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「ねえ、ユウリ。」
「何ですか?」
「貴女幾つかしら?」
「私ですか、二十歳になりました。」
「まあ、わたくしは二十一になったばかりよ。」
女の話は意外にも弾んでいた。
ユウリも他国の姫だからと始めのうちこそこっそりと緊張していたが、フローリゼルの気さくさにすぐに話が進む。
「そうなんだ、私には二人の妹が居るんだけど、十八と十六なの。」
「そうなの、羨ましいわ。」
「そんな事ないですよ~、十八の妹は口うるさいし、十六の方は少し抜けてて変なヤツに絡まれてないかいつもヤキモキするんですよ。」
「ふふふ、仲が言い証拠じゃない。わたくしは一人っ子でカイザー…先程の黒髪の騎士の弟や妹と仲良くさせてもらっていたわ。」
「へ~、あの人に弟や妹が居るんだ。」
「ええ、ただあの人の弟は二人居るのだけど、二人とも異母弟なの。」
「えっ!」
この国は一夫多妻制なので、複数の妻が居るなどユウリには想像できなかった。
「……女性同士で、諍いとか起こりそうだね……。」
「ふふふ、そうね、でも、カイザーの家はうまくいっているは、喧嘩しながらも仲が良い家族ですかね。」
「そうなんだ。」
「ええ。」
ユウリはふと外を見て、目にある人物を見つけ顔を顰める。
「どうかなされました?」
「いえ、鬱陶しいものが見えたもので。」
「?……………まあ。」
フローリゼルはユウリが見たものを理解して、彼女と青年を交互に見た。
「あの方は貴女の彼か何かしら?」
「げっ!」
本気で嫌そうな表情を浮かべるユウリにフローリゼルは呆気にとられる。
「そこまで嫌がること?」
「あの人は私が騎士になるのを反対したんです。」
「……。」
「確かにこの国では女性が騎士になるなんて前例がありませんでした。私はそれを壊してまで、今の地位に居る。勿論実力で上り詰めたんです……なのに、あいつは…顔を合わせれば、止めろって顔をするんです。」
「それは、貴女を思っての事じゃないかしら?」
「…そうだとしても、今は共に戦う同士なんです。」
ユウリの瞳は真直ぐに未来だけに向けられる。だけど、未来と言ってもマサシやチサトが見ているような遠くではなく、かなり近い範囲であった。
だから、ユウリはマサシの真意など知る由がなかった。
「……そうね、殿方本当に女であるわたくしたちの心配など、させていただけませんものね。」
「……フローリゼル様もですか?」
「……ええ、ユウリ、フローリゼルで構わないわよ。それかリゼルでもいいわ。」
「そんな、恐れ多い……。」
ユウリはただの騎士という身分だけを考え、そう言った。
「……相遠慮なさる事はないのに……。」
「ですが…。」
「騎士になる方は真面目が多いのですね。」
「そうでもないですよ。」
ユウリはマサシを思い浮かべ、そう言った。
「確かに仕事に対しては真面目ですけど、何かあれば私に突っかかってきますし、意地悪です。」
「あら、まあ……。」
握り拳を作り、そう言い張るユウリにフローリゼルはクスクスと笑い始めた。
「本当に、よく見ているんですね。」
「ふえ?」
「あの方の事を言っておられるのでしょ?」
「あっ……。」
ユウリは騎士と言われ、マサシの事を思い浮かべていた事に今更ながら気付き、顔を真っ赤にさせる。
「いっ、今の無しです!」
「ふふふ、残念でした、ばっちり聞きましたわ。」
「う~……。」
ユウリは自分の失態に思わず、穴があったらはいりたいと強く思った。
フローリゼルは落ち込むユウリを見て笑いすぎたかな、と思い何か言葉を掛けようと口を開きかけた瞬間、急に馬車が止まった。
「あら?」
「……。」
不思議そうな声を出すフローリゼルに対し、ユウリは目を鋭くさせた。
「ユウリ?」
「じっとなさってください、多分、外は今危険です。」
「えっ?」
ユウリはフローリゼルを馬車の扉から遠ざけた。
「すみません、しばらくの間、騒がしいかもしれませんが、大丈夫です。あいつなら、必ずこの場所に近づけません。」
「ユウリ。」
「それに、私も騎士です。お守りします。」
ユウリはそう言うと剣に手を伸ばした。
「……ユウリ、大丈夫ですわ。」
「フローリゼル様…。」
「貴方の大切な騎士もおりますが、わたくしの大切な方もおりますですから、大丈夫です。」
「……そうですね。」
ユウリは笑みを浮かべ、そして、外からあの低い声がするのを待つ。