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「何とか止められないのか?」


 リョウタは少し離れた所にいたジャックに話しかける。


「ああ?」

「あの二人だよ。」

「…ああ、無理だ、あんな風になったルシ兄を止められるのはカイ兄だけど、カイ兄は止める気がなさそうだからな……。」

「ふ~ん。」

「そんで、お前んとこの姫さんはどうだ?」

「初対面だから知らねぇ。」

「ふ~ん。」


 ジャックは適当に相槌を打ち、「おやっ」と眉を上げた。


「何なんだよ?」


 何か企みを感じたリョウタは眉間に皺を寄せる。


「いや、そろそろ終わりそうだな~、と思っただけだ。」

「……。」


 ジャックの言った意味が分からないリョウタはさらに眉間に皺を寄せた。


「見てりゃ分かるさ。」

「……。」


 そして、それはジャックの言う通り、静かな冷戦は終わろうとしていた。

 一人の少女がこの冷たい戦いを終わらすという行動をやってのけたのだった。


「る、ルシスさん……。」


 チェレーノはルシスの服の裾を遠慮がちに引っ張った。


「……。」


 ルシスを知らない面々はきっと彼は冷たい笑みで彼女を見るのだと思ったが、その予想に反してルシスは柔らかい笑みをチェレーノに向ける。


「何かな?」

「……ルシスさん、ここは自分の国じゃないんですよ、だから、喧嘩するのは止めてください。」


 ルシスが自分を見た事によって、チェレーノは勇気付けられたのか、少し怒ったような顔をした。


「…分かっているつもりだけどな。」

「分かっていませんよ。」


 苦笑を浮かべるルシスは先程チサトと冷戦を繰り広げていた青年に見えないほど、穏やかな表情を浮かべている。


「すげぇ……。」

「だな……。」


 思わず感嘆の声を上げたのはリョウタとジャックだった。


「あのおっかねぇのを鎮めた……。」

「う~ん、カイ兄だけじゃなく、チェレーノまで止められるようなったのか。」


 ジャックは感心したように言った。


「「――っ!」」


 刹那、二人は同時に殺気を感じた。

 因みに殺気の方角は近いが、それぞれ全く異なる人からの殺気を感じた。


「……。」

「やべ……。」


 二人は殺気の視線を辿った。

 リョウタはチサトから、ジャックはルシスからの殺気を感じた。


「何かしら平民?」

「……。」

「……ジャック。」

「……悪い。」


 黙り込むリョウタと反射的に謝ってしまったジャックは常よりも体が小さく見えた。


「帰り道は背中に気をつけなさいよ。」

「そうだね、ジャック久し振りに稽古の手ほどきをしてあげようかな?」

「「……。」」


 チサトとルシスの迫力によって二人は黙り込んでしまう。


「……ふぅ…。」


 突然溜息が聞こえたと思ったら、次には凛とした声がその場に響き渡る。


「お止めなさい!」

「……。」


 チサトは冷めた目で声を出したユウリを睨みつけた。


「何かしら?お姉様。」

「お止めなさい、見っとも無いわ。」

「……。」

「上に立つ貴女がそんな姿を見せていていいのですか?」


 ユウリはまるで自分がチサトよりも権力があるかのように振舞う。


「……お姉様にわたしにそこまで言う権限はあると思っておいでですか?」

「ええ、あるわ。」


 ユウリは完全に切れているのか、目が据わっている。


「私は貴女の姉よ。」

「でも、わたしは国王代理。」

「それがなんなの?お客に対しそんな態度をとっている貴女の方が私よりも子どもよ。」

「あら?」


 チサトの瞳が一気に冷える。


「そんな事を言うのはこの口ですか?」


 チサトはまるで風のようにユウリの頬に手を伸ばそうとするが、流石は騎士。彼女の持ち前の反射神経によってチサトの攻撃を避けた。


「ちっ…。」

「ふん、いつまでも喰らうほど私は馬鹿じゃないわ。」


 ついこの間まで喰らっていたような口ぶりをするユウリに近くにいたマサシは額に手を当ててこう呟いた。


「自慢する事じゃないだろうが……。」


 呆れるマサシの言葉などユウリの耳には届いていなかった。


「……。」

「……。」


 チサトとユウリは互いに睨み合い、そして、どちらともなく視線を外した。


「これで、開きにさせていただきましょうか?」

「そうね、フローリゼルたちも疲れている事ですからね。」

「お姉様。」

「ええ、私がフローリゼルたち女性人を連れて行くわ。」


 まるで、先程の睨み合いなど嘘と言うかのように二人は息のあった会話を繰り返す。


「マサシ。」

「はい。」

「男性人の方はよろしくね、私は東の塔に行くから、貴方は西の塔でお願いね。」

「……。」


 ユウリの言葉にマサシは小さく肩を竦めた。


「分かったよ。」

「それじゃ、よろしくね。」


 ユウリは笑みを浮かべ、フローリゼル以外の女性を呼んだ。

 こうして、チサトと出合ったアルテッド国の面々はチサトを侮ってはいけないと思ったのだった。

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