14
ユウリはそっとカーテンを開け、外を見た。
「ユウリ?」
「あっ…、すみません、眩しいですよね?」
目を細めたフローリゼルにユウリは眩しいかと、勘違いし慌ててカーテンを閉めようとすると、フローリゼルはやんわりとその手を止めた。
「別に構いませんよ?」
「……あの…。」
「何かしら?」
「あのカイザーという人…強いんですか?」
フローリゼルは軽く目を見張り、そして、ゆっくりと微笑んだ。
「ええ、強いですわ。」
「…そう…ですか……。」
「ユウリ?」
「……私…、これでも将軍の位についているんです。」
「まあ。」
フローリゼルは本当に驚いているのか、口元を隠すように手を当てた。
「なんですけど……私、未だに分かっていないように思っているんです。」
「何をですか?」
「上に立つこと、そして、敵と自分の力量を見て尚且つ冷静に戦闘を見守ること。」
「……。」
「私…、正直人の上に立つような人間じゃないんです…弱いんです…心が……。」
ユウリはずっと溜めていたものが溢れるのを感じた、そして、その証拠に彼女の頬から一筋の涙が零れ落ちた。
「いつも、いつも…逃げてばっかり……。」
「ユウリ。」
「どうして…何だろう……。」
ユウリは膝に手を置き、その手は強く握られる。
「いっつもそう…、マサシは私を戦場に連れて行かない…、連れて行っても自分は矢面で戦い、私は後方の守りだけ……酷いよ。」
「ユウリ。」
フローリゼルはユウリの血の滲む手をそっと取った。
「わたくしも、辛いですよ…。」
「?」
「わたくしは戦う力を持ちません。」
「……。」
「だから、いつもわたくしは傷付くあの人を見ている事しか出来なかった。だけど、最近では、そうは思わなくなりました。」
ユウリはそっと顔を上げ、フローリゼルの澄んだ瞳を見詰めた。
「わたくしは、わたくしにしか出来ない事があります。」
「たとえば?」
「そうですね、わたくしの権力。もし、それが必要ならわたくしはそれを最大限に活用します。たとえ、その地位を望んでいなくとも。」
「……。」
「わたくしはあの人に守ってもらうだけでは駄目だから…、あの人に甘えていたら、それはあの人を本当に想っていない事だから。」
「……フローリゼル様…。」
「貴女は貴女らしく過ごせばいいし、それに貴女だけしか出来ない彼の守り方もあると思いますよ?」
フローリゼルは柔らかく微笑んでいるが、その可憐な容姿の中はユウリが想像もできないほど強かなのだ。
「わたくし、昔一度だけ剣を持った事があるんです。」
フローリゼルは昔を思い出しているのかほんの少し遠い目をしていた。
「ふふふ、あの時のカイザーの顔は今思い出しても、笑えます…。今も昔も彼があれほど取り乱した事はなかったかもしれませんね。」
「……。」
「あの頃は皆…無邪気な子どもだったのに…………、ユウリあのね、彼が彼の父の命によって、一人で旅をしていた時期がありましたの。」
「………旅?」
「ええ、彼はわたくしの国をその足で歩いてくれて、わたくしの国の現状をわたくしに教えてくれました…、でも、彼が教えてくれたのは、彼が見てきた綺麗な部分だけでした…。彼が見てきた悲惨な現状は彼の父とそして、彼の弟のルシスしか知りませんでした。」
フローリゼルは憂えている目で外に視線を向けた。
「彼は何でも一人で閉じ込め、そして、それを他人に悟られないように直向に隠す……、わたくしにだけは、頼っても良かったのに……。」
「フローリゼル様…。」
「ねえ、ユウリ。」
「はい。」
無邪気な声を出すフローリゼルにユウリは耳を傾ける。
「殿方は何もかもを己の懐に隠してしまいます、ですから、わたくしたちがそれを暴き、そして、それを分捕ってさしあげればいいのではないのかしら?」
「えっ?」
「貴女の想い人が剣を握るのなら、貴女も剣を握り、彼よりも早く敵を斬る。それが出来ないのなら、貴女の持つ権限を総動員させれば、いいのではないのかしら?」
ユウリはふっと笑った。
「それじゃ、職務乱用ですよ。」
「まあ、それは困った事ね。」
「でも、ありがとうございます。」
ユウリは何か吹っ切れたかのように微笑んだ。
「私は私なりのやり方で皆を守ります。」
「ええ、わたくしも立場を利用して彼を守りますわ。」
互いに顔を見合わせ微笑みあう二人はそれぞれの相手を思った、ただ、思う愛情は互いに違っていた。
フローリゼルは両想いではないが、それでも、今一番愛おしく、そして、共に隣を歩んで生きたい人【カイザー】。
ユウリはいつも喧嘩ばかりで、凄く自分の事を嫌っている相手だけど、何故か自分が泣きそうな時、つらい時は何故か側にいてくれる人【マサシ】。
「ねえ、ユウリ。」
「何ですか?」
「もし、貴女に好きな相手が出来たら、わたくしに教えてくださる?」
「えっ?」
「わたくし、年の近い人とあまりそういう話しをした事が無いの、ですから、貴女とはそういう関係を築きたいわ。」
「……私?」
「ええ。」
ユウリは呆然とし、フローリゼルは期待を込めた目でユウリを見詰めていた。
「………本当に、私でいいんですか?」
「ええ、貴女じゃないと。」
フローリゼルは嬉しそうに言った、それもそうだろう、自国ではカイザーに恋する女性が多く、他の人がいても圧倒的にカイザーの兄弟を上げる人がいるので、あんまり話しが弾まないのだが、こうして、ユウリのように初々しい女性の恋愛話を聞ける経験は少ないからだ。