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ルカ・ポアネスという不良11

 と、なると、残された手段は…。


 私は、びっくりする程ふわふわで寝心地最高な、天蓋付ザ・お嬢様ベッドに身を投げ出すと、枕元に投げていた携帯電話を手を取る。

 中世ファンタジーっぽい世界観に相応しくないそれは、ゲーム発売時がスマホ全盛期だったのにも関わらず、折り畳み式ですらないガラケー。しかもメール機能なしの通話オンリーという、ゲーム製作者の謎のこだわりが感じられる逸品である。…まだ噂に聞いた初期携帯電話の様に色が真っ黒でない&重くないだけマシか。

 電話帳を開き、もともとさして多くないながら、それでもほとんど埋まったメモリの中から選び出す、【悪魔様】と登録された番号。


「………」


 何らかの用事で向こうから掛かってくることこそあっても、一度もこちらから掛けたことが無いその番号を睨みながら、暫し逡巡する。

 一瞬親指を通話ボタンに親指をあてて、すぐさま離す。



「…いやいやいや。私からデイビットに電話掛けるとかないから」


 デイビットが電話に出たら、なんといえばいいんだ。

『様子が心配だから、電話掛けてみた』?なんて?


 いやいやいやいや、そんなの私のキャラじゃないから。てか、別に心配しているとかそういうわけで無くて、単に…えと、その単に自分が置いてかれているようなこの状況が嫌なだけだから。この疎外感が嫌なだけだから。

 あと、あれだ。ちょっとの好奇心?そんな感じ?

 …まぁ情報を聞き出す為に敢えて心配しているていを装ってみてもいいかもしれないけど、無駄に野生の勘が鋭いデイビットには多分通じないし。

 てか、そもそも、お前には手を出すなって言われてんのに、状況把握の為とはいえ口を出すこと自体、あんまり良くないんでない?なんてか…未練がましいというか?往生際が悪いというか?…うん、なんて言えばいいのか分からないけど、なんだかとっても格好悪い気がする。


 ないないないないっ


 却下却下却下っ!!



 大きくため息を吐いて携帯を再び枕元に投げ捨てると、携帯から背を向けるようにして背を向けて寝転がる。

 下手なことを考えずに、ただ半月過ぎるのを待っていればいいんだ。私がデイビットのことを気に掛けてやる必要なんかない。

 勝手に結ばれた契約だ。だったら要望があった時だけ、ちゃんと主従関係に相応しい行動を取れば、それでいいじゃないか。命令された時だけ、従えばいい。自発的に行動なんて、何もする必要はない。

 何もしなくていいと言われたんだ。何もするな、私。それが主であるデイビットの命令だ。きっぱり割り切れ。主従関係を、この二週間はきっぱり忘れろ。

 きっとそれが、一番正しいあり方なんだ。


 今日は、もう、このまま寝てしまおう。


 そう思って固く目を瞑る。


 もう寝る前の準備はすっかり済んだ。やらなければならないことは、何もない。服装だって寝間着だ。このまま寝てしまっても何ら問題が無い。

 このままぐっすり眠って、胸の奥のもやもやをすっかり忘れてしまおう。焦燥感を、押し流してしまおう。

 寝て、夢を見れば、朝起きればきっともう忘れている。きっと上手く、切り替えられる。



「………だけど、なぁ……」


 だけど、もし。私が知らないだけで、デイビットのルカに関する情報が、貴族の間に出回ってしまっていたら。

 私の知らないところで、デイビットが危険に晒されていたら。


 そんな最悪の想定が次々に湧き上がってきて、気が付けば寝返りと共に携帯電話を手に取って、再び番号を睨み付けていた。


 …あぁ、なんだかこんな状態私らしくないな。


 らしくない。らしくない。

 こんな風に一人でいる時間ですら誰かに振り回されるなんて、私らしくない。

 そう思うのに、デイビットのことを考えることを、やめられない。


 …契約魔法って従うべき立場の精神に、何らかの影響を及ぼしたりもすんのかしら。主に関する忠誠心を知らないうちに根付かせるとか、そう言う感じで。

 未知な部分が多い魔法って恐ろしいな。ちょっと、明日からもう少し契約魔法に関して調べてみよう。知らぬ間に恐ろしい魔法作用が私を蝕んでたらと思ったら、とても怖い。



「――せめて信頼できる情報屋でもいたら、本人に確認しなくてもそこから情報買うんだけど」


 仰向けに寝転がって両手で携帯を掲げながら、ため息交じりに一人ぼやく。


 情報の信憑性が高くて、守秘義務を徹底していて、おまけにデイビットの情報を上手く収集できる、そんな情報屋が学園にいれば……



 ………て、ちょっと待て。



「……いるじゃん」


 提供する情報はまず本物間違いなくて、メインの依頼内容が内容だけに守秘義務を徹底していて、おまけにデイビットの情報を収集する機会なんか腐るほどあるうってつけの情報屋が、いるじゃないか。


 私は慌ててベッドから身を起こすと、携帯電話の電話帳から別の番号を選び出して、躊躇うことなく通話ボタンを押す。

 電話は3コールで繋がった。


『―――はいはい、どないなご用件ですやろー?』


 携帯電話から聞こえるのは、聞き覚えがある間延びしたサイカ弁。


「…キエラ?依頼よ」


 そんな相手に、私は先日と同じ言葉を返した。



「また先日同様に通常の2倍の報奨金を払うから、明日の放課後4階多目的教室まで、足を運んで頂戴!!」



 ――さぁ、キエラにしか手に入らない、上質で新鮮な情報を、買わせて頂きましょうか。

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