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 馬車が城の門をくぐり、そして、馬車が止まった。


「姫、お手を。」

「ありがとうございます、カイザー。」


 フローリゼルは当然のようにカイザーの手を取り、優雅に馬車から降りた。

 ユウリはその後を呆けた顔で見詰め、そして、自分の仕事は終わったのだと考え、次はどうしようかと首を傾げた。


「おいっ。」

「……。」


 不機嫌な声につられ、ユウリもまた眉間に皺を寄せ、声を掛けてきた人物を睨んだ。


「何よ、マサシ。」

「何よ、じゃない、さっさと着替えて来い。」

「はあ?」


 ユウリが怪訝な顔をするのも無理はないだろう、彼女にとっての正装は騎士の時の服装なのだから、汚れてもない服を着替えるなどと思ってしまう。


「どうしてよ。」

「……。」

「綺麗じゃない。」


 マサシは半ばその答えを予想していたのだろうが、それでも彼女の口から聞くと溜息を漏らした。


「お前な、お前の正装はそっちじゃないだろうが。」

「……?」

「…本気で分からねぇのかよ。」


 マサシは周りの人が自分たちを見ていない事を確認し、無理矢理ユウリの手を取った。


「なっ!」

「静かにしろ。」


 大声を出すユウリにマサシは声を潜めて言った。


「……。」


 騎士専用の城の正面の入り口ではない場所から、城の中に入ったユウリとマサシはようやく普通の声で話し始める。


「お前さっさとドレスに着替えて来い。」

「はあ?何でよ!」

「…チサト様の命令だ。」


 重々しく言うマサシにユウリは顔を引き攣らせる。


「な、何で?」

「………「お姉様、貴女は王位継承権を捨てました身ですが、お姉様は王族、その立場をお分かりになりませんか?そうですよね、お姉様ならば分かりませんよね?」。」


 マサシはチサトが自分に言った言葉を思い出し、棒読みでその言葉を言っていく。因みにその光景はかなり異様でユウリの頬がかなり引き攣っていた。


「「お姉様は他国の王族の方にちゃんとお会いしなくてはなりません、もし、そうなさらないのなら、きっと向こうはこちらが礼を尽くさないとお考えになりますわ、または、こちらが上からモノを見ている、と考え、今回のわたしの計画が台無しになります。」。」

「計画?」

「……。」


 ユウリが疑問を口にするとマサシは用事が終わったと言わんばかりに、さっさと踵を返す。


「ま、待ちなさいよ!」

「……。」

「あんた、何か知っているの!?」

「さあな。」


 マサシは何も言わず出て行った、ユウリは一瞬後を追うか迷ったがチサトの怒りを買う訳には行かないのでしぶしぶ自室へと向かった。

 自室には今朝までにはなかった鮮やかなオレンジ色のドレスが置かれてあり、ユウリはマサシが言った事は嘘ではなかった、とようやく理解した。


「何でよ……。」


 ユウリはドレスがあまり好きではなかった、着飾る事は一応女だから好きなのだが、動きにくいし、戦いにくいので出来るだけユウリはドレスを着ようとはしなかった。

 だけど、今回ばかりは嫌だと言って突っぱねる訳にはいかなかった。


「仕方ないわね……。」


 ユウリは溜息を吐いて自分のために用意されたドレスに手を伸ばす。

 本来なら侍女か女官に着替えを手伝ってもらうのが普通だが、この国の姫は全員変わり者で、自分の事は極力自分でするのだ。

 やってもらうことといえば、髪のセットや部屋の掃除やシーツなどを変えてもらう事、そのほかは出来るだけ彼女たちは自分でやっているのだ。

 そして、一応ドレスを着たユウリは溜息と共に鏡の前に立った。

 髪はぼさぼさで、顔には疲弊の色が窺えた。

 これから長い間椅子に座り、髪をいじられるのだからそれは当然の事かもしれない。

 ユウリは仕方なく呼び鈴を鳴らした、そして、待機いていたのかすぐに複数の侍女が入ってきて、ユウリは椅子に腰掛けた。

 そして、それから一時間、ユウリは苦行に耐える羽目になる。

 その御陰でユウリは一応人前に出られるような格好になり、侍女たちが教えてくれた奥の部屋へと足を進めた。


「もう…疲れた……。」


 ぐったりとした表情のユウリは最初のうちこそそれを顕にしていたが、段々目的の部屋に近付くにつれ、表情が凛としたものへと変わった。

 それもそうだろう、彼女だって一応は王族、そのように躾けられているのだ。


「さて、この服を見たフローリゼル様はどんな反応をするかしら?」


 ユウリは苦笑しながらそっとあの美しい女性を思い浮かべた。

 彼女なら自分の姿を見て驚くのか、それとも納得するのか、何となくそれを楽しみにしながらユウリはその足を速めていった。


「ふふふ、ちょっと楽しみだな~。」



 ユウリが一人楽しんでいる時、他国では――。


「機は熟した。」


 一人の者がそう言い、ニヤリと笑った。


「あの国を手に入れる、さてさて、あの国の姫たちはどのように反撃してくるか、それとも、易々と手に入るか。」


 レナーレは裕福な国だった、貿易も盛んで街は賑わい、そして、農作業も土地が良いのか実りが良かった。

 だから、レナーレを狙う国は山ほどあった。

 そして、チサトはそれを阻止する為に同盟を組んだり、色々な事をして国を守ってきた。

 今回もまたフローリゼルたちの国と関係を持つために、力を注いでいた。

 だが、彼女達の知らない内にそれは動き出していた。

 そう、毒が回るように徐々にレナーレにその敵国のものが紛れ込み……そして――。

 それに聡いと言われる、レナーレの第二王女――チサトでさえ気づいていなかった。


「さあ、宴の始まりだ。」


 男はねっとりとした嫌な笑みを浮かべ、近くのボトルから穢れないグラスに血のように真っ赤なワインを注いだ。


「せいぜい、踊れ、そして、屈しろ、ふっはははは。」


 男は高らかに笑った、そして、事態が動き出したのは三日後だった……。

 その間…ユウリもチサトも誰一人、その前兆を気付けなかった。

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