13
「あっ、これ可愛い。」
「ミナミ…。」
「ふあっ…、高い~~。」
ミナミは可愛らしい黄色い花をあしらった髪飾りを手にして、小さく肩を落す。
「お姉様にねだろうかな?でも…怒るだろうな……。」
「ミナミっ!!」
「ふえっ!!」
耳元で叫ばれ、ミナミは飛び上がるほどびっくりした。
「な、何?リョウくん!?」
「何、寄り道してんだよ。」
「だって…。」
「分かった、おばさん、これ一つ。」
ミナミが先程見ていた髪飾りを掴みそれをさっさと勘定にまわす。
「5000ユィだよ。」
「ん。」
「丁度だね、毎度。」
リョウタは髪飾りをそっとミナミの髪に挿した。
「ほら、欲しかったんだろ?」
「リョウくん…。」
「んあ?」
「悪いよ。」
「いいんだよ、どうせ、給金貰っても正直欲しいものは先回りしてじいちゃんやばあちゃんが買ってくれるから使いどころが無いんだよ。」
「いいの?」
戸惑うように上目遣いをしてくるミナミにリョウタは頬を染める。
「いいんだよ。」
「……ありがとう。」
花のような笑みにリョウタは更に顔を真っ赤にさせ、そして、そのままズイズイと先を歩き始める。
「あっ、待ってよ。」
「ほら、放っていくぞ。」
リョウタは遅れそうになったミナミの手を取った。
「ふふふ、ありがとう。」
「ん。」
初々しい二人の姿を見ていた男は呆気に取られた。
「こいつら…付き合っているのか?」
疑問符を浮かべる男の目にはどう見ても恋人同士の会話にしか聞こえない二人の姿を見て、子の国の姫がただの商人と付き合ってもいいものかと、頭を悩ませ始めた。
「おい、おっさん。」
「おっ、おっさん!?」
男はせいぜい二十代後半から三十代前半の年齢にしか見えないのに、リョウタにおっさんと言われ、ショックを受ける。
「さっさと行かねぇと、そろそろ、ぶつかるだろうが。」
「――?」
男はリョウタの言いたい事が分からないのか首を傾げる。
「あんた、本当にこの国の役人?」
「そうだが。」
リョウタの物言いにカチンとくるが、流石に十近くも離れている少年に怒る訳にはいかないと、男は自制する。
「今日は遠くの…が来る日だろ?」
「……。」
男は何故その事をと目を見張る。そう、リョウタが言っているのはこの国の中でも城で働くものか、それに関係するものしか知らない、情報だった。
「舐められちゃ、困るぜ。」
「……。」
「オレの家の事はさっき母さんから、聞かされたんじゃねえか?」
「何でそれを。」
「……はぁ、鎌掛けてみたら、当たりかよ。」
リョウタは自分の母を思い出しげんなりとした。
「あの人の事だから、何か言ったと思ったが、マジかよ。」
「リョウくん?」
リョウタの隣を歩くミナミは不思議そうに首を傾げた。
「何でもねぇ、本当に母さんは容赦ねえな。」
「……ふえ?」
「……。」
リョウタは肩を竦め、そして、そっと周りを見渡した。
「まだ、こっちには向かってなさそうだが、しばらくしたら警備の人間も増えるだろうし、観客の人間も増えるだろうな。」
「リョウくん、何かパレードでもあるの?」
「まあ、それに近しいもんだな。」
「ふ~ん。」
リョウタは姫なのに知らないのか、と思いながらもさっさと先に進んでいく。
「ミナミ。」
「な~に?」
「絶対に……いや、何でもない。」
「ふえ?」
何を言いたかったのか分からないミナミはキョトンと首を傾げた。
「絶対にこの後何があっても……お前はお前のままでいてくれよな……。」
「えっ…何か言った?」
「何もないからな。」
「……。」
ミナミはリョウタがあまりも真剣なものだから、頷く事しかできなかった。
「…絶対だぞ。」
念を押すリョウタにミナミは普通なら怪訝に思ったり、怪しんだりするのにも拘らず、キョトンと首を傾げただけだった。
「……ミナミ。」
「何?」
「その髪飾り、よく似合っている。」
唐突なリョウタの言葉に、ミナミは頬に熱が集まるような感じがした。
「あ、ありがとう……。」
「んじゃ、先急ごう……。」
リョウタはミナミの手を引いて歩き始めた。
この時、ミナミは恥ずかしいのか、顔を俯いていたので分からなかったのだが、もし、顔を上げていたのなら、リョウタの赤面した顔が見られただろう。
それは本当に可哀想なくらい真っ赤で、そして、耳までも赤かった。
「……本当に、この人たちは…どんな関係なんですか?」
男の心からの疑問に答える声は残念ながらなかったし、多分本人たちに聞いても彼の望んだような答えは決して返って来ないだろう……。
何故なら彼らも自分たちの関係に名をつけられないでいた。強いて言えば友だち以上恋人未満…だろうか?