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ダーザ・オーサムというショタキャラ22

『――どうも、私は貴様が気になって仕方ないらしい』


『お前を見掛けたら、私はお前に話しかけにいく。だから、お前もそのつもりでいろ――ルクレア』


 久しぶりにマシェルと対峙した瞬間、あの時のマシェルの言葉が、鮮やかに脳内再生される。

 途端、胸の奥から湧き上がる戸惑いを、必死で抑え込む。


 …落ち着け、落ち着け、私。


 びー・くーるだ。びー・くーる。


 私はルクレア・ボレア。一般人ではきやすく口説くことも出来ない、高貴な身分の高嶺の花。


 マシェルごときに、動揺されられたりなんかしない。


「…あら。随分健闘なさったと思いますわ。今までは、とてもライバルだとは言えない点数差でしたもの」


 胸元から取り出した扇で口元を隠しながら、ことさら厭味ったらしく言い放ってみせた。


「ボレア家の私の真下に名前を連ねられただけ、誇りに思ってはいかが?…まぁ、この先未来永劫、貴方の名前がそれよりも上の位置に名を置かれることなぞ無いでしょうけど」


 口元に嘲笑を湛えながら、私はマシェルを挑発する。


 --さぁ、マシェル。怒るといいさ。


 つい先日までの、私と対峙していた時同様に、冷静さを失ってみっともなく怒鳴るがいいさ。

 その方がずっと、マシェルらしい。

 どうか、これ以上、私の心を掻き乱さないでくれ。


「………」


 しかし、マシェルは私の言葉に特に反応を示さず、黙ってまじまじと私を見つめてきた。

 向けられる視線の意味が分からず、思わずほんの少し後ずさる。


「…急に黙りこくって、いかがされましたの。淑女に対して、そのようにじろじろ眺めるのは、不作法ではありませんこと?」


「--すまない。久々にお前と顔を合わすことが出来たな、と思ったら、思わずお前の顔を見つめてしまった」


 不快気に吐き捨てた私の言葉に、すぐさまマシェルは謝罪の言葉を口にして頭を下げる。

 そして顔をあげたマシェルは、私の顔を真っ直ぐ見つめながらはにかむように笑った。


「久しぶりに、お前の顔が見れて、嬉しい」


 ……びー・くーる。びー・くーる。

 大丈夫。一瞬心臓思いっきし跳ねたけど。なんか顔が熱い気がするけど、まだ大丈夫。まだ、抑えられる。まだ、誤魔化せる。

 …大丈夫だ、大丈夫。これしきの言葉なんか…ねぇ?


「お前の顔をみて、今初めて気が付いた…俺はここ暫くお前に会えなくて、随分淋しかったようだ」


 ………びいくうる…びいくうる。

 だいじょうぶ…キット、ダイジョウブ…


「--ルクレア」


 マシェルは、どこか含みを持たせて私の名前を呼びながら、固まる私の手を取った。


 …び…び…びびび…ぃ、くぅ……


「会いたかった」


 そう言って、手の甲に口づけを落とされた瞬間、頭の中が真っ白になった。


 必死に抑え込んで熱が僅か一瞬でに顔に集中し、顔中を朱色に染め上げる。

 心臓がうるさいくらいに、激しく鼓動を打った。


 …な、なにしだすんだ…!!こいつはぁぁあああ!!


 思わず反射的に、マシェルを振り払う。

 マシェルは一瞬体勢を崩すも、すぐにバランスをとって持ち直した。


「な…な…なにを…急になさるの!?」


「…何をって、ただの挨拶だろう?貴族の挨拶で手の甲に口づけなぞ、普通だろう」


「…確かに正式な作法ではそうですわね!…でも、それはあくまで儀礼的場面、もしくは初対面の場合でしょう…っ!!たかだか十数日ぶりに顔を合せた、知人同士の挨拶ですることではありませんわ…っ!!」


 平然と言い放つマシェルを、きつく睨み付けた。

 声高にマシェルを批難する一方で、自らの怒りが正当性のない明後日なものであることを、頭のすみっこでは気付いていた。

 手にキスなんて、この世界では、上流階級の社会では、当たり前のことだ。

 状況に相応しい行動ではないかもしれないが、だからと言って別段マシェルを責めるようなことではない。前世の記憶をもとに例えるなら、少しだけ久しぶりに会った友人が、なぜか床に三つ指をついて頭をさげて挨拶をしたようなものだ。

 違和感はあっても、非難されるようなことではない。だから、ここで怒るのは、ちょっと大げさすぎる。


 分かっている、分かっているのに。なのに、冷静ではいられない。


「そんなに怒るなんて、どうしたんだ。ルクレア…もしかして、照れているのか?」


 からかうように告げられた言葉に、一層熱が顔面に集中した。


 ――分かっていても、恥ずかしいもんははずかしいんだよぉおおお!!!

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