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『兄様。』

『リディアナ?』


 申し訳なさそうな声音のリディアナにカイザーは首を傾げる。


『ごめんなさい…、全く気配が辿れません……。』

『…ああ。』


 カイザーはリディアナが気落ちしている事を感じ、穏やかな笑みを作るが、その顔はリディアナには見えていない。


『気にしなくてもいい。』

『兄様?』

『お前の力不足ではなく、今回の敵は隠れるのがうまいだけだ。』


 フォローされているのだとリディアナは分かり、余計に気落ちしかける。


『俺だって分からない、多分、ここにいる奴らの中で一番気配を読む事が得意な俺でさえだ。』

『兄様も?』

『ああ。』


 リディアナをはじめカイザーの弟妹はカイザーの気配を読む力は自国他国問わず、世界一だと認めている。そんな彼に読めないとはそんなにも敵は強大なのかとリディアナはぞっとした。


『兄様……。』


 不安で声が震えるリディアナにカイザーは穏やかな声音を出し、彼女を落ち着かせようとした。


『大丈夫だよ。』

『兄様?』

『俺が守るから。』

『……。』


 リディアナが遠くで目を見張っている事に気付き、カイザーは苦笑する。


『俺の大切な人間を傷付けさせたりはしない。』

『兄様。』

『絶対に。』


 強い兄の言葉にリディアナは心から誓う。

 この兄を守れる力が欲しいと。

 昔からこの兄は優しい、それは敵に対しても、味方に対しても。

 ただ、敵でも自分の大切な人間を傷つけようとすれば、彼のもつ鋭い牙が敵に向けられ、向けられた敵は一溜りもないだろう。

 カイザーは二つ名の通り、獅子のような人物だと誰からも思われた。

 獅子は百獣の王、カイザーは王としての器がある。ただ、彼自身はそうは思っていない。彼自身は平凡な強いて言うなら犬のようだと思っている。

 ちっぽけな存在で、忠誠心が強い、そんな存在だとカイザーは思っているが、他の評価は全く違うのだった。


『兄様。』

『なんだい?リディアナ?』

『兄様はこのリディアナがお守りします。』

『リディ?』

『兄様は誰にも傷付いて欲しくないとお望みですが、そう思っているのは兄様だけじゃありません。』


 リディアナの言葉にカイザーは苦笑を漏らし、妹と同じ事を言ったルシスを思い出した。


『ありがとう。』


 昔同じ事を言われたカイザーはルシスに「すまない」と謝ったが、ルシスはこう言ったのだ。


――兄さん、こういう時は「ありがとう」で十分です。僕たちは兄さんの側にいる理解者であり、家族であり、それ以上の絆を持っている存在だから、だから、兄さん、兄さんは兄さんらしくいてくれるなら、僕たちはいつまでも兄さんの力になるよ。


「本当にお前たちには支えられている…。」

『兄様?』


 風に声を送らなかったのにも拘らず、リディアナは敏感にカイザーが何かを言った事に気付いた。


『何でもないさ、リディアナ。』

『……本当にですか?』

『ああ。』


 リディアナの声音からは納得した様子はないが、それでも、彼女はこれ以上カイザーを問う言葉を紡がなかった。


『兄様、これから、どうしますか?』

『そうだな……。』


 カイザーはこれから何が起こるのか分からなかった、だから、リディアナに的確な指示を飛ばせないでいた。


『…取り敢えず、姫を頼む、許可を得たんなら俺たちが姫を守る。』

『…………兄様は、フローリゼル様をお好きなのですか?』

『……リディ?』


 何を言い出すのか、とカイザーは思うが、リディアナの思いつめたような声音に思わず彼女の愛称を呼んだ。


『……ごめんなさい、何でもないんです。』

『……リディ?』

『……。』


 カイザーは黙り込むリディアナと自分に言い聞かせるかのように口を開く。


『俺は皆好きだ。だから、姫も好きだし、リディアナも、ルシスも、ジャックも、母様たちも、父さんも好きだ。』

『……。』

『リディアナがそんな意味で言ったんじゃないことくらい、俺にだって分かるが、特別に思う異性はいないんだ。』


 カイザーは心からの言葉を言い、リディアナはそっと息を吐いた。


『兄様……。』


 リディアナはホッとしたような残念な心で呟いた。


『兄様、リディアナはいつでも、兄様の味方です。』

『ありがとう、リディアナ。』


 カイザーが微かに微笑んだ瞬間、風が変わった。


『――っ!』

『兄様!』

「兄さん!」

「カイ兄!」


 敏感に空気が、風が変わった事にカイザーを含めた彼ら兄弟は気付いたようだ。


「……一体何が…起こっているんだ……。」


 カイザーは眉間に皺を寄せ、ぼそりと呟いた。


「……兄さん。」

「まあ、オレたちに攻撃するんなら、倍返しにしてやらないとな。」


 兄を純粋に心配するルシスと、彼らしさを失わずにニヤリと不敵に笑うジャックにカイザーは笑みを浮かべる。


「そうだな。」

「最悪の事態にならないように考えなくてはなりませんね。」

「ああ。取り敢えず、注意を促すように隊の連中に言ってきてくれないか?」

「オッケー、それはオレがやってくる。」


 ジャックは素早い動作で走り出し、残された二人は真剣な顔で互いの顔を見合う。


「ルシス、気を引き締めていこう。」

「はい、兄さん。」

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