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女神様の美容師  作者: 獅子花
美容師 異世界に行く
102/321

102.美容師~自らの魔法で死にかける

 

 切れ味の鋭い三日月型の水の刃をイメージする。

 対象に触れるだけで、切り裂くような刃だ。

 

 ここまではいい。

 ただそれを掴んで投げようとすると、触れた自らの手が傷ついてしまうので困ってしまう。

 

 ということは……触らずに投げよう。

 もとい、飛ばそう。

 

 その為には……ダメだな。

 いい案が浮かばない。

 

 では発想を変えてみるか。

 触ると傷づく、なら傷がつかない場所を作れば良い。

 そう、持ち手だ。

 

 三日月型の水の刃の端部分にだけ、刃のない持ち手を作る。

 何かに似ているな。

 

 そうか!

 これでやってみよう!

 

 頭の中に形状を思い浮かべ、まずは的を用意する。

 水を生み出しスライムを作り、10メートル程離れた位置に行かせる。

 

 次に、魔言を紡ぎ右手は持ち手を握りしめるようにし、後ろへ振りかぶる。


「ソーヤ? 急にどうしたんだい?」


 師匠の声が聞こえてくるが、《集中》まで発動させてイメージを固めているので、悪いとは思うが無視させてもらった。


『大気に宿るマナよ、我が呼び声に答え、刃となりて敵を撃て。アクアカッター』


 魔法が発動し、一瞬で頭上に水の刃が形成されたのがわかったので、斜め前方に右手を振りおろした。

 

 くの字型の水の刃は弧を描いて勢いよく飛び、スライムの胴体部を撃破。


「やった! 師匠、やりましたよ!」


 喜んで師匠に告げる僕に、焦ったような声が。


「ソーヤ! すぐに刃を消しな! 発動した魔法を消すんだよ!」


 魔法を消す?

 何故?


 そもそもどうやって?

 飛ばした魔法を消すってことは……僕の飛ばした水の刃はどこだ?


 水の刃は……何故か僕の目の前にあった。



 師匠が小さく舌打ちし、すばやく魔言を唱える。


『大気に宿るマナよ、我が陣を守れ! アクアウォール』


 そして……水飛沫が全身にかかった。

 いや、水の衝撃を受けたと言っても過言ではない。

 バケツの中の水を顔めがけてぶちまけられたような感覚。


「ゲホッ! グ、ガハッ」


 顔に直撃した水が口と鼻に入り、盛大に《む》噎せる。

 一瞬、息ができなくなった。


「師匠、酷いですよ。何するんですか?」


 とっさに文句が口から出てしまうが、隣にいるはずの師匠を見て固まった。

 

 師匠の体も頭から足先までずぶ濡れで、髪の毛からは水が滴り落ちていた。


「えーと、師匠。大丈夫ですか?」


「『大丈夫ですか』ではない! 

 ソーヤ、おまえもう少しで体と首がサヨナラするところだったのがわかっているかい? わたしの魔法が間に合わなかったら、今頃死んでいたよ!」


「……えっ!? 死んでいたですか?」


「そうだよ。何故かあんたの放った魔法が的に当った後、綺麗な半円を描いてこちらに向かってきたんだよ! 

 だからすぐに魔法を消せと言ったのに、あんたときたら喜ぶのに夢中で気が付きやしない。

 いいかい、ソーヤ。自分の撃った魔法がどんな状態を呼び起こし、影響を及ぼしたのか……それはきちんと最後まで確認おし! じゃないと、いつか酷いしっぺ返しを食らうことになるよ。

 もしできないなら、中級以上の魔法を使うのはやめておきな。いつか仲間を殺すことになるかもしれない。それもソーヤ、あんたの撃った魔法でだ」


 どうやら僕は、自分の撃った魔法で死ぬところだったらしい。

 それを師匠が直前で防いでくれたということだ。


 だから師匠はこんなにも怒っている。

 いや、怒っていると言うよりも心配してくれているのだろう。

 貴重な助言をくれた。


 いまはまだソロだからいい。

 危険があるのは自分だけだから。


 ただ、この先パーティーを組むかもしれない。

 その時に、パーティーの仲間が危険な目に会うんだ。

 僕が撃った魔法によって、いつか仲間を殺すかもしれないと。


 足の先から震えが起こった。

 今だって、一歩間違えば、水の刃は師匠に向かって行ったかもしれない。


 師匠ならなんなくかわすかもしれないが、僕の魔法がもし師匠を傷つけたとしたら……それはもう弟子として失格だ。


『青』を継ぐどころではない。

 僕はきっと魔法を捨てるだろう。

 ニ度と使わないと封じ込めると思う。


「師匠、すみませんでした。ニ度とこのような失態はおかさないように気をつけます」


「1度目はいい。2度目もまだ許される。ただ、3度目はないよ。十分、注意しな」


 仏の顔も三度まで、ということか。

 この世界にも似たような格言があるのかもしれない。


 それはそうと、二人してびしょ濡れ状態なわけで、自分はまだいいが、このままでは師匠が風邪をひいてしまいかねない。


「師匠、とりあえず着替えませんか?」


「そうだね、実技はここまでとして。あとは着替えてさっきの魔法の問題点について話そうか」




お読みいただきありがとうございます。


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