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「はあっ!」


 一人の赤い髪の青年が身の丈ほどある剣を振るっていた。


「あ~、弱いな…。」


 敵の攻撃を軽々と避け、赤い髪の青年――ジャックはふと一人の女性を見る。


(あ~、ま~た、あいつの悪い癖が出てるぜ。)


「おっと……。」


 ジャックは間一髪の所で敵の剣をトンボをきって避けた。


「危ねえ、もし怪我なんかたらルシ兄が恐えからな。」


 ジャックは脳裏に残酷なほど美しく、そして、氷を思わせる笑みを浮かべる兄を思い出し、ぶるリと体を震わせた。


「やべ…、シャレにならねぇ。」


 顔を顰め、ジャックはもう少し真面目にやるかと、気合を入れなおした。

 だが、性格が性格なので、それはほんの少しの間しか保たれず、すぐにあちこちに視線をやっていた。


(ああ、カイ兄、流石だな…一太刀で気絶させてるわ。)


 ひょいと敵の弓を避ける。


(うげっ!リディ危ねえ!あっ…さすが、ブラスト!!)


 リディアナの背後を狙っていた男に瞬時に気付いたブラストが容赦なく敵を斬り捨てた。

 リディアナもそれに気付いたのか、何かを口にし、即座にブラストに何かを言われ、顔を真っ赤にして怒鳴っていた。


(ああ、ブラスト、リディに惚れてんのは分かるけど、そんなからかうなよ、逆効果だろうが…、要領悪りぃな。)


 ジャックは呆れながら、敵の攻撃を避け反撃する。


(は~、すげ~。あいつ確かこの国の騎士だったけな…カイ兄と同じくらい強いわ。)


 驚きの表情のままジャックは軽業師のようにバク転をした。


(う~んと、あっ!チェレーノだ…ああ、すげえ…、ルシ兄、何時の間にあっちに行ったんだ?さっきまでカイ兄の背中を守ってたよな?)


 ジャックがそんな事を思っていると、視界に捕らえていたルシスが不意に微笑んだ。


「――っ!」


 母は北の国の第一王女で当時「氷姫」とまで称された女性の子であるルシスは、ジャックに冷たい笑みを浮かべている。


「ジャック、何時まで遊んでいるんですか?」


 地を這うような声にジャックは顔を真っ青にさせる。


「やべえ…。」

「さっさと片付けなさい。」

「うっ…分かったよ…。」


 ジャックは剣を構え直し、本気モードに入る。


「さ~て、どっからやるかな?」


 舌を出し、唇をジャックは舐める。


「ジャック、術を使ってもかまいませんよ、ただし、燃やし過ぎないように。」

「お、珍しい……っとそういう意味か。」


 ジャックはあまりの珍しさに目を見張るが、ルシスの隣で立っているのもやっとなチェレーノを見て納得する。


「あんまやリすぎると、ルシ兄に殺されんな。」


 ジャックは剣に己の気を込める。

 剣は赤みを帯び、一気に燃え盛る。


「なっ!」

「何だそれは!」

「へ~、よその国はこれが分からねぇのか?ギャップを覚えんな~。」

「ジャック。」

「げっ!分かってるよ!」


 笑みを浮かべるルシスの周りに凍りつくような冷気が発せられていた。


「うんじゃ、行くぜ!」


 ジャックは敵しかいない方向に剣を振り下ろした。

 権に纏わりついていた炎が狼の形を成し、多くの人間を飲み込むが、何故か彼らには焼けど一つなく気絶していた。


「もういっちょ!」


 ジャックは大太刀を振り翳し、そして、ニヤリと笑った。


「天光焔弾!!」


 ジャックはそう叫ぶと、空に向かって己の力を注ぎ、そして、天から光と炎を降らしていった。


「……やりすぎですよ、馬鹿弟が……。」


 ルシスは小さく舌打ちをして、近くにいる最愛の彼女の腰を引き寄せ、己の力――彼の場合は水に関係するものを司る――を使い、チェレーノと、ついでに、この国の騎士、そして、自国の騎士を守る水の防御壁を張った。


「ルシス。」

「あ、兄さん。」

「…こう簡単に能力を見せてもいいのか?」


 非難がましい兄の眼に珍しく、ルシスは肩を落とした。


「すみません……。」

「いや…俺も言いすぎた。」


 ルシスのあまりの落ち込みようにカイザーは慌てて言いつくろうとするが、ルシスは落ち込んだままだった。


「………ここは俺たちの国ではないから、自粛しないとな。」

「はい……。」

「今後気をつければ、それでいいからな。」


 カイザーは目を細め、ルシスの頭を撫でた。


「さて、リディの所にも行かないとな。」

「兄さん。」

「何だ?」

「リディアナの所もそうですが、姫のところに先に行ってください。」

「あ、そうだな、説明もなく戦闘が開始されたんだ、さぞ不安に思っていられるだろうからな。ルシス、ありがとうな。」

「いいえ。」


 もし、姫よりも妹を大切にしたと知ったら、間違いなく姫の機嫌を損ねると思い、ルシスはそう言った。

 そして、その通りになりかけた何て事を知っているのは彼くらいかもしれない。


「さて、僕の方も先ずはチェレーノの様子を見てから、愚弟を叱りに行きますか。」


 ルシスはほんの少しだけ眉を吊り上げているのだが、それに気付いたのは唯一怒られようとしていたジャックだけだった。

 そして、起こられる事を悟ったジャックは逃げようとするが、残念ながらチェレーノの無事を確かめたルシスに見つかり、結局逃走は出来なかった。

 再び馬車が動き始めても、馬上でルシスはジャックを叱り続けていたのを多くの騎士が目撃していたのは別の話だった。



 運命は動き始めた…。

 見えない罠という糸が張り巡らされている事に、ユウリやカイザーたちはまだ気付いていなかった。

 そして、運命は本格的に回り始めた……。

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