第六章 現在(いま) -Flood―
いつものように 青く
いつものように 高く
あるはずの空は 無くなった
低く 薄暗く 垂れ込める雲
降る雨は 毒の雨
鉄すら溶かす 雨
舞うのは 雪のような 灰
空が崩れる
風が止まる
在り続けると
理由もなく 思ったものが
音もなく 消えていく
広がる焦土
黒い大地
吹き抜ける 乾いた風すら
やって来ない
ぼくの目指したあの人は
静かに問うた
「これが君の望んだ世界なのか?」
ちがう ちがう ちがう
これはぼくの求めた コタエじゃない
何を間違えた?
守りたかった命 守れなかった命
あの時 手が離れなければ・・・
信じるといったのは ぼくなのに
このままだと
あの 愚かな者と同じ
そう きっと ぼくも
止め方のわからない
溢れ出す 心の洪水
ただ流されていくだけ
その時 今までと違う雨が降った
川の 池の 海の嵩が 増していく
ぼくの 髪を 服を 頬を たたき濡らす
もろい器 ギリギリまで
入った水は―
突然水があふれた
誰も追いつけない速さで
暴れだす
ただ流されるまま
けど 頭の奥で よみがえる声
(生きろ)
そう ぼくは生きなきゃいけない
この水から 洪水から
戻らなければ 伝えなければ
ぼくは (生きろ)
生きる (伝えて)




