マシェル・メネガという眼鏡4
ヒロインのイベント強奪。(それが意図的なものか、偶発的なものかは置いておいて)
それは、私が前世で嵌っていた乙女ゲーム転生(悪役及び脇役)小説における、定番イベント。
本来はヒロインといちゃいちゃきゃっきゃっする運命にあった攻略対象を、自身の恋人になる様に仕向ける行為。
どうやら悪役令嬢な私は、それをやってしまったらしい。
つまり今後を予測するに、これから起こるのは、マシェルと私のラブイベントだ。かつてゲームでやったラブイベントの数々が、ちょっと変質しながら、私とマシェルに降りかかるのだ。
戸惑いながらも、何だかんだで互いを気にしあう二人…マシェルのコンプレックスも何もかも受け止めて、優しく、時には厳しく、マシェルを叱咤する私に、マシェルは徐々に魅かれていき。私は私で、素直になれないマシェルの本当の姿を知って、だんだんそんな彼に胸をときめかすようになり…そしてやがて二人は…
…ん、ちょっとマシェルオチな未来を想定してみたけど
ね - な !!
あ り え ね - な !!
だってマシェルだよ?あの堅物むっつり陰険嫌味糞野郎だよ?
別に攻略対象奪取という行為自体は、非難する気ないさ。運命がどうであれ、くっつく前なら略奪愛ですらない。倫理に反する行為じゃない。
私だって、「結婚相手は別に愛が無くても…」とか分かったようなこと言いながらも、本心ではハイスペックイケメンにめちゃくちゃ愛されて、グータラしてても勝手に幸せにしてくれる未来とか望んじゃってたりする。ヤンデレとかだって、状況次第では全然歓迎だ。ダラダラ自由にニートのごとく暮らさせてくれるなら、いくらでも監禁してくれても構わん。捨てられない保障とかあるなら、喜んで籠の鳥になってやるさ。
だから、他の攻略対象の誰かと、ヒロインのポジション奪ってくっつくのは、正直やぶさかではない。寧ろ嬉しい。歓迎するよ。存分に、私を愛してくれたまえ。
――だけど、マジメガネ野郎
て め ぇ は 駄 目 だ !!
あいつは入学して以来、私にヘイトを貯めさせ過ぎた。いくら今後めちゃくちゃデレ期が来たとしても、多分絆されないんじゃないかという程に。傍に来ただけでイラつくんだ。どんなイベントが起きようが、恋に落ちる未来がまず想像できない。
そもそも、性格的に合わんのだ。小姑のように細かく神経質なあいつと、基本グータラ適当な私。相性がいいはずがない。
万が一、億が一、兆が一、奴に惚れることがあったとしてもだ。奴の実家、メネガ家はあいつのようなマジメガネどもの集団なのだ。そんな家に嫁ぐ、もしくはマシェルを婿に貰って家ごと親戚付き合いをするようになる…想像しただけで、胃が痛くなる。か弱く繊細な私には絶対無理だ。御免こうむる。
うん、どんなにイケメンだろうが、ハイスペックだろが、無理なもんは無理なんだね!!初めて知ったよ!!
「イベントを…エンジェちゃんにイベントをちゃんと起こしてもらわねば…」
ゲームの強制力は、一体どんな方向に働くか分からない。
もしかしたら、イベントを奪取した時点で、既にマシェル×ルクレアの物語展開は始まっているのかもしれない。
全力でそんな状況を回避しなければ。
その為には、イベント奪取自体なかったことにするために、ちゃんとエンジェちゃんにラッキースケベイベントを起こしてもらわねばならない。
「――てか、気が付いたらいつの間にかエンジェちゃんいないし!!」
先程水をぶっかけた場所から、いつの間にかエンジェちゃんが忽然と消えてしまっていた。
今ならまだ、マシェルを追っかけて、エンジェちゃんの元へ誘導できると思ったのに、なんと言うことだ。
あかん、すぐに探さねば。
全ては私の明るい未来の為にっ!!
そうして、私はエンジェを探すべく走り出した。
その時点でもう、明るい未来への道など、とっくに残されていないことなど、知る由もないままに。