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ユウリは正装に身を包み、港からある船を待つ。
「……はあ…。」
「何溜息なんかを吐いているんだ。」
ユウリは物凄く嫌そうな顔で隣に立つマサシを睨み付けた。
「何よ、何か文句あるの?」
「……。」
けんか腰のユウリにマサシは怪訝な表情を浮かべる。
「何カリカリしてるんだよ。」
「マサシには関係ないでしょ!」
「……。」
「何で、何で、私を嫌っているあんたとよりによって迎える役目なのよ!私一人で十分お守りできるわよ。」
「……。」
マサシはその言葉でようやくユウリが何にカリカリしているのか理解した。
「お前…馬鹿か?」
「何よ!」
ユウリはマサシを先程よりもずっと険しい目付きで睨み付けた。
「お前、何度も俺に言われてるだろうが……。」
「「王位継承権を捨てた身であろうが王族は王族それを考えろ」?」
「ああ、もし一人で居て隣国のヤツラに捕まったらどうするんだ。」
「私が負けると思うの?」
かなり自信満々な様子のユウリにマサシはあきれ返った。
「負けるだろうが……。」
「何よ、並の相手だったら私が勝つに決まっているでしょうが!」
「……並の相手だったらな。」
完全に呆れているマサシをユウリはギロリと睨む。
「何よ、その顔は!」
「……黙れよ、そろそろ来るだろう。」
マサシの張り詰めたような声音に、ユウリは真剣な表情を浮かべる。
「言われなくとも、私の所為でこの国の騎士のレベルが低く見られるなんて事は絶対にしないわ。」
「そうしてくれるとありがたいな。」
「……。」
ユウリは一瞬だけ不満げな表情を浮かべるが、すぐに凛とした面持ちになった。
*
船が港に着き、そして、一人の金の髪の女性が現れる。
「綺麗……。」
気品と優美さを兼ね備えた女性は近くの黒髪の男性に手を差し出し、ゆっくりと船から折り始める。
「……あいつ、身のこなしが自然だな。」
遠目から見ても黒髪の男性は自分と近いか、またはユーマよりも少し低いくらいだと判断した。
彼の身のこなしは戦士のそれである。間違いなくマサシと同等か、又は強いものだと感じた。
そして、その女性と男性がこちらに向かって来た。
「よくぞ、おいでになりました。」
「ようこそ、レナーレへアルテッド国の姫。」
ユウリとマサシは最上級の礼をする。
「お顔を上げてくださいな。わたくしたちはただの視察、ですから、姫と言う立場もありませんわ。」
「……。」
「よければお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
気さくに話しかける姫に同じ姫と呼ばれる立場のユウリは軽く驚いていた。
「えっ…ユウリです。」
「良いお名前ですね。わたくしはフローリゼルと申します。同性で年が近い方とお会いするのは本当に久し振りですの。」
「私もです、私も年の近い人が中々いなくて。」
互いに顔を見合わせ、フローリゼルとユウリは笑う。
「ユウリ。」
マサシの硬い声音に、ユウリはハッとなる。
「申し訳ありません、任務中に。」
「あら…、わたくしは別に構いませんのに……。」
「うっ……。」
綺麗な人の顔が曇った事で、ユウリの良心は痛んだ。
「……本当に、敬語とかじゃなくてもかまいませんか?」
「ええ。」
ユウリの言葉に、フローリゼルは華やかに微笑んだ。
「よろしくお願いしますわ。」
「こちらこそ、至らない点があるかもしれませんが、頑張ります!!」
「ふふふ。」
口元を上品に隠して笑うフローリゼルにユウリの頬も緩んだ。
「それでは参りましょうか。」
ユウリは近くの馬車にフローリゼルを案内する。その後ろに当然のようにマサシと黒髪の騎士が付いてくる。
「よろしかったら、一緒に乗りません?」
「えっ?」
ユウリは何を言われたのか分からず、思わず首を傾げた。
「わたくし一人では寂しいので、乗ってほしいのです。」
「えっ、でも……こちらの騎士様が……。」
「わたしは徒歩か馬をつかます。」
「そういう人なのよ。」
フローリゼルは寂しげに顔を曇らせ、ユウリはもしかして、彼女はこの騎士の事が好きではないのか、と思った。
「分かりました、お邪魔させて頂きます。」
「お、おい。」
マサシは渋い顔をするが、ユウリは彼を無視する。
「それではお乗りください。」
「ええ。」
二人はさっさと馬車に乗り込み、残された二人の青年はそれぞれの反応を示していた。
マサシは眉間に皺を寄せ、不機嫌な顔をしていた。一方、黒髪の青年は穏やかな顔で主君を見ていた。
「それではわたしたちも参りましょうか。」
「ああ。」
黒髪の青年に促され、マサシも己の馬のところまで行った。
「そういえば、名乗っていませんでしたね。わたし…いや、俺はカイザー・ハーネスト、一応この軍のまとめ役です。」
「俺はこの国の将軍の一人、マサシという。」
「マサシか、よろしく頼む。」
カイザーは微笑を浮かべ、そして、銀の髪の青年が待つ場所へと向かった。
「……あいつ、一体幾つなんだ?」
見た目は二十代前半、先程の笑みじゃ、十代後半のようなカイザーにマサシは怪訝な顔で考えていた。