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「何で、お前こんな所にいるんだよ……?」


 チサトとの話しが終わったリョウタは部屋から出た瞬間、巨大な像に凭れかかりながら、寝ていた。


「つか…こんな所で普通寝るか?」


 リョウタは張り詰めた気持ちが徐々に緩んでいる事に気付き、苦笑する。


「本当にお前といて飽きないな。」


 手を伸ばし、ミナミの髪に触れようとした瞬間、パチリと黒曜石のような瞳が見えた。


「リョウくん?」

「……。」

「おわったの~?」


 目を擦り、まだまだ眠そうなミナミにリョウタは小さく肩を落す。


「お前、どんな所でも眠れる特技でもあるのか?」

「ふえ?」

「そんな特技なんかないよ~?」

「……。」


 涼太は半眼になりながら溜息を漏らしそうになるのを何とか堪える。


「まあ、どうでもいいが、ここにいていいのか?」

「ふえ?」

「…さっさと部屋に戻ったらどうだといっているんだ。」

「何で?」


 この娘に危機感というものはないかと本気でリョウタは嘆きたくなった。


「お前な……。」

「?」


 首を傾げる少女にリョウタは半眼になりながら、彼女の手を掴む。


「何?リョウくん?」

「…お前は…危機感がない。」

「ふえ?」

「こうして、オレがお前の手を掴んでいるのにも拘らず、振り払わない。」

「???」


 ミナミはリョウタの言う意味が分からないのか何度か瞬きをした。


「オレは男だぞ。」

「そりゃ、リョウくんは女の子じゃないよ?」

「……。」


 リョウタは頬を引き攣らせる。

 そして、ミナミを教育しているヤツに怒鳴りたくなる。一体こいつにどんな事を教えているのかと!


「………………お前さ、男は危険だと思わないのか?」

「ふえ?」

「……。」


 リョウタは半分切れているのか、勢いよく壁に無って手をつく、その時、風圧でミナミの髪が揺れる。


「リョウ…くん?」

「俺は男だぞ。」

「……?」

「まだ、分からないのか?」


 リョウタは己の顔を近づけ、そっと、ミナミの唇に己のそれをくっつけようとするが――。


「気分悪いの?」

「……………………。」


 リョウタは寸前の所で、顔を止める。


「リョウくん…。」


 内心でリョウタは舌打ちし、ついでとばかりに唾を吐き捨てる。


「この鈍感娘。」

「ふえ?」


 恨みがましく言うリョウタにミナミは小首を傾げる。


「どうしたの???」

「……てめぇの所為だよ。」

「ええっ?」


 まだ分からないのかよ、と毒づきながらもリョウタは手を緩め、ミナミを解放する。


「気をつけろよ。」

「ふえっ?」

「いつでも、オレが駆けつけられる訳じゃない。」

「……。」


 あまりにも真剣な目で訴えるリョウタにミナミは声を漏らす事すら出来なかった。


「オレにはオレの生活があり、お前にはお前の生活がある……。」


 リョウタはミナミから徐々に離れていく。それが何となく寂しく思ったミナミは手を伸ばすが、リョウタはその手から逃れる。


「あっ……。」

「……オレは、お前の側にいる時だけはその手を取る。」


 リョウタは自分の手をミナミの手に重ねる。


「側にいれば助ける、近くにいれば守る、だから、何かあれば、オレの名を呼んでくれ。」

「リョウくん。」

「オレはお前が望めば、オレからお前を守るし掴む。」

「…リョウくん?」

「オレはお前が――。」


 好きだから、そういおうとした瞬間やはりというか邪魔者が出てきた。


「おい見つけたぞ。」

「あ~、手間取らせて。」

「へっ?」

「……。」


 何人かの兵士がリョウタとミナミを囲った。


「ほら、坊主帰るぞ。」

「……あの腹黒の仕業か……。」


 リョウタはこの兵士たちを呼びつけた人物を悟ったのか、苦虫を百匹ほど噛み潰したような顔をした。


「……諦めるんだな。」

「無駄な抵抗はしないほうが良いぞ、命が惜しいのならばな。」

「……。」


 兵士たちはリョウタに同情しているのか、彼の言葉を叱る人はなく、代わりに忠告をするだけだった。


「はぁ…ミナミ、またな。」

「うん、リョウくん、またね。」


 満面の笑みを見せるミナミにリョウタは知らず知らずのうちに頬を緩めていた。


「………ああ、若いって良いな。」

「お前も十分若いじゃないか。」

「だがな、青春の時期は過ぎたからな~。」

「あ~、彼女欲しい!!」


 リョウタとミナミの関係が微笑ましいのか、兵士は羨ましげな目で見るが、彼らは表面しか見ていないので、リョウタの真の大変さなど知る由もなかった。

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