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 リディアナは殺気立つ他の騎士を見て身震いをする。

 漆黒の髪を一つにまとめ、そして、細身のレイピアを握る。


「……まさか、こんな場所に着てまで戦う羽目になるなんて。」

「仕方ありませんよ。」


 溜息を一つ零すエルとそれを苦笑で受け止めるチェレーノ。


「でも…、カイザー様も、ルシスさんも大丈夫でしょうか?」

「……。」

「わたし…何のお手伝いも出来ませんし……。」


 リディアナは肩を落すチェレーノに声を掛ける事にした。


「大丈夫よ、兄様もルシス兄さんも強いし、それにジャックだって取り敢えずは本調子に戻ったみたいだから。」

「リディアナさん…。そうですね、わたしがルシスさんを信じないと……!」


 握り拳を作って決意するチェレーノを見て、リディアナはこの人は本当に自分より年上なのかと疑問に思った。

 因みにこの中で一番の年長は二十三で、次はルシスと同い年の二十一でチェレーノとなっている。


「……信じるのはいいけれど、私たちの足を引っ張るのだけは止めてくれ。」

「は…はい……。」


 チェレーノの剣の腕前は正直言って、かなり下で、一人で戦わせたら絶対に命を落すだろう。

 因みに何でそういう子が付いてきたのかというと、原因はルシスにある。

 チェレーノはこの場にいる女性の中で特別綺麗でも可愛いわけでもないのだが、彼女の放つ独特の清楚さに惹かれるものが多かった。そして、自国で彼女を狙うものもおり、そして、他国の王子である者も彼女に惹かれていた。

 なので、彼は自国に置いとくのは危険だと思い、彼女を連れてきたのだった。

 リディアナとしてはどっちでも良かったし、それに同じ女性がついてくる事には特に反対ではなかった。

 何せ今回の旅では姫であるフローリゼル、副官のエル、そして、チェレーノとリディアナの他には女性がいないのだ。

 何故女性がいないかというと、始めのうちはついてくると言い張る女性が多かった。

 彼女たちの狙いはリディアナの兄たちであった。

 リディアナの兄たちは全員顔が整っている上に、性格も良い、特に長子であるカイザーの人気は根強く、しかも、彼が独身で彼女すらいないので、その彼女の座を狙い多くの女性が集まった。

 だけど、フローリゼルをはじめとする、カイザーを長年想っているメンバーがそれを食い止めたのだった。


「別にいいんじゃねぇか?」


 唐突に聞こえてきた声に、リディアナは眉間に皺を寄せた。


「……ブラスト。」


 声をかけてきたのはリディアナと同い年である、青年――ブラストだった。

 彼は入隊して直後に先輩の騎士に歯向かい、そして、決闘をして勝った事がある。その時、天狗になっていた彼を諌めたのはカイザーで、その時から、ブラストはカイザーの事は一目置いているが他の面々にはあまり友好的な態度を示さなかった。

 そして、孤立しているブラストを心配したリディアナは兄――カイザーの為に一肌脱いで、彼を仲間に溶け込めるようにしたのだが……。

 何をどうやって間違えたのか、ブラストはリディアナを新しいおもちゃのように扱うようになったのだ。


「何だよ、その嫌そうな顔は。」


 リディアナの表情を見てくつくつとブラストは笑った。


「貴方が行き成り現れたのがいけないのでしょうが!」

「あ?オレはカイザーに言われてこっちに来たんだぜ?」

「なっ!」


 上司であるはずのカイザーを呼び捨てにするブラストにリディアナは目くじらを立てた。


「兄様を呼び捨てにしないで!」

「……ブラコン。」

「なっ!!」


 リディアナは驚き、そして、瞬時に怒りを刃に込めた。


「ブラコンの何処が悪いのよ!」

「あ?開き直ったのか?」

「あたしは元から兄様の事を愛しているのよ!それをどうのこうの言われる筋合いはないんだからね!」

「……。」


 ブラストはリディアナの言葉が気に喰わないのか目が据わっている。


「そんなんじゃ、婚期を逃すぜ?」

「……いいもの、兄様以上に素敵な男性はこの世にいませんからね!」

「――っ!」

「どうして、兄様とあたしの血が繋がっているんだろう…絶対に片方しか繋がっていなかったら、兄様と結婚したのにな…。」


 このリディアナの言葉には流石にエルが反応した。


「おい、リディアナ。」

「何かしら?上官。」


 リディアナは上官であるエルに挑むような眼差しを送る。


「流石に先程のは言いすぎではないのか。」

「そうですか?あたしは本当の事を言ったまでです。もし、あたしの血が片方しかカイザーお兄様と繋がっていなければ、きっとルシス兄さんが手を貸してくれましたから。」

「……。」


 エルは確かにあのルシスなら何処の馬の骨とも分からない女性にカイザーを取られるよりは自分のお眼鏡にかなった女性を選ぶような気がした。


「あやつなら、やりかねないな……。」

「あ、あの……。」


 申し訳なさそうにチェレーノは会話に割り込んできた。


「どうした?」


 流石は副官、チェレーノの声色の中にあった焦りを聞き取った。


「カイザー様たちの戦闘が開始されました、ですから、言い争うのは……。」

「えっ!」

「あっ。」

「ああ、やべえ。」


 三人は周りを見渡し、あちこちで聞こえる金属のぶつかり合う音に表情を改めた。


「チェレーノ、助かった。」

「い、いえ…、このくらいしかわたしは役に立ちませんから。」

「そうかもな。」

「ブラスト!」


 チェレーノは自分を貶されたというのに、苦笑を浮かべていた。


「チェレーノも言い返したらどうよ。」

「言い返せませんよ、ブラスト様が頷くのもわたしには分かりますから。」

「……。」


 リディアナは子どものように頬を膨らませ、ブラストを睨んだ。


「絶対にルシス兄さんに言って、罰を与えてやる。」

「……。」


 この時、他の面々は敵に意識を集中して見えていなかったが、ブラストはリディアナの言葉を聞いて、顔を強張らせていた。

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