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「いいお湯加減ね。」
「でしょ?」
ユウリは思いっきり背伸びをして、笑みを浮かべる。
「この城の中で一番落ち着く場所なのよね~。」
「ふふふ。」
「このお風呂場は一応王族専用だから入ってくる人はいないからすごく羽を伸ばせるのよね~。」
「まあ、そうなの?」
「そりゃ、そうだ、こんな豪勢な風呂場に、一般人など入れる訳がない。」
「そうですよ、こんな…豪華な……。」
「うわっ!チェレーノ大丈夫!?」
あまりの贅沢さにチェレーノは気絶してしまった。
「だ、大丈夫?」
「平気だ、このくらいいつもの事だ。」
「そうなの?」
「ええ、そうね。」
そうなんだ、とユウリは感心し、ふとフローリゼルたちの体型のよさに目を引かれた。
「うわっ…細いと思ったけど…ここまで?」
ユウリの言葉にフローリゼルは不思議そうに首を傾げた。
「私なんか、傷だらけだし……食べ過ぎたら直ぐに…よけいな部分に肉がいくし……羨ましい……。」
「ユウリ?」
「あっ!ごめん!」
「……いえ?」
「わかるぞ、ユウリ殿の気持ちが。」
「へ?」
「女として、やはり姫のような体型は理想だと思う!」
力説するエルにユウリは共感を覚える。
「分かります!」
エルとユウリはがっしりと手を取る。
「あの白磁のような白い肌。」
「まったく傷のない珠のような肌!」
「あの太陽の光を織ったかのように見事な金髪!」
「女性らしいライン!」
「「羨ましい………。」」
「ユウリ、エル????」
全く理解していないフローリゼルは小首を傾げた。
「……何となく、分かるけど…あそこまで共感は出来ないな。」
「ううう……。」
チェレーノの手当をしているリディアナは静かに溜息を吐いた。
「まあ、兄様があのような体型が言いというのなら、努力はしますけど。」
「ううう……。」
リディアナはカイザーを思い浮かべ、まるで恋する乙女のように溜息を吐いた。
「ああ、本当に兄様が兄様じゃなかったらよかったのに……。」
一応は兄妹だと自覚しているのか、リディアナは静かに息を吐いた。
「あの……お二人とも??」
「エルさん!」
「ユウリ殿!」
「私たちは同士のようですね!!」
「ああ。」
「あの馬鹿な男がたとえ私の体型を侮辱しても――。」
「あの大馬鹿者がこの鍛え抜かれた体型で嫁にいけないと抜かしても。」
「「無視」」
「しましょうね!」
「しようではないか!」
「……あの…???」
完全に話しがずれている二人にフローリゼルは話しかけようとするが、二人は完全に自分たちの話しか聞こえていない。
「この前なんて私が剣の稽古をしていたらあいつ何を言ったと思います!」
「うむ。」
「あいつはですね「これ以上怪我をしたら嫁の貰い手なんかないぞ、行かず後家にでもなるのか?」って言ってきたんですよ!」
「何だと!」
「その前なんて、折角女官が焼いてくれた焼き菓子を食べていたら、「これ以上食うと豚になるんじゃないか?」とかも言ったんです!」
「女の敵だな!」
「そうですよね!」
「そうだ、そうだ。」
相槌を打つエルもまたユウリの言葉を聞き、自分に起こった事をふつふつと思い出す。
「こちらなんて、あの馬鹿者が「おい、お前これ以上青あざ作ると男が近寄らなくなるから、止めとけ。」とか抜かしたんだ!」
「うわ、酷い!好きで青あざなんて作らないのに!」
「だろ、他にも好物の揚げ菓子を食べていたら、ひょいっとこの手から奪ってこう言ったのだ「うわっすげえ油っぽい、よく食えるな…こんなもん。」とな。」
「あの脂っこさが美味しいのに!」
「同感だ。」
二人はそれぞれの憎い相手を思い出し、拳を震わせる。
「運動した後の菓子ほどうまいものはないのに!」
「栄養だって取らないといけないのに!」
「「あの無神経どもは!!」」
二人が怒鳴っている時、その二人の男は同時に殺気を感じ、身を震わせたのだった。
「「最低」」
「だよ!」
「だな!」
「……何か、仲良くなってしまったわね。」
いや、仲良くなった域を越して、完全に意気投合しているんじゃないか、とリディアナは突っ込みそうになるが、これ以上このメンバーに付き合っているのも面倒臭くなり、ふと、風が彼女を包んだ。
「……兄様?」
風は何かを伝えるかのように、リディアナの周りを漂い、そして、消えるのと同時にリディアナは風呂場から出て行った。
「……あら?リディアナは?」
「えっ?」
「…いないな……。」
ぐったりと横になっているチェレーノの近くにリディアナの姿はなく、フローリゼルをはじめとする三人は首を傾げたのだった。