのだ。
であれば、ブーメランとは思わずに剣の形にして持ち手を持って投げればいいのかも。
ただそれはもう投げナイフと変わらない。
面攻撃ではなく点攻撃なので、照準が甘ければかわされることになるし。
何か使えるスキルはないものか。
師匠も寝ていることだし、ノートを出してステータスの確認をしてみることに。
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