ルカ・ポアネスという不良16
そんなキエラの言葉に、私は確信する。
「…デイビットの、ルカに関する情報を操作したのは、貴女ね」
「そや。うち以外にそんなことする奴おらへんやろ」
キエラはそんな私の問いを、躊躇うことなく肯定した。
「元々、そないにちゃんと目撃した奴はおらへんかったから簡単なもんや。寧ろ、気絶したルカの後始末の方が面倒だったわ。引き摺って人がおらんとこまで連れてって、服を調達してやって…ホント世話焼けるわ。デイビットもルカも」
そう言ってキエラは溜め息交じりに、肩を竦めてみせた。何とでもないことを、話すかのように。
しかし、そんな軽い調子のキエラを、私は目じりを吊り上げながらきつく見据えた。
キエラは、「目」の力による恋愛ごとに関わる情報収集以外は不得手だと、そう聞いていた。
だがそんな人間が、ここまで見事に情報を隠蔽できるとはとても思えない。恐らく、キエラは目に関わること以外の自身の能力を隠していたのだろう。
出る杭は打たれる。それが、身分が低い下級貴族ならなおのこと。
目立つ才を持つ者の多くは、上位身分のものによって潰されるか取り込まれるかのどちらかの運命を辿る。自由でいる為には、愚鈍なふりをするしかない。
そうやってキエラは、この学園で生活をしていたのだ。
いくつもの虚飾で全身を塗り固めることで、内側の自分自身を守りながら。
そうなるとキエラが表に出している部分には、どこかしら嘘があると疑ったほうが賢明だ。
見極めなければならない。キエラ・ポーサという人間を。
何が虚飾で、何が真実か、見極めて、その本質を探らなければならない。本質を探って、場合によってはそれに応じた、何らかの行動を取らなけばならない。
――だってキエラは、デイビットにとって、私以上に近くにいる存在なのだから。
もし彼女が、デイビットに害をもたらす存在なら、排除することも考えなければならない。私はデイビットに「従なるもの」なのだから。
「主なるもの」であるデイビットを、私は守る義務がある。
「何故、デイビットの為にそこまでするの、キエラ?それが貴女にとって、一体何のメリットがあるというの?」
発した言葉は、思いの外冷たく響いた。
それは、問いと言うよりは寧ろ、糾弾だった。
そんな私の内心を察したのか、キエラは小さく苦笑いを浮かべる。
「友情が故や…っちゅーても、ルクレア様は信じないやろな」
「ええ、信じないわ。貴女が友情を、そこまで重んじるとは思えないもの」
「ひっどいわー…でも正解や」
喉を鳴らして笑うキエラの姿に、小さく眉を顰める。
キエラが何を考えているのか、正直私にはよく分からない。
守銭奴でビジネスライクな彼女が、お金以上に重視する者なんてあるのだろうか。
あるとするならば…
「……キエラはデイビットが好きなの?」
――あるとするなら、それは恋だろうか?
オージンやダーザがそうだったように、恋は人の思考を、狂わせるようだから。
しかし私の言葉を耳にするなり、盛大に噴き出したキエラの反応が、その可能性を一刀両断した。
「…好き?うちが、デイビットを!?…ぷくくく…ああ、まぁ好きっちゃ好きやで。あれほど面白い男はおらへんもの。…まぁ、ルクレア様が想像するような甘ったるい感情やあらへんけど…あはははははは」
キエラは話している途中で再び噴きだすと、暫くの間腹を抱えながら全身を震わして笑い続けた。
……いや、無いのは分かったし、私もデイビットは無いなという気持ちは分からんでもないが、そんなに笑わんでも。
さすがにデイビットが可哀想になんぞ。そんな風に笑い飛ばされたら。
あれだって一応、男の子なんだからさ…。同居までしてるんだし、もっと意識してやっても…。
「…あぁ、笑った。笑った」
一しきり笑って満足したらしいキエラは、笑いすぎて瞳に溜まった涙を拭いながら、私に向かって、思わずどきりとするような、意味ありげな視線をむけてきた。
「――なぁ、ルクレア様。あんた、運命って信じはる?」




