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 チサトは一人自室である資料を見ていた。


「さて、これらは本当なのか?」


 チサトの口元に小さく笑みが浮かんでいる。だが、目は笑ってなんていなかった。

 チサトの持っている資料にはこう書かれていた。


【カイザー・ハーネスト

 年:二十二

 役職:騎士《将軍》

 1090年、アルテッド国にて誕生

 1094年、母が亡くなる

 1103年、将軍《父親》補佐である副官に昇任

 1105年、十五という若さで将軍の位に昇格、因みにその記録はアルテッド国史上最年少である。

 1108年、アルテッド国にて魔物が現れ、そして、それを対峙した。

 父は健在、母は三人おり、産みの母は先程述べたように亡くなっている。

 兄弟は一つ下にルシス、二つ下にジャック、三つ下にリディアナがおり、彼らは全員彼の隊に配属されている。

 補足:リディアナだけは同母であり、残る弟はどちらも異母兄弟である。

 自国では「常勝の黒獅子」と呼ばれ、他国では「鋼鉄の騎士」と呼ばれている。】


「二、三日でたったこれだけしか集まらないの、本当に役に立たないわね……。」


 溜息を一つ吐き、二枚目、三枚目と目を通し始める。


【ルシス・ハーネスト

 年:二十一

 役職:騎士《副官》

 1091年、アルテッド国にて誕生

 1094年、異母兄であるカイザーと、異母妹であるリディアナの母が亡くなる

 1105年、異母兄であるカイザーの副官となる

 自国では「謀慮の白鷹」と呼ばれ、他国では「氷鋭の双剣」と呼ばれる】


【ジャック・ハーネスト

 年:二十

 役職:騎士《隊長》

 1092年、アルテッド国にて誕生

 1105年、異母兄であるカイザーの隊に配属。

 自国では「雷撃の赤狼」と呼ばれ、他国では「烈火の大剣」と呼ばれる。】


【リディアナ・ハーネスト

 年:十九

 役職:騎士

 1093年、アルテッド国にて誕生

 1094年、母を亡くす

 1106年、同母兄であるカイザーの隊に配属

 自国では「滑翔の黒鳥」と呼ばれ、他国では「舞風の細剣」と呼ばれている。】


「どちらにしても、会う事には変わりないけれど、もっと情報が欲しかったわ……。」


 チサトはゴミ箱にそれらの報告書を捨てる。


「本当にいつもの者は隣国の偵察に行かせているから、使えるものがいないわ…。」

「チサト様。」

「ユーマ、入る時はノックをしなさい。」


 顔を顰め、睨みつけるチサトにユーマは慣れているのか、表情を崩さない。


「申し訳ありません、ノックはいたしましたが、返事がなかったものですから、勝手に入らせていただきました。」

「……。」


 チサトはこれ以上ユーマに何を言っても無駄だと思い、小さく肩を竦めた。


「それで、何の用かしら?」

「先程マサシより、連絡が入りました。」


 チサトの表情が真剣なものへと変貌した。


「それで。」

「刺客がアルテッド国の姫たちをお連れしている隊に現れ、アルテッド国の騎士と共に撃退なされたようです。」

「そう、それで?」

「死者はなく、負傷者も軽症者数名だけです。」


 チサトは最も聞きたいのはそれじゃないというように刺すような視線でユーマを睨む。


「……ユウリ様は無事です。」

「そう、残念ね。」

「……。」


 口では憎まれ口を叩くチサトだが、実際かなり実の姉の事を心配していた。


「チサト様、刺客の方はどうなされますか?」

「そこら辺に、捨てときなさい。」

「は?」

「聞こえてなかったの、捨てときなさい。」

「……。」


 ユーマは一度、自分の耳を疑ったが、どうやら聞き違いではなかったようだ。


「逃げられますが?」

「いいのよ、どうせ自国に戻っても殺されるだけ、のヤツラよ、そんな者たちに割く時間がもったいないわ。」

「さようですか……。」

「分かったのなら、さっさと行きなさい。」

「それでは、失礼いたします。」

「……。」


 ユーマは廊下に出るとようやく表情を表に出す。


「ふう…、これをいったらユウリ様が怒られるから、チサト様にはご報告しなかったが、本当に良かっただろうか?」


 弟のような存在のマサシの伝書を見た時、これを報告するなと書かれていたことが一つあった。それは、ユウリがアルテッドの姫であるフローリゼルと同じ馬車に乗っていて、戦闘には出ていないという事だ。


「まあ、確かに報告しても、チサト様はユウリ様を怒るだけで誰の得にはならないが…それでも、本当に良かったのか?」


 未だに頭を悩ますユーマに、力強い羽ばたきが近くから聞こえ、そして、手を伸ばすと鷹が一羽、彼の腕に止まったのだった。

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