101.美容師~中級魔法を習ってみる
「ここはね、ちょっと特殊な空間だよ。若い頃に手に入れた貴重な魔法道具と錬金術で作られた部屋なんだ。
説明するのが難しいんだけど……ソーヤ、『亜空間』って言葉がわかるかい?」
亜空間というと、魔法物のアニメや小説ではお馴染みのアレか。
「はい、なんとなくはわかります。僕の知識のものと同じかどうかはわかりませんが、世界が違うという認識で良ければ」
「それなら話は早いね。用はわたし達が普段暮らしている世界とは別の世界で隔離された場所ということだね。
だからここで大きな魔法を使っても、外の世界には影響しない。音も聞こえないし、衝撃も感じない。店やリンダ達にはわからないということだね」
「これからはココで魔法の練習をするのですか?」
「そうさ。中級以上の魔法は、制御が難しいし、成功しても周りへの被害が大きいからね。
街の中で発動させた時点で高位の魔法使いがいることが周りにはばれてしまうよ。そうなったら面倒だからね。今後はここで修行をするのさ。
さっきも言ったが、リンダやメイにはこの部屋のことは内緒だよ。修行中にうっかり入ってきたら危ないからね」
「わかりました。この部屋のことは言いません」
「ならさっそく修行開始といこうかね。ソーヤ、水属性の初級魔法はマスターできたかい? まずは復習から始めようか。教えた魔法を順番に見せておくれ」
「はい、では水を出すところから」
『大気に宿るマナよ、我が呼び声に答え、清き水を生み出せ。クリエイトウォーター』
手の平から水が零れ落ち、地面を茶色く濡らしていく。
『大気に宿るマナよ、我が呼び声に答え、意のままに水を動かせ』
水溜りが丸く塊になり頭頂部から角が生える。
腰の高さのスライムができ、ふよふよとゼリーのように揺れている。
それを魔法制御で5メートルくらい移動させ、次の魔法の標的とした。
『大気に宿るマナよ、我が呼び声に答え、礫となりて敵を撃て。アクアバレット』
限界の3つ同時発動といきたいところだが、あくまでもこれは復習の為の魔法だ。
なので水の礫は1つ。
その代わりに飛び出る角の根元を狙った。
水の礫は狙い通りの場所に命中し、スライムが弾けて水が飛び散る。
その水飛沫を遮るように紡いでいた魔言を間に合わせ、魔法を発動。
『大気に宿るマナよ、我が呼び声に答え、壁となりて立ち塞がれ。アクアウォール』
僕と横に並んだ師匠の目の前に水の壁が落ちてくる。
この魔法は水の壁を出して、相手の攻撃から身を守る魔法だ。
今回は水の飛沫なので流れ落ちる水の壁と同化したが、水の落ちる重力と勢いで弓矢や投げナイフくらいは撃ち落とせるとのこと。
「ふむ、まぁいいだろう。慢心せずに、魔法制御の練習はこのまま続けるんだよ」
「はい、ありがとうございます」
どうやらテストは合格のようだ。
無事に試験に通れたので気分が良いし、師匠に褒められるのは単純に嬉しい。
「では中級魔法の修行に移ろうか。中級からは殺傷力のある魔法が増えるからね、制御をしくじると自分や周りに怪我を負わせるから用心しな」
「はい、いままで以上に気をつけることにします」
僕の言葉に頷いて、師匠が魔言を唱える。
『大気に宿るマナよ、我が呼び声に答え、刃となりて敵を撃て。アクアカッター』
宙に現れた水の塊が30センチくらいの三日月型の水の刃へと変化し、空気を切るように飛んでいく。
「この魔法は水の刃を飛ばす魔法だよ。大きさや長さはイメージで変化させられるけど、まずは今の大きさくらいで練習おし」
「わかりました。やってみます」
『大気に宿るマナよ、我が呼び声に答え、刃となりて敵を撃て。アクアカッター』
目の高さで生み出した水が、徐々に刃の形状に変化していく。
だけど、そのスピードが遅い。
師匠のように一瞬とはいかず、10秒ほどかかってしまった。
その間に地面と平行に刃を描いたつもりだったのに少しずつ右側が落ちていき、完成した時には地面と垂直になってしまった。
「……まぁ、最初はこんなもんさ。飛ばしてみな」
言われるままに刃を前方に飛ばしたが、進むスピードも遅い。
主婦が自転車でのんびりと移動しているくらい。
つまり、小学生の子供が走る早さくらいということだ。
アクアバレットの時とは大違い。
飛びながら水が滴り落ちるので、少しずつ刃が小さくなっているし。
「師匠……これ当るんですか?」
「わたしに聞かれても困るさ。当らないと思うなら、もっと早く飛ばせばいいだろう?」
「そんなこと言われても、どうやればいいのか」
「アクアバレットはどうやって飛ばしているんだい?」
どうやって?
確か魔法を発動する時は、水でできた石を作る感覚で、そのあとは……。
「手で掴んで思い切り投げるようなイメージですかね?」
「ソーヤはやっぱり変わった感覚で魔法を使うね。なら、それと同じようにやってみたらどうだい?」
「水の刃を手で掴んだら、手が切れてしまいますが?」
「本当に掴む必要はないだろう? そこまでイメージする必要があるのかい?」
呆れたように師匠が苦笑い。
鮮明にイメージしろと言ったり、イメージしすぎるなと言ったり、師匠の言葉は難しい。
けれどこればっかりは自分でコツを掴むしかないので、一旦は水の刃を消して思考モードに移行。
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