はじまりのおはなし
かなりふわふわしたお話です。よければお付き合い下さい。
……気が付くと、僕は雲の上で寝ていた。
それが、雲だと気付くことが出来たのはお日様のおかげ。あまりにも眩しくて目を覚ました僕は、ふよふよと綿飴のようなそれを触っていた。
しばらく握ったり揉んだりしている内に、それが今まで触ってきたもののどれとも似て非なるものだと気付いた。つまり、雲だと分かったわけじゃない。たぶん、そうなんだろうなというのが僕の考えだ。
それでも、地球上にここまで真っ白な地面が広がっている場所は雲以外にありえないだろう。どこかの話で、空がそのまま地面に映る場所があると聞いたことがあるけど、でも目の前の光景は、まるで雲そのものだ。だから、ここは空の上なんだ。一人でその場は、納得する。
もう一つ。手を伸ばすと、お日様に触れることが出来た。
理科の授業で、太陽は地球から遥か彼方に存在していて、僕たちの目に映るのはそのほんの一部と聞いたことがある。だから、本物なんて触ってしまったら人間なんてひとたまりもない。一瞬で燃えて、消えてしまうだろう。
だけど、目の前のお日様は太陽という言われるほどの熱はない。むしろ、心地よいくらいだ。とても暖かい。
でもあまり触り過ぎていると、人間で言うところの【身をよじる】という言葉が似合いそうな行動をする。つまり、僕から少し距離を置くように離れる。僕は、面白くなってさらに追いかける。
離れる。
追いかける。
離れる。
追いかける。
そんな事を繰り返していると、僕の頭をコンコンと後ろから叩かれる。振り向くとそこにはお月様がいた。今日は、綺麗なまんまるだ。どこも欠けていない。この前は、随分尖がっていたものだから痛かった。
「怒っているの?」と聞くと、決まって物静かなお月様はこう言うんだ。
「怒っていないよ。これがお仕事なんだ」
空に上るのがお仕事なのかと、僕は素直に納得していた。お月様は、物静かだけど物知りで、一つ質問をすると何倍にも膨れ上がって返ってくるんだ。とても面白い話ばかりで、僕はしばらくお月様の話を聞いている。だけど、夜は眠くなるんだ。途中で眠くなった僕は、雲を少し千切り、枕代わりにして横になる。その時、お月様は「あっ」と、声をあげるので、僕は「どうしたの」と聞く。だけど、お月様は基本的に物静かだから、いつも「何でもないよ」と「おやすみ」をして、眠りにつく。
そうやって、僕の一日は過ぎていく。
雲と太陽と月と一緒に過ごす僕の毎日は、不思議と飽きなくて、むしろ楽しい。同じように見えるこの景色の向こうには一体何があるんだろうと、いつも考える。
「きっと、楽しいことが待ってるんだろうな」
決まって僕は、そう考えているんだ。