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 ミナミは椅子に座り、じっと真剣な表情のリョウタを見ていた。

 リョウタは筆を動かし、帳簿に数字やら文字やらを書き込んでいっている。


「ふあ…、凄い真剣な顔。」


 今までこんなにも真剣な顔を見た事がなかったミナミはまるで別人のようなリョウタの顔を食い入るように見ていた。

 そして、彼女たちは気付いていないのだが、それを温かい目で多くの従業員やリョウタの父が見ていた事に、全く気付いていなかった。


「お茶はいかが?」

「ふえ?」


 突然香りのいい紅茶を出され、ミナミはそれを差し出した若い女性を見上げた。


「え…え~と……。」


 知らない人から物をもらってはいけないと、よくチサトやユウリに言われていたので、ミナミはそれを受け取ってもいいものか、悩んでしまった。


「ふふふ、安心して、これはこの店一番の紅茶よ。」

「……。」

「それとも、わたしのことかしら?」


 ミナミは驚いたように女性を見上げた。


「わたしはリョウタの母親よ。」

「へ?」


 ミナミは先程聞いた言葉が信じられなかった。女性はせいぜい二十代半ばのような容姿をしていて、リョウタは十五歳なので、とてもじゃないがそんな子どもがいるような年齢には見えない。


「あら、見えないかしら?」

「え…はい。」

「ふふふ、正直なのね。」

「あ……。」


 リョウタの母と名乗る女性に笑われ、ミナミは小さくなる。


「あら、ごめんなさいね。よく言われるものだから、つい……。」

「……。」

「特に若作りをしている訳じゃないのだけど、これでも、三十歳前半なのよ。」

「えっ?」

「まあ、商売をする上でこの容姿はネタになるから、別に気にしないのだけど、たまにリョウタの姉だと思われるのは、快感よね~。」

「……。」

「あの子も実際年齢より幼く見えるかしら、血筋なのかしらね~?」


 ミナミはぼんやりとしながら、リョウタの母を見た。

 確かにリョウタの目元と彼女の目元は似ていたし、よくよく見れば、顔のつくりも確かに男女の差はあれど、かなり似ていた。


「母さん。」

「あら、まあ。」


 不機嫌な声がしたものだから、ミナミが顔を上げるといつの間にか声と同じく不機嫌な顔をして仁王立ちしているリョウタの姿があった。


「何勝手にミナミと話してるんだよ!」

「まあ、ミナミちゃんって言うのね、可愛らしい名前ね。」

「あ、ありがとうございます…?」

「もう、リョウタ、どうしてもっと早く彼女を連れてこなかったの?出し惜しみ?」

「そんな訳ねえだろ!つーか、彼女じゃねぇし!」


 顔を真っ赤にさせて怒鳴るリョウタに全く説得力がなかった。


「もう、そんなんじゃキ――。」

「母さん、黙ってくれ。」


 リョウタは自分の母親の口を塞ぎ、彼女の言葉を無理矢理止めた。


「もう、別に良いじゃない。」

「よくねえし!」

「あの……。」

「本当に息子って面白みが無いわ!」

「悪かったな、面白みに欠けて。」

「もしもし……。」

「本当よ、これが女の子だったら、恋話に盛り上がるというのに!」

「はっ!くだらねえ。」

「聞いてますか?」


 リョウタとリョウタの母は時々聞こえてくる男性の声に全く気付かない。


「もう、リョウタって本当に、わたしの子?」

「そりゃ、生んだ覚えがあるんだったら、あんたの子だろうが。」

「まあ、あんたって他人事のように。お母様って何時も言っているでしょ!」

「は、誰が言うかよ!」

「それじゃ、百歩譲って、ママ?」


 リョウタは眉間に皺を寄せた。


「誰が呼ぶかよ。」

「本当に残念ね、でも、ミナミちゃん!」


 リョウタの母は異常な速さで、ミナミの手を握った。


「貴女がリョウタのお嫁さんに来るんだったら、是非わたしの事をママって呼んで!!」

「何勝手なことを言っているんだよ!!」

「あら、だってリョウタが呼んでくれないんでしょ?」

「当たり前だ!」

「それなら、可愛い「娘」に言って欲しいじゃない。」


 ウインクをする実の母にリョウタはげんなりとする。


「可愛ければ誰でもいいのかよ…。」

「あら、そんな訳じゃないのよ。」

「ふ~ん。」


 冷めた目をするリョウタに彼の母はニヤリと笑った。


「リョウタちゃんが気に入った娘に決まっているじゃない!!」

「なっ!」


 リョウタは顔を真っ赤にさせ、パクパクと金魚のように口を開けたり、閉めたりを繰り返した。


「何て、嘘。」

「……嘘ってあんた…。」

「だって、リョウタって理想高そうだからね~、下手をすれば現実にいないような娘を言いそうだもの、だから、一番は「顔」!」

「……。」

「可愛い方がやっぱりいいからね、お母さんとしては。それで、次は「性格」でしょ?やっぱり素直で、可愛い性格がいいし。う~んと、後は。」

「もういいよ、母さん。」


 再びげんなりとするリョウタに母はニッコリと微笑んだ。


「よかったわ~、五十過ぎておばあちゃんと呼ばれるよりも、三十代気持ちが良いものね~、ああ、可愛い孫が欲しいわ。」

「……。」

「リョウタ絶対、ミナミちゃん似の可愛い女の子にしてね。」


 リョウタは一瞬ミナミ似の自分の子を想像してしまい、顔を真っ赤にさせる。


「まだ、早いだろうが!!」

「あの、いい加減に話を聞いてください!!」


 リョウタの声と共に誰かも叫んだ。

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