12
「「え?誰?」」
リョウタの母とミナミの声が重なった。
「あっ、やっと気付いてくれた……。」
「あんた誰だ?」
怪訝な顔をするリョウタとさりげなくミナミを隠すように前に出るリョウタの母は警戒心むき出しの顔で男を見た。
「わたしはミナミ様を迎えに上がった者です。」
「……。」
リョウタはそっと男の腕を掴み、壁際に連れて行く。
「証拠は?」
リョウタの低い声に男は一瞬たじろいだ。
「証拠、ですか……?」
「ああ、あいつはオレの大切な奴なんでな、信頼のある奴じゃないと、お前に預けないぜ?」
「……。」
男はしばらく固まっていたが、すぐに何かを思い出したのか。胸元から手紙を取り出す。
「……。」
リョウタは男からそれを受け取ると、ペーパーナイフを使わず、そのまま破った。
男はハラハラとそれを見ていたが、リョウタは封をしていた文様を見て、これが本物であると分かっていた。
「……。」
内容をざっと確認したリョウタはそのまま手紙をビリビリに裂き、そして、蝋燭の炎でそれを焼いた。
「何をやっているの!リョウタ!?」
母の叫びを聞きながら、リョウタはニヤリと笑った。
「確かに、お前は本物かもしれないが、オレもこいつを送らせてもらう。」
「えっ…、ですが……。」
「こいつが何者かは、オレは知っている。」
男にしか聞こえないように囁いた。
「それに、さっきの手紙はオレも来るようにと書かれていたからな。」
そう、先程の手紙にはリョウタに城に来るように書かれていた、もし、これを持って来たのが本人だったら、リョウタは行かなかっただろう。
だけど、今回はミナミがいた。
ミナミを自分が知らない男に送らせるなど、リョウタは絶対にさせたくない、そして、それを相手も熟知しているのか、その手を使ってきたのだ。
「貴方は一体……。」
男は怪訝な顔でリョウタを見た。
「オレは只の商人子どもで、そんで、今はまだ見習い中だ。」
「……。」
男はますます分からないのか、顔を曇らせる。
「ミナミ。」
「ふえ?」
「こいつ、迎えらしい?」
「??そうなの?」
ミナミもこの男を知らないのか、不思議そうな顔でリョウタと男の顔を見ていた。
一方、リョウタの母はしかめっ面でリョウタを睨んでいた。
「母さん、オレ仕事抜ける。」
「あら?何で?」
「ミナミを送るからな。」
「そう、それなら、仕方ないわね、しっかりと送るのよ。」
リョウタの母は目に見えるほどホッとしていた、彼女はこの男を信用できないと思ったらしい。
「え、まっ、待って、何でリョウくんが!!」
自分の正体を知られたくないミナミは困惑の表情を浮かべる。
「不満か?」
「不満じゃないけど……。」
「何か文句でもあるのか?」
「……。」
「はぁ…安心しろ、お前に不利益は働かねぇよ。」
「……。」
ミナミは俯き、その手が白くなるほど強く握っていた。
「………安心しろ。」
リョウタはミナミの近くにより、そして、彼女の耳元でそっと囁く。
「お前がたとえ何もんでも、オレは構わねぇよ。」
ミナミはガバリと音を立てながら顔を上げた。
「本当!!」
リョウタは苦笑を浮かべる、先程の台詞だと、お前が何者か知っている、というつもリで言ったのだが、ミナミはどうやらそのままの意味で受け取ったらしい。
「まあ、お前らしいけどな。」
「ふえ?」
「それじゃ行くぞ。」
「あっ、待って……。」
さっさと部屋から出て行くリョウタ、その後を追うミナミ、そして、最後に男が出ようとした瞬間、リョウタの母が男の胸倉を掴んだ。
「ひっ!」
「わたしの息子と未来の娘に変な事をしてみなさい、貴方はこの商家を敵に回す事になるわよ!!」
「……っ!」
ただの商人風情が、何が出来ると男は思ったが、リョウタの母の迫力の所為でそれを口には出来なかった。
「知らない?」
リョウタの母はクスリと笑った。
「ここはね「月蓮華」よ。」
「なっ!!」
男は目を見張る。
「月蓮華」とはこの国のギルド全体の運営やこの国を支える柱ともいえる貿易を司る商家の別名だった。
「言っておくけど、わたしたちは本気だからね?」
「ああ。」
ずっと黙っていたリョウタの父も重々しく頷き、それを見た男は可哀想なほど顔を真っ青にさせた。
「わたしたちを敵に回すのがこの国の王族だろうが、官吏だろうが、関係ないわ、食べるものも着る物もわたしたちの思うまま……。簡単に飢えさせるくらい出来るのよ?」
「……。」
「だから、わたしたち親子に喧嘩を売るのは止めた方が良いわ。あと、息子の恋路の邪魔をしても同じだから。」
「……。」
男は自国の姫が入り浸っている場所が物凄い場所だと知って、彼らの怒りを買わないようにと、心から願った。