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「……リディアナ?」
「そこにいたのか。」
「リディアナさん………ふあっ!」
「あ…こけた。」
見事に何もない所でこけるチェレーノにユウリは苦笑を浮かべながら手を貸した。
「大丈夫?」
「は、はい……すみません、お手を煩わせてしまって。」
「そんな事ないからね?」
ニッコリと微笑むユウリにチェレーノも自然と笑みを漏らした。
「ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
ユウリはいつの間にかいつもの騎士服に戻っていた、どうやら脱衣所に替えの服を用意していたようだ。
「リディアナ?顔色が悪いぞ。」
「……。」
「何かあったのですか?」
「……。」
エルとフローリゼルはリディアナの微妙な変化に気付いたのか、心配そうな顔で覗き込む。
「……。」
「何か起こっているようね。」
「えっ?」
「はぁ?」
「ふえ?」
「………………………さすが、姫騎士様ですね。」
ユウリの言葉にそれぞれ驚きを隠せないようでいたが、ユウリは凛とした表情で廊下の先を睨んだ。
「だって、この気配…馬鹿のものですからね。」
「……。」
まるで不本意と言うようなユウリにエルを除く全員が不思議そうな顔をする。
「分かるぞ、嫌いな奴の気配は何か直ぐに気づくんだよな。」
「そうなのよ、あの真っ黒な「ご」のつく虫と同じほどあいつの気配は分かるのよ!本当に嫌だわ!!」
ぞっとするユウリに対しエルを除く全員がそこまでいう「馬鹿」という存在の人に同情の念を覚えた。
「それにしても、何が起こったのかしら?」
ユウリの瞳に鋭い光が宿り、その目がリディアナに向けられる。
「……侵入者です。」
「……。」
リディアナはこれ以上隠し切れないと思ったのか、あっさりと答えた。
「ふ~ん……。」
ユウリの口元に笑みが浮かぶ、その顔は好戦的でその顔つきはジャックを彷彿させるほどだった。
「成程ね……。」
「ユウリ殿?」
「エルさん。」
「はい、貴女がたの実力は?」
「チェレーノと姫を覗いたこの場にいる戦闘員では中の上、剣の腕前だけではね。」
「そう、私は上の下微妙ね。」
ユウリはクスリと微笑むが、その目は笑っていなかった。
「まあ、男性人がこっちに向かっているから大丈夫でしょうね。」
「悔しいが、その通りだ。」
二人は嫌いな男性をそれぞれ思い浮かべているのか、表情がいつもより硬い。
「……ジャックの事が本当に嫌いね。」
「……まあ…。」
「えっ…あの……。」
チェレーノがのんびりとした空気を打ち破るかのように話しかける。
「……よろしいでしょうか?」
「あっ、どうぞ。」
「ん。」
ユウリとエルがようやく普段の表情に戻り、チェレーノを促す。
「質問を一つ……。」
「……。」
「侵入者には……心当たりがありますか?」
「……。」
チェレーノの言葉にユウリは顔を顰める。その顔を見た瞬間チェレーノは可哀想なほど肩を震わせた。
「す、すみません!」
「あっ…、いや、貴女に怒ったんじゃなくて……。」
ユウリはチェレーノがあまりに必死で謝るものだから苦笑する。
「………すみません…。」
「だから…。」
あまりにも腰が低い少女にユウリは呆れるが、これ以上放っといても話が進まないと思い、言葉を繋ぐ。
「……侵入者の心当たりは山ほどあるわよ。」
「そうなのか?」
「……まぁ。」
「「……。」」
ユウリは溜息と共に言葉を吐き出す。
「ん~、何処から話そうかしら。」
ユウリは自分の顎に指を添える。
「この国は他国に囲まれているのは分かるでしょ?」
「ええ。」
「この国は豊かで、貿易も盛んなの。でも、他国はこの国ほど豊かでも、貿易に専念している訳じゃないの。」
「「「「………。」」」」
四人はユウリの言葉に納得した。
「狙われるのも無理はないわね。」
「そうだな……。」
「でも……でも…。」
「歴史は繰り返される…そんな因果断ち切ってしまえば良いのに。」
それぞれの言葉にユウリは苦笑を漏らす。
「これでも、最近は落ち着いているんだけど、やっぱりね。」
「……。」
「だけど、ここは私の故郷だから、一生懸命守るわ。」
「ユウリ。」
「手助けさせてくれないか?」
「いいの?」
四人はユウリに向かって力強く頷いた。
「ありがとう、皆。」